エムスリーの3次元経営~ビジネスモデルの変容

2016/05/23 <>

・エムスリー(M3、コード2413、時価総額1兆円)は医療業界でリーダーシップを発揮し、新しい付加価値を創造している。業績は躍進を遂げている。成長株の代表なので、投資家はいつ成長に陰りが出るかということを最も気にする。しかし、新しい価値創造を続けるために、ビジネスモデルの変容を内在化させようとしているので、今のところ陰りは見えない。

・ベンチャー企業は1つの商品や1つのサービスで一世を風靡しても、それがずっと続くわけではない。提供する商品サービスの競争力を保持する形で広げ、マーケットもローカルから全国へ、そしてグローバルへと伸ばしていくことが求められる。この商品サービスと市場を軸とする2次元で成長を遂げよう、というのが普通の企業の姿であろう。

・ここにもう1次元を加えることができるか。つまり、ビジネスモデルにおける価値創造の仕組みの高度化である。M3はそれを実践している。一般論としていえば、1)商品サービスを提供して、何らかのフィー(手数料)を貰うレベル、2)その商品サービスが本当に役立ったのであれば、その成果に見合って成功報酬を受け取るレベル、3)さらに、商品サービスを提供する先に直接投資して、オーナーシップを握り、自社の経営資源とのシナジーを活かして、新しい価値を丸ごと創り出すというレベルである。

・①商品サービスの多様化、②マーケットのグローバル化、③ビジネスモデルのハイアラーキ―化(階層化)、によって、成長の限界を突破しようというのが、M3の基本戦略である。KPIは利益率30%である。1)提供しようとする商品サービス、2)マーケティングする市場セグメント、3)価値を生むドライバーであるビジネスモデルが、本当にユニークであれば売上高営業利益率で30%は出せるはずである。

・もし出ないとすれば真にユニークではない可能性があり、そういうビジネスはやらない、と谷村格代表取締役は明言する。しかも、その付加価値の創出について、1)フィービジネスを10とすると、2)成功報酬ビジネスは50、3)オーナーシップ保有ビジネスは100のリターンを生み出す、とみている。

・ヘルスケアのネットサービスにおいて、最初の10年は「MR君」に代表されるように、人界戦術型の医薬品メーカーのMR(医薬情報担当者)を、ネットに代替させるビジネスで急成長を遂げた。MR君を通して日本のほとんどのドクターと繋がりを築いたので、次のフェーズとして、それをベースに医薬品の臨床検査(治験)に参入した。後発ながらM&Aを活かして、あっという間に業界トップクラスに伸し上がった。

・しかも、治験が早い。つまり、新薬の治験のデータが圧倒的に早く集まる。欧米のグローバルな医薬品メーカーから、日本の治験は遅いとみられていたが、海外よりも早く進む事例が出始めている。データが早く集まり、しかもスピードが上がれば、治験の枠も増えるので、生産性はより高まる。治験の利益率は、買収前の企業では10%もいかなかったものが、今では20%に高まり、次は30%を目指すことができよう。

・医師や薬剤師のキャリア(転職)ビジネスも急性長している。ここに登録すると、とにかくリスポンスが早い。すぐに転職の候補が返ってくる。どのくらい早いか。ネットに情報を載せると、数分でリスポンスするという。この早さがコネクションを深めるコツで、ここから全国のネットワークを活用して転職先を提案していく。

・M3のドクターのネットワークは世界に広がっている。日本では25万人と、ほとんどの医者と繋がり、圧倒的である。米国、英国、韓国でもドクターの70~80%は抑えた。中国へは2013年に参入して、はや150万人が加入、全国の医者の6割を占めるに至っている。

・世界合計では既に350万人がM3 のネットワークに加入している。この繋がりは、グローバルにみて断トツトップである。このネットワークを活かして、各々の国の実情に合わせながら、ビジネスを次々に拡大しようとしている。

・M3は現在第2期の成長期にある。第1期はネットビジネスであったが、第2期はネットのプラットフォームを活かしながら、事業のオペレーション(運営)を所有し、展開している。治験でいえば、CRA(臨床開発モニター)を実際に抱えて、治験のe化を推進している。

・そして、第3の成長路線の離陸を目指して、「シーズロケット事業」を開始した。従来から谷村社長はヘルスケア分野のPE(プライベートエクイティ)投資を行うと言っていたが、マイナー投資ではなく、マジョリティを持つことを実践している。つまり、自社の経営ノウハウをフルに活用することで、新しいベンチャー型事業分野の経営をリードして、一気に成功に持ち込もうという作戦である。

・その第1号案件が、メドテックハート社への投資である。この企業は大学発ベンチャーで、磁気浮上遠心タイプの体外式補助人工心臓の実用化を目指している。従来は回転軸があったので、血液が固まらないように2時間ごとに軸部品を交換する必要があった。この機器は磁気で浮かすので、連続して2カ月ほど使える。この会社の株式を85%所有した。

・こうした新事業のパイプラインを5本、10本と増やしていく方針である。M3が入ることで、事業化のコストが安くなり、その期間も圧倒的に早くなって、成功の確率が高まる。そういう事業に厳選して投資する意向である。

・こうした3次元のビジネスモデルを創りながら、中期的に売上高1000億円(2016年3月期646億円)、営業利益300~400億円(同200億円)を目指していくことになろう。M3 とは、①Medicine(医療)、②Media(メディア)、③Metamorphosis(変容)の3つのMを意味する。まさにM3のビジネスモデルの変容に投資したい。

・機関投資家向け決算説明会で、目先の決算と来期の見通しだけでなく、価値創造の仕組みであるビジネスモデルの進化についてきちんと説明している。その説得力は高く評価できよう。

 

 

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