日本企業の成長戦略に求められるもの

2013/05/28

・アベノミクスの先を見ると、日本企業の経営革新がまだ不十分であると感じる。国としての成長戦略が実行に移されれば、企業にとっての活躍の土俵は広がる。しかし、そこで戦う力が十分備わっていないと、勝ち組には入れない。まして、今から日経平均が2倍になるには、上場企業全体のパワーが一段と高まってこないと難しい。

・アベノミクスの成長戦略では3つの点に注目したい。1つは、保育所待機児童の解消である。働きたい女性が働けるように環境を整えることは十分できることである。2つは、混合医療の拡大を認めることである。何事も平等が大事と言って、医療の進歩を妨げる必要はない。選択肢を広げることで、医療を受ける機会と提供する機会が増え、ビジネスフィールドは広がる。

・3つ目は、パッケージ型インフラ輸出の拡大である。国内の社会的課題に取り組むと同時に、そこで培ったビジネスノウハウを一まとめにして、世界の社会的テーマの解決に向けて提供できればよい。エネルギー、環境、ヘルスケアなど分野では多くのチャンスがあろう。トップ外交とプロジェクトマネジメント能力が問われるが、やれば十分できる。

・そうした新しいビジネス領域を手に入れるには、サステナビリティ・キャピタリズムを追求する必要がある。短期投資ではなく、長期投資の実践である。世の中は先が読めない、不確実である。といって、とりあえず見える範囲にだけこだわって、目先の金儲けだけを考えるのであれば、社会と人々に本当に役に立ち、ひいてはリターンも大きい仕事は出来ない。

・長期だからよく見通せないということではなく、社会的価値として本当に必要なものであるなら、政府が方向性を定めて呼び水の支援をすることは可能である。懐妊期間が長いプロジェクトであれば、その間のファイナンスやインフラ作りに手を貸すことも無駄にはならない。

・企業の戦略立案に当っては、6つの点に注目したい。1つは、技術で勝って、事業で負けないことである。企業の価値創りの差別化は技術だけではない。2つは、リーダーシップの育成である。リーダーシップは放っておいて育つものではない。訓練の中で鍛えられる。若い人々へのリーダーシップ教育が求められる。

・3つは、ガバナンスの強化である。人材の新陳代謝を行う必要がある。日本はいつの間にか競争を嫌うような雰囲気の中にある。コーポレートガバナンスを強化し、ひいては資本効率を上げていくことが望ましい。つまり、ちゃんと長期的に金儲けのできる人をトップにして、上手くいかないマネジメントには代わってもらう仕組みが必要である。

・4つは、競争に晒すために開国することである。国益は大事である。かといって、今日の国益を守ると称して、中期的に衰退しては意味がない。日本の魅力を世界の人々は感じている。それをもっと知ってもらうには開国して、競争上かなわないものについては、入れ替えていく。一方で、競争に打ち勝って新しい市場を作っていくことも十分できる。

・5つ目は、海外に出て尊敬される企業になることである。M&Aによって、多様なグローバル人材が入ってきても、女性の活用を含めた人事制度やCSRを通して、社員が誇りを持てる会社にすべきである。そうすれば、ステークホルダーからも高く評価されるようになろう。

・6つ目は、世界の投資家に株主になってもらうことである。そのためには、ESGをしっかり確立して、ROEをもっと高める必要がある。高いROEが第一義的目的ではない。高いROEが持続できるようなビジネスモデルの革新に挑戦し、構築することである。

・13年前の日産自動車のリバイバル、2年前のJALの再生はビジネスモデルを根本から作り変えた。日立製作所はマイケル・ポーター(ハーバード大学教授)のCSV(共通価値創造)に共感して、世界で社会が困っていることに、解決策を提供することを社会イノベーションと位置付けた。4年前に舵を切って、その社会イノベーションを自社のビジネスフィールドとした。日本のエレクトロニクス企業が苦戦する中で、自らのポジショニングを見直し、ジーメンス、GEと戦う体制を整えてきた。

・ヤマトHDは、「ヤマトは我なり」を実践しつつ、まごころ宅急便を国内で拡げている。アジアでは、場所ではなく人に届けるクロネコヤマトのサービスで、市場を開拓しようとしている。ブリヂストンは、世界№1のタイヤメーカーになった現在、CSRこそ経営そのものと位置付けて、サステナブルマテリアル化に取り組み、ダイバーシティの中でのグローバル人材の育成に力を入れている。

・三菱商事は、2001年から10年かけて、独自の企業価値創造の仕組みを作り上げてきた。多岐にわたる事業ポートフォーリオを共通の尺度で測って、リスク管理を徹底している。これによって、儲からない事業からの撤退ルールもはっきりさせた。事業ユニットは当初の180から120まで減っており、効率化を進めている。

・小型企業の中でも、コシダカホールディングス、メディサイエンスプラニング、フュートレック、ワッツ、メディカルシステムネットワーク、フロイント産業など、それぞれがユニークな存在として企業価値を創造している。投資家としては、国と企業の成長戦略を見抜く目をより一層養っていきたいと思う。

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