デジタルトランスフォーメーション~コニカミノルタのB to B to P
・コニカミノルタの山名社長の話を聴く機会があった。松崎取締役会議長(前社長)からコーポレート・ガバナンス(C G)の講演を聴いたことは何度かあり、その徹底ぶりに感銘を受けた。C Gのよさを踏まえて、成長戦略はどうか。これもかなりユニークである。
・現在までコニカは140年、ミノルタは90年の歴史を有する。2003年に合併し、3年後には写真フィルムとカメラからの撤退を決めた。B to C(消費者向け)の事業から手を引いた。2015年度で、売上高1兆円、営業利益600億円、ROE 6.1%である。売上高の81%が情報機器(カラー複合機などのオフィスサービス、商業・産業印刷)、9%がヘルスケア(超音波画像診断装置、医療ITサービス)、10%が産業用材料・機器(フィルム、計測機器、レンズ等)である。
・2016年度は中期計画の3年目であるが、当初目標とした営業利益900億円、売上高営業利益8%、ROE 10 %以上には届かず、同550億円、同5.3%、同7.2%に修正している。
・これまでを振り返ると、カラーフィルムはデジカメの登場により、5年で市場は半減し、今やなくなってしまった。そのデジカメは、スマホの台頭で、3年で需要が半減した、一方で、グーグルやウーバーの登場にみられるように、業界のルールが破壊されるデジタル・ディスラプション(デジタル技術の活用による業界破壊)が頻繁に起きている。業界ではなく、業際(境界領域)が問われている。
・当社は、課題解決型のデジタルカンパニーにトランスフォームすることを目指している。プロダクトを作るという従来のモデルから脱皮して、サービスも含めてアジャイルに(迅速に)ソリューションを提供する、そのためには、B to B(法人業務用)といえども、その先にいるP(Person、顧客)をみる必要がある、これを山名社長は、B to B to Pへの転換と称している。
・そのために、3つのことに力を入れている。1つが、サイバーフィジカルシステム作りである。フィジカル(現実)はアナログである。これにサイバー(デジタル)を取り入れて新しい顧客価値を提供していく。そのためには、現場に近いところにデバイスが入っていく。強みとなるエッジ(切れ味のよい競争優位)で足らないものは、オープンに他社と組んでいく。
・例えば、何らかの状態を継続的に監視する状態監視領域では、光学センサーが必要であり、画像処理が求められる。360度カメラやサーマルカメラが重要であり、カメラを通して行動分析を行っていく。ケアサポートでは、介護センターの負担をいかに減らすか。排泄、寝返りなどの動きをマイクロ波センサーでデータを取り、AIのDL(ディープラーニング)を活用して、必要な介護の予測を行う。在宅の時からデータをとり、かかりつけ医をサポートする。病院に入院する前から分析していく。こうしたことができそうである。
・2つ目は、デジタルマニュファクチャリングである。全く新しいものづくりである。工場の中を繋ぐだけでなく、もっと上流から下流までを繋いでいく。かつては、コスト競争力の確保を求めて、多くの製造業が中国に工場を移した。中国の人件費が上がったのでベトナムへ行く。その次はミャンマーかラオスか。これでは解決にならない。国と場所を超えた製造システムを作ろうとしている。
・直接作業はモノであり、間接作業はコトであると山名社長は言う。これをきちんとコントロールできるようにする。実際、コニカミノルタのマレーシア工場は、東京からコントロールできる。生産プロセスのすり合わせは自動調整するようにした。そうしたら工数は4分の1になった。鍵は、見えないものをいかに見える化することであると強調する。
・3つ目は、異能な人材によるオープンイノベーションである。世界5カ国にBIC(ビジネスイノベーションセンター)を設置した。日本で担当者が調べて、分厚い企画書を6カ月かけて作っても、社長の意思決定には役立たないことが多い。そこで、3年前に新しい仕組みを作ることにした。
・当社の売上の8割は海外である。シリコンバレー、シンガポール、上海、英国、東京の5極に拠点を置いて、異分野の異能をトップにおいて、新しいビジネスを作っていくことにした。この3年で100近いプロジェクトが動き出している。においの見える化(hanaセンサー)、AR(拡張現実)、おまわりロボットなどいろいろありそうだ。
・技術は非連続であると、山名社長は言う。新しい技術がそのままビジネスになるわけではない。そこで、全社員に対して「Innovation for ?」と訴えている。つまり、何のためのイノベーションか。4.3万人の社員が、どう提案したら顧客のビジネスをトランスフォームすることができるか。それに刺さるアイディアを全員で考えて提案する。
・例えば、「愛のため」→天体プラネタリウム、「花嫁の父のため」→フォトアルバム、「いのちのため」→オキシメータ(脈拍数と経皮的動脈血酸素飽和度をモニター)など、新しい広がりを求めていく。
・デジタルトランスフォーメーションは、IoTに代表されるように、モノのつながりをイメージしがちであるが、それでは不十分である。イノベーションを通して、いかにヒトとのつながりに革新をもたらすか。B to B to Pこそコニカミノルタのイノベーションの目指す方向であると改めて感じた。