JPX日経インデックス400はスマート経営を反映するか
・近年さまざまな対象や事象に‘スマート’という言葉が使われるようになった。その意味するところは、‛インテリジェントで、迅速に、高性能な’特性をもつことにあろう。その点でいえば、スマート経営とは、「企業経営者が、感度のよいセンサーを有し、高度な情報処理をスピーディに行って、大胆な意思決定を行い、それを実行に移して、確固たる成果をあげる経営を行うこと」であるといえよう。現実のマネジメントがうまくいっているかいえば、必ずしもそうではない。多くの上場企業は呻吟しながら、前へ進もうとしているのが実態であろう。
・投資家と企業をつなぐ株式市場は、企業によい成果を出してほしいと願っている。ここでいう成果とは、持続的成長に結び付く企業価値の創造である。投資家の視点からみた時、重要な指標はROEである。ROEが一定水準より低い企業は、価値創造企業とはいえない。そこで、ROEを上げてほしいと常に望んでいる。企業サイドにもさまざまな言い分はあろうが、一定の水準を超えていないことには、その言い分に重みがないともいえる。
・株式市場を代表する指数(インデックス)にはいろいろある。日本の株式市場では、日経225(ダウ式平均株価)とTOPIX(東証1部株価指数、時価総額ウエイト)がその代表である。では、日経225やTOPIXに入っている会社は、日本を代表する会社として、持続的な価値創造を行っているいい会社といえるだろうか。
・日本の上場企業の3分の2はROEが8%以下の水準にある。8%以下ではいい会社といえない可能性が高い。そこで、もっとROEを上げて、資本効率の高い企業経営を行ってほしい。それを代表するインデックスを定め、そのインデックスをベンチマークに投資を考える方が望ましい。ということで、「JPX日経インデックス400」(以下JPX日経400)が開発され、スタートした。では、このJPX日経400がスマート経営をフルに反映しているかというと、そうでもない。市場を代表させるという点で、さまざまな要素が入っているからである。
・JPX日経400はTOPIXを上回るパフォーマンスを上げている。過去7年のデータをみると、TOPIXに対する超過リターンは年率0.8%、同トラッキングエラー(標準偏差)は同1.6%である。なぜパフォーマンスがよいのか。野村證券金融工学センターの徳野明洋氏が、「パッシグ運用ベンチマークの多様化とスマートベータ」という講演(日本証券アナリスト協会)の中で、その要因について詳しく解説してくれた。
・東証によると、JPX日経400は、1)3期連続赤字企業などを除き、売買代金などの流動性を考えて上位1000社を選び、2)3年平均のROE(ウエイト40%、利益率)、3年累計営業利益額(40%、利益規模)、その時の時価総額(20%、株価規模)で順位を決め、そこに定性評価を少し加えて順位(10社以内)を微調整する、3)そこから上位400社を選ぶが、浮動株調整時価総額加重ながら1.5%のウエイト上限があり、それがリバランスバンドとなる。
・通常は、ROEという指標が入っているからパフォーマンスがよくなると捉えがちであるが、徳野氏の説明によると、別の2つの要素もあるという点が興味深い。1つは、1銘柄のウエイトを1.5%に制限している効果である。このキャップによるリバランス効果がパフォーマンスに効く。超過リターン0.8%のうち0.3%はこの効果であるという。もう1つは、キャップをはめたことによって、通常の時価総額ウエイトよりは小さい企業が入ってくる。この小型株効果も効いている。
・よってROEの効果がフルに効いているとは必ずしもいえない。また、ガバナンス(独立取締役2名以上)などの定性評価のウエイトも極めて小さい。市場を代表するインデックスを作るという性格からやむを得ない面はある。それでもROEに着目したインデックスを作り上げたという点では高く評価されてよい。普通のTOPIXよりもJPX日経400の方が、パフォーマンスは良さそうである。そちらに投資する方が相対的には有利なはずだ。これをベースにしたETFも次々と登場しているので、マーケットでは大いに利用されるようになろう。
・では、企業経営への影響はどうであろうか。一定の規模を前提にROEを上げると、このインデックスに入れるので、投資家の注目度は上がる。企業によるROE経営への意識が向上してくることは望ましいことである。ROEが持続的に高い企業の経営は、スマート経営であるといえる。個々の上場企業においては、ROE8%以上、できたら10%以上をクリアして本物の価値創造企業になってほしいと期待する。投資家としても、企業をみる目を養い、スマート経営を先取りした自らのポートフォリオを作って、JPX日経400をさらにアウトパフォームしたいものである。