誰でもできる企業評価と株式投資
・アナリストをやっていると、儲かる銘柄を教えてほしい、と聞かれる。私はいつも同じ答えをする。「教えません。すぐに蔵が建ってしまうから、それは本人にとってよくありません」とジョークで返す。プロを自任しているので、儲かる銘柄を当てることは容易にできる、と勝手に思っている。
・では、どういう企業の株価が上がるのか。これは明瞭で、業績の伸びる会社の株が上がる。それは当たり前だ、と感じるかもしれない。しかし、過去に業績が伸びた会社を調べることはすぐさまできるが、これから10年間、業績がしっかり伸びる会社を見極めることはかなり難しい。
・過去10年伸びてきた会社は、今後も伸びるだろうか。強い仕組みや能力を備えているのだから、これからも伸び続ける可能性は高いといえるかもしれない。でも、世の中を見ると、環境が変わり、ニーズが変化し、競争条件が一気に不利になる、ということも頻繁に起きている。
・とすると、先行きは分からない。分からないことに投資はできない。大事なお金を1円でも損するのは嫌だ、というように考え、株式投資はやらないという人も多い。分からないので自分ではやらないが、投資信託を買ったり、ラップ口座などの相談型お任せ運用にお金を託したりする人は増えている。でも、1年に数回の下げ局面、数年に1回の大きな下げ局面で損が発生し、その後中々取り戻せない人もいる。
・金融機関は顧客のニーズをよく汲み取って、的確な商品を提案するという。しかし、高い手数料や運用フィーをとって、パフォーマンスが悪くても自分は儲かる仕組みを作っているのではないか。こうした運用を信じて託した投資家はあまり報われない、ということもいわれる。金融庁はこれを問題にしている。
・どうすればよいのか。投資家サイドから考えてみよう。まずは、自分の所有する資産・負債をすべて時価評価してみて、株式投資に使える金額をはっきり定めることである。次に、株式投資をして、いくら儲けたいと思うか、いくらの損なら許容できるか、を明確にすることである。1円でも損するのが嫌だ、という人は株式投資に向いていないので、損に対する考え方を見直す必要がある。
・3つ目は、局面によって、株式投資に損はつきものであるが、いくつかの銘柄を組み合わせて「損して得取れ」が実現できるようになる。4つ目は、個別の株価は常に上下しているが、自分が関心を持った株価をウォッチして、何で株価が動くかを知ろうとすることである。毎日の株価が何で動いているかを知ることは相当難しい。単純に言えば、買う人が多いから上がり、売る人が多いから下がるのであるが、そんなことはさして気にしなくてよい。
・1000円の株が500円になったとすれば、それはなぜか。1000円の株が2000円になったとすれば、何でか。このくらいの大きな変化なら、外からみていても分かる場合が多い。為替が大幅に円高に振れた。新技術を開発して有望らしい。今度の新サービスが当たっている。公表された業績が従来の見方と違って、大幅減益になったが、それが続くらしい。自社株買いを発表して、配当政策を全面的に見直すという。新しい社長は有能で、会社の構造改革が成果を上げそうである。M&Aの対象になって、買収が本決まりとなった。等々、いろんなことがありうる。
・これらはいろいろな事象であるが、1つはっきりしていることがある。業績が今後大きく伸びるか、大幅にダウンするか。それにどのくらい影響してくるのかを反映する。目先ではなく、中長期な業績の変動を、①会社が自ら起こすか、②外部の他社によって引き起こされるのか、③マクロ的な政治経済環境の激変によってもたらされるか、をみていく必要がある。
・社会で10年、20年仕事をしてきた人、家庭で10年、20年生活のやりくりをしてきた人なら、誰でも株式投資はできる。これまでの経験を通して、①人(経営者)を見る目は必ずもっている、②社会に役立つ事業として伸びるかどうかを判断できる分野(成長領域)を身の回りで必ずいくつか見ている、③その会社で働いている人(社員)が生き生きしているかどうかを知る機会もありうる、④会社が投資家(株主)のことを大事にしているかどうかも知る機会もある。
・会社は必ず社会的役割を担っている。そうでなければ長く存在することはできない。ここがピンとくるかどうかが大事である。次に、企業として長期的に金儲けがうまくできそうかを見る。企業は、何らかの価値を作り続け、それが世の中に受け入れられて初めて、利益を上げることができる。この利益は、企業が事業に投資したリターンであり、株主はその企業に投資しているので、株主のリターンでもある。そのリターンを一定程度しっかり上げてくれるならば、株を持っていて安心できる。
・つまり、日々の株が多少上がっても下がっても、数年に1回大きく下がっても、その会社の仕組みがビクともしていないなら、一喜一憂する必要はない。下がった時に買い増しをすればよい。一方で、会社の事業の仕組み(BM、ビジネスモデル)にガタが来た時には、さっさと手を引く必要がある。
・どの会社もBMが常に盤石とはいかない。絶えずBMを磨いて、新しい動きを作り出していく必要がある。このBMが、企業価値創造の仕組みである。まさに、BMとは長期的に社会的価値と経済的価値を作り出していく長期の金儲けの仕組みである。
・具体的にどうすればよいか。まずは個人投資家説明会に出かけてみることである。そして、社長の話を聴いてみる。次に、社長の話にピンとくるものがあったら、その会社を投資対象のリストに入れて、しばらく関心を持って見ていく。その上で、納得できそうであったら、最小単位で株を買う。株主になって、会社をよくみていく。株主総会にも行ってみる。そこで自信が持てたならば、株式市場が大きく下がった時に、その会社を買い増していく。
・このようにして、数年で10銘柄ぐらいに増やして、ポートフォリオを構成していく。これが、自分の日本株のコアポートフォリオである。大事なことは、株価に捉われることなく、その会社の中身をよくみていくことである。同じ銘柄でも、上がってきたらある程度売り、大きく下がった時には買い足せばよい。会社が曲がってきた時には、最小単位まで減らして様子を見ていけばよい。
・誰でも企業評価はできる。そのコツさえ磨いていけば、株式投資で適度なリターンをあげることはできる。このポートフォリオをマネージしていくという適度な緊張が長生きの秘訣ともなろう。企業を評価する時の4つの視点(ベルレーティング法:①経営力、②成長力、③持続力、④業績変動への対応力)を活用すれば、誰でも腕を磨くことができよう。ぜひ自分で判断してほしい。