新型コロナウイルスとがん~いかに対処するか
・佐川急便のSGホールディングスは、公益財団法人SGH財団をサポートしている。ここの市民公開講座で、「withコロナ時代の新たなるがん医療とは」というテーマのシンポジウムが2月に催された。
・健康経営は、どの企業にとっても重要である。人財はもちろん、もっと広い意味で企業価値に影響する。コロナはどうなるのか。がん治療にはどう対応したらよいのか。今回のシンポジウムから学ぶべき点について、いくつか考えてみたい。
・新型コロナ感染症の集団分析を専門とする西浦教授(京大社会健康医学)は、数理モデルを使って、感染症の実証分析と予測を行っている。1人の感染者が何人の人にうつすかという実効再生産数が鍵を握る。これを、いかに1.0以下に持って行くか。さらに、どこまで下げられるかに注目している。
・現在は新型コロナの第3波の局面にあるが、第1波、第2波の分析を経て、流行の拡大・縮小には、4つの要因が影響すると分かってきた。その要因とは、1)人口の密集度、2)気温の寒暖、3)人の移動の増減、4)コンプライアンスの徹底度である。
・コンプライアンスとは、マスクをするとか、消毒をするとか、ソーシャルディスタンスをとるとか、守るべきルールをどのくらい守っているかを意味する。
・人の移動、夜間の滞在人口などが減ると、再生産数は下がってくる。第3波でも、緊急事態宣言の効果で1.0を下回ってきたので、一定の成果は出ている。では、どこまで下がるのか。しっかり下げないと、いずれぶり返すことが起こりうる。
・ワクチンの予防接種は効果があるのか。これも数理モデル化はできており、現在のワクチンはかなり効果が高いので、効いてくるのは間違いない。ワクチンには自分を守るという直接効果と、みんなを守る間接効果がある。
・ワクチンの接種を受ければ本人を守る可能性は大きく高まるが、みんなを守る集団免疫を作るには、50~70%の人口がワクチン接種を終えないと効果は出てこない。
・ここにきてウイルスの変異株が出ている。従来よりも1.5~1.7倍感染しやすいという見方も出ている。とすると、油断はできない。第3波のあと、社会の活動をどこまで戻すのか。しっかりモニタリングしながら、ゆっくり戻さないと、再び感染が増加してしまいかねない。
・これまでの状況で、何がリスクかははっきり分かってきた。1)飲食とりわけ酒が入ると、飛沫が飛びやすくなる。この飛沫が感染を確実に広げる。2)高齢者が多い施設内での感染は、病気、介護など身体的理由で密な接触になると、そこでクラスターを発生させてしまう可能性が高い。
・3)陽性で活動がやたら活発な人が、とりわけ感染を広げてしまうという、スーパースプレッダーがいる。これらを避けるには、西浦先生があげる4つの要因をよくコントロールことである。
・ワクチンの普及テンポにも注意を要する。メッセンジャーRNAを使ったファイザーのワクチンは、1)感染を防ぐ、2)重症化を防ぐという効果が高い。医療関係者、高齢者・基礎疾患のある人々の順にワクチンが接種されていく。
・少し遅れ気味だが、夏過ぎまでにはこうした人々に投与されるので、重症者や入院患者は減っていくかもしれない。しかし、このあたりが危ないと、西浦先生は懸念する。
・ワクチンあればもう大丈夫ということで、元気な人々の気が緩んでくる。しかし、集団免疫の状況にはまだ至っていない。そうすると、第4波がくる可能性がある。よほど、気を引き締めないと、第4波に巻き込まれかねない。
・変異株の広がりも気になる。この点については、どう変異したのか、これからどう変異しそうなのかは早めに分析できるので、手を打つことは可能とみている。
・とすれば、ワクチンの投与が行き渡れば、感染症はいずれ落ち着いてくる。今年一杯は流行が続くにしても、来年には下火になってこよう。但し、途上国も含めて、世界が落ち着きをみせるには、数年はかかるとみておく必要があろう。
・では、がん患者の方々はどのように対処すればよいのか。聖路加国際病院の山内英子副院長(乳腺外科部長)と千葉大学の宇野教授(放射線腫瘍学)は、コロナ感染症を恐れるあまり、がん治療が手遅れにならないように行動してほしいと強調した。
・日本の死亡率の第1位はがんであり、年間37万人(全体の27.4%)が亡くなっている。がんに罹って亡くなる人は3人に1人である。逆に、がんに罹っても長生きする人も多い。不治の病ではなく慢性疾患として、ケアしつつがんばっている「がんサバイバー」は大勢いる。
・女優の岡江久美子氏が乳がんの治療の後に、新型コロナウイルスに感染して亡くなったことから、放射線治療が免疫力を低下させ、それでコロナに罹りやすくなるという情報が飛び交った。これに対して、放射線医学会として、そんなことは全くないという見解を正式にすぐに出した。宇野先生はそれをリードし、山内先生はそれによって現場は助かったと述べた。
・新型コロナウイルスについても、がんについても、人々は不安な中で、さまざまな情報に頼る。とりわけ、不安を煽るような情報に惑わされやすい。この時どうするか。山内先生は2つのことを強調した。
・1つは、情報の“いなかもち”に心がけてほしいという。その情報は、いつ、なんのために、かいた人は誰か、もとネタの根拠はなにか、ちがう情報と比べたか、という意味である。SNSの情報社会にあって、自らが不安になる時、くれぐれも戒めたい。不安だからといって、自分もうわさ情報を広めないことである。つい広めるという行為がSNSの危うさである。
・もう1つは、「平静の祈り」を大事にしてほしいという。米国の神学者ラインホールド・ニーバーの言葉であるが、変えられないものを受け入れ、変えるべきものを変える勇気を、その英知を持とう、という意味である。
・がんに罹ったからといって、一人ではない。何がわかっていないか、をきちんと整理しよう。そして、できることはしっかりやろう。不安と恐怖が先に来るが、感謝と笑顔で向かい合いたいと話された。
・新型コロナウイルスやがんに対して、人々はとかく寛容ではない。病気や不安を排除しようとして、差別的行動を取りやすい。これこそが負のスパイラルをまねく、と山内先生は警鐘を鳴らす。
・がん治療について、コロナ第1波の時はやや乱れもあったが、それ以降は適切に働いているという。千葉大学病院も聖路加国際病院もコロナの重症患者を受け入れながら、がん治療も恙なく遂行しているので、安心してほしいと両先生は語った。
・聖路加にはわが親族もお世話になっている。明日はわが身という心構えが必要である。わが国の医療に頑張ってほしいし、それを支えるヘルスケア企業を応援していきたいと思う。