中期経営計画へのコミットメント

2013/01/02

・日産自動車の中期経営計画「日産パワー88」はどのように作られ、どのように運営されているのだろうか。講演を聞く機会があった。どの会社においても、中期計画は何らかの形で作られ、それが推進されている。その中身が十分練れている場合もあるし、そうでない場合もある。外部に公表されることも多いが、されないこともある。

・日産の意思決定のストラクチャーは、組織機能別、商品別(車種別)、地域別の3次元で構成されている。地域はアメリカ、欧州(中東、アフリカを含む)、アジアの3つから成り、地域のEVP(トップマネジメント)が機能(ファンクション)別組織のトップも兼任している。

・会話は全て英語で、月1回EC(エグゼクティブ・コミティ)が聞かれる。その下に、オペレーション・コミティ、パフォーマンス・コミティがある。年に3回ほど2日間かけて、ゴーンCEOと8人のEVPによる会議が催され、そこで経営の方針が決められる。

・2011年度から2016年までの「日産パワー88」の基本となる方針は、トップダウンでゴーンCEOが出した。世界シェア8%、800万台、営業利益8%はトップが決めた。市場拡大の中心は新興国、低価格、小型車が中心、環境技術がカギとなる。世界の市場は伸びるので、シェア8%、800万台は取りたいと考えた。利益率8%は世界トップレベルの収益力の実現である。この目標に何の問題もない、成長あるのみ、いいわけは許さない(ノーエクスキューズ)という方針だ。

・その中身をどう作ってきたのか。空論はしない、一般常識で作っていくと、宮永経営企画室長は強調する。100人のGM(ゼネラルマネージャー)を10人ずつに分け、半日かけてブレーンストーミングを実施した。日本人、外国人が半々で、すべて英語で行う。カギは、全員に“ささること”である。ささらないものは、実現に至らないという。ルノーの中期計画とも歩調を合わせ、環境に関わる技術、商品についてタイミングをとっていく。

・戦略の柱(ピラー)と基盤は経営企画室で立案していった。1年かけて6つの柱を立て、KPIを決めた。①ブランドパワーの構築。同じスペックのものを安売りさせないようにする。地域ごとにMII(Most Influential Indicator)を決めた。②セールスパワーの構築。販売のインフラとして、ディーラーの数、質、1店あたりの販売数量を決めた。③クオリティの向上。品質をトップグループにもっていく。製品品質はもちろん、色、心地などのフィーリング、品質感を高める。④ゼロエミッション・リーダーシップの獲得。2016年までにEV累計150万台(日産・ルノー合計)を達成し、世界No.1となる。⑤世界シェア8%。新興国の比率を現在の4割から6割へ高める。⑥コストリーダーシップの確立。年間5%のトータルコストダウンを実現する。

・基盤の強化としては、1)プロダクト(ダットサンブランドの活用)、2)プロセス(ビジネスプロセスのシンプル化)3)人材(キャリアコーチをおいてセレクション)、4)アライアンス(パートナーシップの拡大)、に力を入れていく。

・これまでの中期計画の期間は3年であったが、今回は6年間とした。PDCAをきちんと回して、役員会で手を打っていく。とかく、担当者は自分の領域に文句をつけられないようにと考えがちだが、①目標を数字で表し、②誰が責任者かをはっきりさせ、③アクションプランを見直し、④ミーティングボディ(会議体)をクリアにして、⑤リンケージをとっていくようにした。

・欧米的にいえば、コミットメントは必ずやる、ターゲットはできるかもしれない、という目標であるが、このコミットメント&ターゲットを1人5項目ほどはっきりさせた。社員のコミットメントが6つのピラーに結び付くようにリンクさせた。

・経営企画室が「日産パワー88」をグローバルにかじ取りしていく。この中期計画を達成に導くために、いかに“のりしろ”を作っていくか。それが経営企画室の重要な役割であるという宮永室長の言葉が印象に残った。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。