会社と会社の結びつきから企業を見抜く
少し前に、キヤノンの御手洗会長の講演を聞いた。「復興に向けた日本産業の課題」というテーマであった。今回の大震災によって、多くに企業が部品や資材の調達で影響を受けた。サプライチェーンは、企業と企業の絆(きずな)である。分業が進めば、このつながりは、一層重要になる。東日本はその意味で重要な地域であり、今回の事態で、この地域がさまざまな産業のサプライチェーンから抜けないようにすべきである、と強調していた。そのためには、平成の開国(TPPへの参加)、道州制の導入(東北で先行)、財政の再建(社会保障制度の持続性の確保)は避けて通れない、と御手洗会長は指摘する。
企業活動を支えるインフラの充実度や、そこで働く人々の生活のあり方は、国の制度や政策によって左右される。この仕組みがしっかりしていないと、企業も投資家も適切に活動できない。我々は企業の投資価値に関心がある。本当に投資に値する会社かどうかを見極めたいと思っている。同時に、国の仕組みやインフラがしっかりしないと海外からの投資は呼び込めないので、日本の魅力自体も低下してしまう。
最近日本企業の魅力は相対的に薄れ、アジアの企業の方がはるかに元気がよいと感じることも多い。では、アジアの個別企業に投資をするとして、日本の企業のように中身がすぐに分かるかというと実はそうでもない。投資信託でプロに任せればよい、というのは1つの方策である。
一方、日本の企業に元気がないといっても、上場企業の中には意欲的な経営を行っている会社も多い。実際、時価総額200億円以下の2500社の内、225社を調べてみたが、3割の会社は十分投資魅力を有している。日本の会社であれば、情報も日本語で豊富にあり、社長の話を直接聞くことができる機会も多い。その気になれば情報はいろいろある。投資家にとっての課題はさまざまな情報の中から、どのように自分の投資判断に役立つ情報をバランスよく取り出してくるかである。
会社はいろいろな情報を発信しているが、我々投資家が知りたい情報に合致しているとは限らない。伝えたい情報と知りたい情報には絶えずギャップがある。それをうまく捉えている投資家を「アナリストの素養を身に付けた投資家」と称しているが、是非そうなりたいものである。会社と会社の結びつき、サプライチェーンから視野を広げてみるのも選択眼を養うカギとなろう。