グローバル展開における持続的成長とは~トヨタのこだわり

2014/04/10

・トヨタの考える持続的成長とは何か。トヨタ自動車のグローバル事業展開について、その考え方を歴史的な変遷も含めて話を聴く機会があった。かつて自動車アナリストであった筆者にとって、実に印象深いものであった。企業のグローバル戦略を評価する時の重要な視点を与えてくれる。

・トヨタではグローバル展開を4つの時期に分けている。第1期は国内で日産と戦いながら、輸出中心に海外へ出ていった時代である。70年代後半から80年代前半の時期で、安くていい車を売ること自体が、貿易摩擦の激化を招いた。その頃に自動車アナリストをやっており、トヨタの米国現地生産の可否をサーベイしたことがあった。第2期は1984年にトヨタとGMが合弁で自動車工場(NUMMI)を設立し、86年にはケンタッキーに単独で工場を作った。トヨタ式生産方式を米国に持ち込んで通用するかどうかに挑戦した。現地生産をしなければ、貿易摩擦が終わらない状況の中での展開であった。

・第3期は2003年からで、日本を中心にして世界に車を広げていくという考え方ではなく、海外専用車を米国、欧州、途上国へと本格的に分けていった。年間1000万台を目指して、GMを抜くかという局面であった。第4期は2007年からで、新興国での事業拡大が本格化した。韓国の台頭など新しい動きの中で、人材や投資の多様化、意見決定のスピード化が問われた。今では、販売台数の半分が途上国となっている。

・こうした展開の中で、トヨタは“持続的成長”にこだわってきた。車はすり合わせ技術の固まりであり、投資金額は莫大で裾野も広い。常に「人間尊重」を基本とし、「知恵と工夫」を活かし、「現地現物」を実践していくのがトヨタウェイである。それがグローバルにはどう活かされているのか。

・持続的成長に対する考え方の違いが、GMとの合弁事業にみられた。NUMMIでは、カローラをベースに共同で商品企画を行った。モデルチェンジの時に、目標販売台数の考え方に差が出たという。トヨタはいい車を造る。作った限りは、きちんと20万台売ることを前提にする。一方、GMは出来栄えをみて販売台数と価格を考える。良ければもっと生産し、思うようでなければ工場のリストラをやればよいと構える。ここが大きな違いであった。

・では、新興国における持続的成長とは何か。新興国では社会・経済環境に何が起きるか分からない。いい時があっても3年とは続かないことも多い。それを覚悟で進出していくのが原則である。インドでの低価格車は当時惨敗したが、インドネシアの多目的車(IMV)は成功した。IMVの副次的効果として、現地の人材が育ってきた。タイでは、タイ人の社員が自発的に活動するようになった。それまでは何事も日本人中心であったが、タイトヨタは全く生まれ変わったという。IMVの生産工場は10カ国に展開するが、これはタイ人社員が他の現地工場に行って指導した。

・タイの輸出拠点化はうまくいっているが、南アや豪州は苦しんだ。豪州は通貨高で撤退せざるを得なくなった。その国の国内市場で確固たる地位を固めないと、輸出拠点としても十分使えないということである。1997年のアジアの通貨危機の時には、タイやインドネシアの工場を縮小せずに、歯を食いしばって頑張った。これが2000年以降、アジアで圧倒的強さを発揮する原動力となった。苦しい時にも逃げなかったことが、大きな成功に結びついた。

・アフリカはどうか。アフリカの市場は現在180万台で、タイとマレーシアを合わせたくらいの台数である。韓国や中国も進出しているが、トヨタは早くから取り組み、アフリカの厳しい環境でも使える車作りに力を入れてきた。今やアフリカ53カ国中、32カ国で販売実績№1である。

・海外工場の育成はどのように進めるのか。第1は、品質一番である。“変化点を極小にするマネジメント”に力を入れる。つまり、生産の安定化である。台数が安定しなければ、一定の品質を追求できない。そのために、ブリッジ生産という方式をとる。現地は安定生産して、需要変動には例えば日本の工場で対応するというやり方である。

・第2が原価低減である。現地の熟練度を上げ品質を安定させれば、原価低減も可能となる。日本の工場を見に来れば、アイデアはいろいろ出てくる。そして、第3が台数の拡大である。品質と原価がはっきりみえてから、生産台数の拡大を図る。これが、トヨタ流の優先順位である。

・しかし、これが崩れた時がある。2000年代に入って毎年50万台の生産増が必要になり、新工場が次々と立ち上がった。その時にリコール問題が起きた。米国では事実誤認もあったが、世の中では厳しい局面に立たされた。ここでの教訓は、「人と組織の成長のスピード以上に、成長を望んではいけない」ということである。機会損失で会社は潰れないが、ブレーキがきかなくなると、その反動は大きくなる。その後、2011年に出したグローバルビジョンを見ると、台数や収益の目標数値はない。“まち一番の自動車会社になろう”というビジョンで、分かり易い。

・新興国での事業拡大に向けて、2013年4月に新しい組織運営体制を敷いた。地域別、機能別のマトリックス型から、4つのビジネスユニットへ再編した。その中に第1トヨタ、第2トヨタをおき、第1トヨタが先進国を、第2トヨタが新興国を担当する。それぞれ副社長が全責任を持ち、即決即断できるようにした。新興国は、①今日の新興国(中国、タイ、インドネシアなど)、②明日の新興国(フィリピン・ベトナム・イラクなど)、③明後日の新興国(ミヤンマー、カンボジア、ケニアなど)に分けている。明後日の新興国では、中古車のサービスなどをやりながら将来に備える。

・一方で、持続的成長が長期安定志向であるとすると、それだけでは戦えないと戒める。①‘自動運転’では、テスラモーターズ、グーグル、アップルとの戦いになる、②新しい規則作りのようなルールメーカーによる支配では欧州が長けている、③撤退の勇気と自前主義からの脱却は覚悟を持って対応していく必要があるなど、断層的な変化への準備も必要であると強調する。

・同時に、絶対にぶれない軸も不可欠である。いいものは取り入れ、変えるべきものは変えていく中で、トヨタウェイの精神は伝承していく気構えである。世界の自動車業界の中で、トヨタは輝いている。トヨタ流の持続的成長を実践するグローバル経営に今後とも注目したい。

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