ガバナンスに残された課題は
・トランプショックをいかに克服して、サバイブするか。企業も投資家も対応が問われている。トランプ関税の影響は大きい。企業としては、地政学的リスクを踏まえた上で、生き残り策に手を打っていくしかない。投資家はリスクを踏まえて、ポートフォリオを見直す必要があろう。しかし、次のトレンドを見出すには時間を要しよう。
・3月にICGN「International Corporate Governance Network:国際コーポレートガバナンスネットワーク」の30周年記念カンファレンスが東京で催された。そこでの議論の中から、今後の企業経営における課題と対応について考えてみたい。
・日本企業の価値創造のあり方として、コストカット型から高付加価値化を目指すべし、というのはその通りであろう。インフレが進行する中で、コストカットだけではやっていけない。価値に見合った価格を提供する高付加価値化戦略をとれる企業だけが生き残っていけよう。
・資産運用立国を目指す中で、NISAが好調に動き出した。トランプショックでマーケットは一時大幅に下落したが、慌てる必要はない。継続投資を続けていれば、十分取り戻すことができよう。
・但し、世界が不況に陥り、ブロック経済の中で大型の戦争にまで行ってしまうとすると、事態は深刻になる。覇権国の米国の凋落が一気に進むことになると、通常の長期投資戦略は通用しない。リスクオフを踏まえた持久戦が必要になる。
・日本企業の競争力は、もう一度根本から見直す必要がある。平時は、強みをいかに強化するかという戦略が順当であるが、有事は弱みが墓穴を掘らないかという点に注目したい。サプライチェーンにおける供給不足、需要不足が相当の打撃となろう。
・地域戦略では、米国市場と中国市場での事業見直しが避けられないであろう。スピード感のある事業転換というのは、どの企業にとって難しい。しかし、難しいからといって、先送りしていると出血がひどくなりかねない。
・中期計画、成長戦略、リスクマネジメント、ESGは即刻見直した方がよい。前提が想定外となったのであれば、中期計画は中止すべきである。成長戦略のベースとなっているキャピタルアロケーションも縮小均衡型に見直しとなろう。リスクマネジメントでは、コンティンジェンシープランの再考が必須である。
・ESG戦略をどう見直すかは、企業のおかれた状況に依存する。気候変動どころではない。必須の天然資源が手に入らない。人材育成どころではない。リストラを検討しないと生き残れない。経営陣は平時ではなく、有事に強いフォーメーションに変えないと危機を乗り越えられない。このような事態に備える企業が続出しよう。
・一方で、びくともしない企業もあろう。今こそESGを一歩前に進めて経営基盤を強化する企業は心強い。こういう時にこそサステナビリティの仕組みが問われるので、そこでの実効力をみせてほしい。
・基本は、自社の競争力が強化できるかどうかにかかっている。単に規制やルールに適合すればよいということではない。米国でも、EUでもサステナビリティに揺り戻し(スイングバック)が起きている。
・米国ではDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)が行き過ぎで、逆にアンフェアになっているのではないか、という動きが顕在化している。CC(気候変動)についても、パリ協定への対応、トランジションのあり方について反動が出ている。株主権の実行についても、企業に不利にならないようにという動きが出ている。
・EUをリード役にしたESGのルール化についても、EU内でもピッチダウンが検討され、米国ではトランプ政策が反対の動きを示している。日本はどうするのか。形だけのあるべき論に追随するのか。本来の姿を実現するために、背伸びしつつも実行していくのか。
・シンボリックには3つの点が問われよう。第1に、ガバナンス改革では、取締役会の議長を社外取締役にできるか。取締役会で何を議論するのか。もちろん企業価値向上に資するアジェンダをつめていくのであるが、そういうテーマを設定して、意思決定に持っていくという点で、議長の果たす役割は大きい。これを社長は社外取締役に任せられるか。
・執行サイドにとって、不十分な内容を追求されてはたまらないという気持ちがあるようでは、任せたくない。社外取締役の方も、それをこなすだけの力量と大幅な時間配分が必要になる。本当にやりたいと思うか。そこまでの責任を負えるか。
・第2は、ジェンダーダイバーシティの推進である。日本でいえば、女性の活用である。女性はものごとを見る視点が異なる。よって、女性の比率が上がることがガバナンスの質の向上につながる。業務の執行サイドにおいても、女性をマネジメントにおいてその役割を高めると、それが人材の活用を通して企業価値に貢献してくる。
・これを2030年までにスピードアップしようとしている。そもそも人材の能力には違いがある。男性、女性という分け方にも一定の意味があるが、ダイバーシティの推進については、能力を踏まえてという条件にくれぐれも注意したい。
・第3は、アクティビストへの対応である。アクティビストのオアシスは、花王の経営について異論を唱えている。オアシスマネジメントCIOのセス・フィッシャー氏は強烈な情熱の持ち主で、会社に対してドラマティックな変化を求めている。
・会社をもっとよくできる。P&Gともっと戦える。会社のパフォーマンスを何倍にも高められる。商品のあり方、海外比率の高め方、ガバナンスの構成について、具体的に意見を述べて変革を求めている。
・つまり、よい経営を実践していても、別の観点からみると、もっと価値が高められるはずであるといって、経営に対案を出してくる。こうしたアクティビストはうるさいし、迷惑だと感じるかもしれないが、企業価値の向上という観点では一目置かざるを得ない。
・日本企業による敵対的買収、同意なき買収も始まっている。経営者も投資家もアクティビストのような視点が重要になっている。どうやって企業価値を上げるか。一定の制約がある中で、時間をかけながらマイルドなやり方をとれば、今のような経営が妥当かもしれない。
・そのような見方に対して、スピードをもって圧倒的な変革を求められたらどうするのか。トランプ関税が敵対的与件であるとすると、投資家や他の企業からのアクティビズムの要求も敵対的であろう。
・経営とは変化への対応であるが、それだけでは十分ではない。次に何が起きるか、どう対応すべきかについて、取締役会、アドバイザリーボード、バリューチェーンやネットワークのコミュニティで本気で議論していく必要がある。
・マネジメントのレベルは上がっており、それを支えるガバナンスも一段と強化していく必要がある。ガバナンスに優れた企業はどこか。引き続きリサーチしていきたい。
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