有価証券報告書はバイブル、XBRLへの期待

2012/11/11

・私は長年アナリストとして多くの企業をみてきた。アナリストにとって決算短信の後に出る有価証券報告書(以下:有報)は、バイブルである。何かあったらいつもここからスタートし、何かあったらまたここに戻ってくる。ある会社をこれから詳しく知るというときは、まず有報を丹念に読む。次に、その会社に何か重要な事象があったら必ず読む。

・東京電力や、オリンパスのような事件が発生したときは、役員とバランスシートと脚注に注目する。とは言っても、普段は企業の将来展望などに注目しているため、過去の情報である有報をあまり見ることはなく、必要な時に見ているというのが実態である。

・住友商事の2010年度の有報を例に取ってみよう。この年に住友商事はIFRSに切り替えていて、IFRSの2期分とSEC基準の5期分が掲載されている。売上に相当する収益がIFRS基準と米国会計基準では違っているのがはっきり分かる。また、通常日本でいう商社の売上とは全く違う。その数字も参考に載っていて分かり易い。

・次に注目するのは、『事業の概況』だ。“わが社の企業環境をどう認識しているか”を知ることは、企業評価に役に立つ。住友商事の場合、有報に中期経営計画の概要と成果が記載されている。また環境保全への取り組みと社会貢献活動などCSR報告的な部分も記載がある。業績をコメントする中にこういった情報が記載されているのは非常にわかりやすく、これはとても良い例だと思う。

・有報には似たようなことばかり書かれていると言われるが、『事業リスク』と『対処すべき課題』も注目している。きちんと書いている企業は、かなり詳しく書いています。その他、私がみるのは、『重要な契約』、『設備の状況』、『大株主』、『自己株式』である。『役員の状況』では、各取締役のキャリアや、執行役員の取締役兼務状況をみる。住友商事の場合は『コーポレート・ガバナンスの状況』で、諮問機関、報酬委員会を設置しているといったことが記載されている。

・昨今いろいろな企業の問題がニュースでも取り沙汰されているが、長期的に保有する場合はこういった企業の質を最初によく確認する必要がある。全部読むには大変時間もかかるし、複数企業を互いに比較するのは結構難しい。

・私の場合、4つの軸、すなわち、(1)経営者の経営力、(2)事業の成長力、(3)企業の持続力、(4)業績変動のリスク、に当てはめたうえで他社と比較し、評価している。(1)には、対処すべき課題や、役員の状況を当てはめる。(2)には、事業の概況やセグメント、(3)は社外の目がどれくらい入っているか、社外取締役や独立監査人の状況も重要となる。監査法人の変更にも注目する。(4)はリスクや、重要な契約をみている。

・ただ、こうした作業は時間がかかる。だから調査中の企業はもちろん、比較する同業他社の情報について、これらの情報をデータの形で取得でき、財務諸表と同じように比較することができれば、分析を効率的に行うことができて、分析の幅も広がる。

・例えば、文章で発表されている中から該当箇所を抜き出して、企業ごとに横に並べるというイメージだ。分析の基本は比較と予測にある。比較では、同業他社比較がある意味において一番楽で、異なる業種の企業を比較するほど難しくなる。セクターアナリストは同じ業種でみているが、ファンドマネージャーは違う業種の会社を見て“どちらがいい”と悩まなければならない。

・そこで、私が強調している“編集”という作業が一層必要になる。どう編集するかにもっと時間をかけたいし、より多くの企業を調査対象にしたい。XBRL(コンピュータ言語、eXtensible Business Reporting Language)がこのような作業の効率化に役に立つのであれば大いに有望である。比較はXBRLのコンセプトそのものだから、あとは比較している箇所に的確にタグが付与されるかどうかがポイントになる。

・もう一つ重要なことは、私は新しい会社を調べ始める時には、その企業の有報などの開示書類に最低10年分は目を通す。アメリカの企業を調べる時には、30年分を読んできた。もし有報が30年分あり、30年分の対処すべき課題だけを並べることができたら相当な威力がある。早くそれぐらいデータが蓄積されるとよいと思っている

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ