資産寿命をいかに延ばすか

2025/10/20

・NRIの調査によると、金融資産の保有額(2023年)を階層別にみると、1)超富裕層(純金融資産5億円以上)11.8万世帯、2)富裕層(同1~5億円)153.5万世帯、3)準富裕層(5000万円~1億円)403.9万世帯、4)アッパーマス層(3000万円~5000万円)576.5万世帯、5)マス層(3000万円未満)4424.7万世帯となっている。

・若い時には働いてお金を貯め、年をとったら貯蓄を取り崩して老後の資金に充てる、というのが常識であろう。それを一人でやるのか、家族でやるのか、国全体で対応するのか。それぞれの役割があろう。

・老後の資金はいくら必要か。アッパーマス層くらいあればよいが、国民の大半はそうではない。一方で、富裕層以上では相続が大きなテーマとなる。相続の時に資金が動く。相続する親族には突然お金が入ってくる。それをビジネスにしようという動きも活発である。

・若い人は、自ら働くだけでなく、給与の中からお金を貯め、それを将来のイベント(結婚、住宅、教育、老後)に向けて増やしていくことが得策である。資産運用立国の実現に向けて、家計の安定的な資産形成に資するように、金融サービスを担うインベストメント チェーンの質的向上が求められている。

・NISAの口座数は今年3月末で2647万口座(総買付け額59.3兆円)へ拡大している。年収500万円未満の層でも67.4%がNISAを利用し始めた。20代、30代、40代の口座開設も高い伸びを示している。NISAの利用目的は、全体の58%が将来・老後の生活資金のためとされている。

・では、実際に老後を迎えた局面ではどうするのか。今年5月に日本証券アナリスト協会のセミナーが催された。テーマは「資産寿命の延伸戦略:デキュムレーションを考える」であった。

・つまり、資産形成で貯めてきた資金を老後にどのように取り崩していくのか。そのデキュムレーション(取り崩し)をうまくやって、資産寿命を少しでも延伸させようという考えである。

・フィンウィル研究所の野尻氏は、資産形成を山登りとすると、資産活用は下山であるという。資産形成は、積立をしながら運用する時代を迎えた。では、資産活用は単に取り崩して使うだけなのか。

・それでは、すぐに無くなってしまうかもしれないので、不安が募る。よって、貯めた資産をなかなか使えない人も多い。そこで、高齢期に入って資産を活用する局面を2つに分けて、1)例えば、65~80歳は使いながら運用する時代、2)80~100歳は使うだけの時代、と位置付ける。

・運用しながら、生活費として取り崩していく。そうすると、資産を長持ちさせることができるので、自らの健康寿命に合わせて、資産の寿命も延伸させることができる。確かにうまい考え方である。

・デキュムレーション(Decumulation:資産の取り崩し)は世界的なテーマである。多くの国で寿命が延びて、65歳以上の人口の割合が増えてこよう。65歳で退職して、その時の金融資産が5000万円であったとして、どのように取り崩すか。年500万円(10%相当)ずつ取り崩したら10年でなくなってしまう。

・5000万円を運用して、年平均3%のリターンを得ることができれば、年7%ほど取り崩したとしても、実質的な減少は4%に留まる。とすれば、20年以上継続することができる。これをもっとうまくやろうというのが、デキュムレーションの方策である。さまざまな金融商品を活用して工夫していく。保険などの利用も入ってくる。

・まずは、企業と同じように個人のB/S、P/Lを考える必要がある。今どきの人的資本を、B/Sに組み入れる。住宅購入などに借入金がある場合は、負債も立ってくる。資産サイド(B/Sの左側)は、金融資産と人的資産から成る。人的資産とは、これから働いて入ってくると見込める報酬の現在価値である。資産(金融資産+人的資産)から負債を除いたものが純資産である。

・若い時は、金融資産は少なく、人的資産(将来の労働の対価)が多いはずである。これが年をとってくると、人的資産は減って、金融資産のウエイトが高まってくる。貯蓄に回す資金が少なければ、30年後の金融資産は少なく、まして資産運用にどの程度取り組んでいたかによって、金融資産の蓄積には差が出てくる。

・まずは、自らのライフプランを立てる必要がある。人生100年として、いつまで生きるのか。いつまで健康でいるのか。どんな人生を歩むのか。老後の金融資産はいくら欲しいのか。そして、人生をいかに楽しむか。

・実際には、そんなことはほとんどわからない、と思うかもしれない。将来は不確実で、不確定である。想定はできても、思い通りになるとはいえない。それでも悲観する必要はない。先は読めないにしても、一歩一歩できることを積み上げていけば、結果も見えてこよう。

・超高齢化社会での生き方について、自分ごととして方針を固めておきたい。筆者の場合は、90歳まで生きる前提で、80歳までは何か仕事をして社会に貢献しつつ、仕事の報酬を得るようにしたいと考えている。

・金融資産のポートフォリオをどうするかについては、いろんな場に出かけて学ぶ機会を継続したい。ポートフォリオのパフォーマンスを年3~5%ほど確保して、資産の取り崩し額を少しでもカバーするようにしたい。

・元気なうちは、できるだけ出かけて見聞を広め、それを楽しみとしたい。いずれ身体が十分動かなくなり、介護を受ける必要があるので、その時の準備をしておきたい。

・当然、子供や国の世話になろう。人生最後の10年は必ず誰かの世話になる。それを悩む必要はない。できるだけ迷惑はかけたくないが、人生何事も順番であると、達観したい。

・そして、趣味の株式投資は続けたい。趣味と実益を兼ねて頭の体操になるからである。しかし、いずれ認知症的事態に陥るので、そのための準備も事前にしておきたい。

・私のデキュムレーションは既にスタートしている。資産活用は運用しつつ使うことである。資産寿命の後期を、大いに楽しみたいものである。

 

 

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ