都市の発展~東急の渋谷開発
・9月に2015年の基準地価(国土交通省)が公表された。全国の地価はまだ下がっているが、東京、大阪、名古屋の三大都市圏は上がっている。全国の商業地は前年比-0.5%であったが、三大都市圏は+2.3%、その中でも東京都は+3.3%となった。
・住宅地の県別価格はその差が著しく大きい。東京都を100(平均32.4万円/㎡)とすると、神奈川54、大阪45、埼玉33、京都32、兵庫31、愛知30、北海道6である。例えば、筆者のオフィスがある日本橋人形町は1㎡当たり124万円、自宅のある世田谷区桜は58万円、故郷の福島県会津若松は6万円である。
・どこに住むのが快適か。生き方、仕事、家庭など、それぞれの理由によって意見が分かれよう。自分の思うようにならないことも多い。安全・安心、故郷、老後、子育てといった局面によっても選択肢は異なろう。
・最も地価の高い東京の再開発はどんどん進んでいる。古いビルが高層ビルに建て替えられている。新しいビルは耐震性を始めとする防災や、オフィス・居住機能としての快適性にも優れている。誰でも新しく便利なオフィスで働き、ファッショナブルな街の近くに住みたいと思うであろう。
・街の付加価値をいかに高めるか。その再開発が活発化している、その中で、渋谷はどうなるのか。東急電鉄(東京急行電鉄)の濱名取締役(都市創造本部)の話を、アナリスト協会で聴く機会があった。いくつかの注目すべきポイントを採り上げてみる。
・東急電鉄のビジネスモデルは、「不動産開発の街づくり」と「鉄道の敷設」によるスパイラル効果の創出にある。①交通事業、②不動産事業、③生活サービス事業を三位一体として、シナジー(相乗効果)を追求している。
・近年の沿線開発では、二子玉川ライズが注目される。構想から30年余りをかけて、今年7月に全体が完成した。店舗、住宅(高層マンション)に加え、オフィス、ホテル、シネマコンプレックスなどが整った。楽天の本社が集結し、蔦屋家電がオープンしたことでも話題を集めている。週末に二子玉川へ行くと、ヤングファミリーでいっぱいである。ここにオフィスが大移動してきたので、全く新しい街に仕上がっている。
・東急電鉄の起点である渋谷は、鉄道の乗降客数で新宿に次いで2位、池袋を凌いでいる。1日当たり300万人を超える。東急線沿線には520万人が住み、一人当たりの所得は全国平均の1.5倍である。年収1000万円以上の世帯も首都圏の2割を占める。
・渋谷はIT・クリエイティブ系産業の集積が進んでいる。2000年以降に設立された東京都のIT企業数で、渋谷区は最も多い。IT企業2317社のうち渋谷区が588社を占めた。また、インバウンド(来日外国人)の訪問率では、新宿・大久保、銀座、浅草に次いで、渋谷は第4位(42.6%)で、丸の内・日本橋、秋葉原よりも多い。欧米系の人々が多いのも特徴である。
・一方、課題はインフラの脆弱性にある、と濱名取締役は指摘する。その内容として、1)駅施設の老朽化、2)バスターミナルの交通立地、3)谷地形での浸水・冠水被害、4)バリアフリーが不十分、5)乗り換えの不便、6)歩行者空間の不足などがあげられる。
・もう1つの課題は、オフィス床の不足である。大規模オフィスの供給が有力企業の成長スピードに合っていない。グーグルやアマゾンは渋谷から出て行った。ラインも間もなく出ていくかもしれない。成長に見合ったスペースが用意できないと起こりうる。逆に、新しいビルが建つと、そこには成長企業が移ってくる。街のインフラが、新陳代謝を加速することにもなる。
・東横線の地下化と副都心線との直通運転はすでにスタートした。かつての東急文化会館を渋谷ヒカリエに衣替えする再開発も完了した。今後は鉄道で、山手線ホームと埼京線ホームを近づけて並列化する。銀座線の乗り換え動線を分かり易くしてホームの拡幅を図る。この鉄道の整備は2027年に完成する予定である。東口広場、西口広場を1.3倍に広げる。渋谷川を改良して、雨水貯留槽(4000t)を2019年頃に作る計画もある。
・将来、「日本一訪れたい街 渋谷」の実現を目指す。これが東急電鉄のビジョンである。ヒカリエは2012年4月に開業し、オフィス、ファッション、レストラン、ミュージカル劇場「東急シアターオーブ」、情報発信拠点「ヒカリエホール」・「クリエイティブスペース」が活用されている。このオフィスには、DeNAの本社が入っている。オーブは2000席のミュージカル専用シアターである。
・渋谷駅には、東棟、中央棟、西棟を建てる。高層の東棟はオリンピック前の2019年度に開業を予定し、中央棟、西棟は鉄道との連携があるので2027年の完成予定である。地下2、3階が東横線、田園都市線、2階がJR、3階が銀座線で、縦の動線がコアとなってつながるようにする。また、1~4階の各階に歩行者の動線が出来て、渋谷界隈のビルに歩いて移動しやすくなる。多層な歩行者ネットワークを形成する考えである。
・渋谷区南(旧東横線ホーム)では、オフィス、店舗、ホテルの高層ビルを建設する。2018年秋に開業予定である。ここでは渋谷川の再生を図って、水辺空間を演出する予定である。道玄坂1丁目(旧東急プラザ)に新しいビルを建て、2019年に開業する。空港リムジンバスを含むバスターミナルが、ここで一新される。また、渋谷駅桜丘口(2020年予定)や宮下町(2017年度予定)では、住居も含めたビルを建設し、クリエイティブ・コンテンツ産業との連携を創出するという方針である。
・こうしてみてくると、オリンピックの2020年までに、主要なビルは完成し、人の動線は大幅に改善される。また、2027年に鉄道がすべて再整備されれば、ビルの縦の動線で鉄道間の移動もスムーズになる。オフィスや住宅の供給も大幅に増えるので、全く新しい街が形成されよう。ここでITやクリエイティブ産業が一段と発展すれば、新しい産業集積(クラスター)が大きな力を持ってこよう。渋谷をコアに、東急沿線には住みたい街がますます形成されてこよう。東急電鉄の街づくりに期待したい。