社外取締役との対話~何を聞きたいか

2021/01/25 <>

・企業の要は取締役会にある。代表取締役社長(CEO)が最も大事であるが、中小企業が中堅企業、上場企業になると、取締役会が格段に重要になる。執行の代表を、誰が取り締まるのか。その役割を担うのが社外取締役である。

・コーポレートガバナンス・コードの次の改訂では、社外取締役の役割をより高めようとしている。先進的な企業では、欧米はもちろん日本でも、取締役会の議長は、執行サイドの社長ではなく、社外取締役の代表が務めている。社外取締役が全体の過半を占め、指名や報酬委員会も過半が社外で、委員長も社外である。

・それがあるべき姿なら、全社に義務付ければよいという意見もありうる。しかし、日本は中庸を重ずるので、①急にはできない、②形を整えるにも時間がかかる、③内容が大事なので、全員一律にはいかない。④大企業には求めてもよいが、中堅企業は別である、⑤ベンチャー型企業にはもっと大事なことがある、という意見がいろいろ出ている。

・「社外取締役の教科書」(日本取締役協会編)が出版された。早速目を通して、改めて気になる点をいくつかあげてみたい。取締役会の役割はモニタリングにあるというが、何をモニタリングするのか。取締役会の議題には何を選ぶのか。その時議長は誰がやるのがよいのか。取締役会が本当に役割を果たしているのか。その実効性は本当に評価されているのか。こうした問いに応えようとしている。

・取締役会のあり方として、2つの考え方がある。1つは、アドバイザリー・ボードで、社外取締役の役割として、経営者へのアドバイスが重視される。もう1つは、モニタリング・ボードで、株主の代表として経営者の経営を監督し、経営を厳正に評価して、選解任や報酬に直接関わっていく。そのためには、過半を社外で占めるようになり、権限も重くなる。

・では、何をモニタリングするのか。社外取締役の役割として助言はあってもよいが、監督がカギを握る。助言は監督を通しての助言にとどまるともいえる。その役割は、公正性の確保と効率性の追求である。日々の執行は経営陣に任せてよいが、組織の仕組み作りや、中長期の戦略に関する方向についてはしっかり議論して、それが評価できるようにしておく。

・これをきちんとできる社外取締役としての人材、人物は限られるかもしれない。かなりハードな仕事である。経営を厳しく評価するという意味において、経営陣から独立している必要がある。

・独立という観点において、会社から報酬をもらってよいのか。ストックオプションはありうるのか。中長期の価値向上に貢献しているのに、1年単位の少額報酬しかないとは、奉仕の精神で頑張れというのか。一方で、報酬が生活の糧となるようでは、いざという時、独立の判断は下せないかもしれない。

・12月にエーザイが、機関投資家に対して「社外取締役との意見交換会」を催した。社外取締役7名のうち6名が参加した。Webでの開催であったが、全員の紹介があったあと、すぐに意見交換の質疑に入った。

・社長やCFOに会社の実態を聞くのではない。社外取締役に聞くのである。何を聞くのか。1)取締役会で何を議論しているのか、2)社内ではどのような活動をしているのか、3)それらが企業価値の向上に結び付くような内容になっているのか。

・抽象的にいえば、こうしたことを聞くことになるが、具体的な内容には踏み込みにくいので、議論はなかなか難しい。社外取締役は経営の執行ではない。執行サイドを監督している。よって、内容は分かっていても、それを具体的に外部に話すわけにはいかない。投資家から出た意見は、監督に当たって、次のような点をさらに突っ込んでほしいというものであった。

・議決権行使の結果として、毎年社長に対する反対票がかなり出ている。広義の買収防衛に関わる指針が、投資家から十分賛同を得ていないように見える。社外取締役の役割が重要で、独自の仕組みを整えているとしても、未だ十分な理解が得られない。この点について、今後どのように進めていくのか。さらに議論してほしいという意見があった。

・R&Dの推進において、社外取締役はどのように関わっていくのか。医薬品開発の専門的な知見について、どのように投資判断を監督していくのか。新薬が開発できたとしても、日本の医療制度の中で、薬価にはかなり制約がある。新薬の社会的貢献と経済的リターンについて、どのようにサステナビリティを追求するのか。

・社外取締役としては、中立客観的な立場からもっと社会に対して意見を発信すべきではないか、という意見も出た。社外取締役の役割をもう一歩広げてはという提案である。

・ESGにおいて、エーザイは先進的な取り組みを行っているが、執行サイドに報告を求めるだけでなく、もっと働きかけが必要ではないか。Eの環境について、取締役会においてさらに提言をしてほしいという要望もあった。

・Sにおいては、経営環境をビジネスモデルにどう結びつけていくのか。治療薬と予防・予知へのビジネスの広がりをもっと明確に推進するように、社外取締役として活動してほしいという意見も出された。

・こうした意見を聞いていて、3つのことを感じた。1つは、社外取締役との対話はまだぎこちないが、互いに対話をしていこうという姿勢が強いので、今後内容が深まっていこう。

・2つ目は、どうしても執行サイドの内容に、話が行きがちである。監督という立場でどういう活動をしているかを知ってもらうには、さらに工夫が必要である。

・3つ目は、社外取締役は取締役会においてもっと突っ込むことができるのではないか。ここに一段と力を入れるべきである。社外取締役の活躍に一層期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。