ここからの企業経営改革~投資家が知りたいこと

2016/03/17 <>

・投資家として企業を見る時、その投資価値をより正確に理解したいと思う。しかし、外部から投資価値を的確に知るのはなかなか難しい。企業価値と投資価値は立場によって見方が変わる。経営者は自ら経営する企業の価値をより高めたいと手を打っていく。

・投資家はその企業の将来価値を評価し、今投資するとして、十分なリターンが得られるかどうかを判断する。究極的には企業価値と投資価値は同じ土俵に立つが、局面によっては意味が違ってくる。

・企業価値を考えるに当たっては、4つの軸でみていくと分かり易い。1つは、企業のマネジメント力である。社長の経営力が十分かを判断する必要があるが、すぐには難しい。ビジョンと構想力、戦略と実行力を具体的にみていくことが求められる。それには時間を要するが、結果としての財務数字をみて善し悪しを判断するのでは遅い。

・そうすると、社長の選ばれ方が重要な要素であると分かる。現社長が後任を一人で選ぶのではなく、社長以外にも客観的に判断してほしいと思う。その仕組みを持っているか、それが機能しているか、を知りたい。

・2つ目は、企業の成長力を作り出すイノベーションへの取り組みである。イノベーションとは狭い意味の技術革新ではなく、もっと広く捉えた企業価値を作り出す仕組み革新である。現在その企業をリードしている成長エンジンも、いずれ息切れしてくる。エンジンのオーバーホールが必要であり、次の新しいエンジンへの交替も求められる。

・多くの場合、このイノベーションへの取り組みが不十分である。1)大いに取り組んでいるが、成果が出るのに時間を要する場合、2)革新的な取り組みへ挑戦せず、現状に甘んじている場合、3)マネジメントは革新的と考えても、リソースが十分でなく、成果が期待できない場合など、いろいろありうる。ここを知りたい。

・3つ目は、企業のサステナビリティ(持続性)を支える仕組みである。ESGやCSRについて、会社が本気で取り組んでいるかどうかが問われる。環境、働き方、ガバナンスに対して、理念を持って行動していくことが求められる。

・ベンチャー企業や上場したての企業にあっては、サバイブして一定の成長軌道に乗ることが大事であって、サステナビリティについて考える余裕などない、という企業も多い。その時は、企業の発展ステージによって、求められる水準を上げていってよい。大企業と中堅企業では実践のあり方が異なってよい。しかし、経営者の理念や行動には、ESGやCSRに対する姿勢が包含されている場合が多いので、こうした視点も含めて経営者をみていく必要がある。

・4つ目は、パフォーマンスに関するリスクマネジメントである。端的に言えば、企業業績が予想以上に大きく伸びるのもリスクであるが、突然大損するのはもっとリスクである。業績の大幅な変動をいかにコントロールしていくか。そのリスクマネジメントをしっかりできる仕組みを持っているかどうかを知りたい。

・これらの4つの軸が一体となって、企業価値創造の仕組み、すなわちビジネスモデルが構築されるので、投資家はその頑健性と進化の内包性に注目する。ここでいう進化の内包性とは、今のビジネスモデルが次のあるべき姿に向けて自ら進化を遂げるように、自律的に動く仕組みを内包していることを指す。どの企業も完璧で万全というわけではない。常に課題を抱えているのが普通であり、対応に呻吟している場合も多い。

・投資家は、課題を抱えていることを受け止め、どのように手を打っていくかを知りたい。それが信頼でき、納得できるものであれば、投資をしたくなる。企業価値創造のサステナビリティが腹に入れば、中長期の株主になりたいと思う。

・では、取締役会では何を議論してほしいか。まずは社長を中心にした執行サイドで、この4つの軸について、改革実行案を議論し、徹底的に詰めてほしい。その上で社外役員の目を通して、改革実行案をより頑健で革新的なものに仕上げていく。先進的すぎる場合は、ブレーキが必要かもしれないが、もっとアクセルを踏むことができるような備えを整えてほしい。

・取締役に期待するものは3点ある。1つは、業務執行を担当する取締役は、自らの領域において中長期の手を打ってほしい。とかく今期の成果に全力投入しがちである。中長期の手を打たざるを得ない仕組みを自ら提案してほしい。ストレッチが求められる。

・2つ目は、取締役はROE経営を理解して、それを現場の社員にまで浸透させ、実践できるようにしてほしい。ROE経営とは何か。ステークホルダーにはさまざまな立場があるが、株主のことをよく考えて、株主が求めるリターンを上げることである。株主は資本の提供者である。彼らは投下資本に対して、一定のリターンを上げてほしいと考える。リターンの源泉は利益であるから、ROEで8%を超えるような利益を上げることが必須である。

・誤解をしないでほしいが、株主至上主義、ROE至上主義を唱えているのではない。株主が一番大事で、他のステークホルダーはその次といっているのではない。株主も同等に大事にしてほしいという意味である。また、会社が掲げるKPI(重要経営指標)の中で、ROEを一番にせよといっているのではない。他のKPIと同等に、整合性のある形で重視してほしいのである。

・そして3つ目は、ROE経営を超える経営に取り組んでほしい。KPIは大事であり、必達してほしい。事業はポートフォリオであり、そのバランスが求められるので、新しく生み出す事業とともに、集約撤退する事業があって当然である。その新陳代謝の中で、企業は持続的にサバイブしていく。

・企業にとって最も大事なことは、新しい企業価値を生み出す組織能力を常に高めて、人材を活かし、雇用を拡大していくことである。ROEの極大化が目的ではない。しかし、資本コストからみた一定のROE(例えば8%)が長く未達であるとすると、それは価値破壊企業となって、社会的な存在価値すら問われてしまう。

・ROE 8%を超えた企業は、欧・亜並みの12%を目指してほしい。その次は米国並みの15%が目標となろう。業種によっても目標とすべき水準は異なるので、企業が自ら設定すればよい。何よりも大事なことは、ROEという経済的価値のKPIをクリアにした上で、一段と社会的価値の創造に邁進してほしい。企業価値は経済的価値と社会的価値が統合したものなので、ROEでは測れないより質的な価値を含んでいる。

・取締役は本来、経営執行の代表である社長を取り締まる。すなわち、監督する。社内取締役は、通常社長の部下で業務執行を分担している。取締役会の時だけ、社長を取り締まれ、互いに他の取締役を監督せよといっても、いざという時には無理がある。そこで、社外取締役が複数いて、執行サイドを監督することには大いに意味がある。

・社長の中には、社内のことがよく分かっていない外部の人にいちいち説明するのは面倒である、決められた仕組みであるから最低限のことだけ対応すれば十分である、という人もいよう。しかし、それでは、投資家からの信頼は得られない。たとえ当面の業績が上がっていても、その持続性を支える仕組みに信頼がおけないからである。

・社外取締役の重要な役割の1つは、少数株主の利益代表にある。オーナー型の中堅企業でも、社内役員が順番に社長になる大企業でも、経営判断が少数株主の利益を阻害してはいないか、という視点は決定的に大事である。筆者は2社の社外取締役を担っているが、いつもこの視点を重視して取締役会に臨んでいる。

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