経営者の経営力とは~いかに尖がるか

2020/12/23

・11月に日経主催の世界経営者会議がオンラインで催された。毎年参加しているが、コロナショックを踏まえて、投資家として経営者の経営力をいかに評価していくのか。いくつかの事例を取り上げながら検討してみたい。

・FCA(フィアット・クライスラー)とPSA(プジョー・シトロエン)は合併して、1月にステランティス(STELLANTIS)になる。リードしているのは、ジョン・エルカン氏(44歳)である。

・彼はフィアット創業家の5代目で、アニェリ家の当主であり、投資会社エクソールのオーナーだ。エルカン氏はFCAの会長であり、エクソールはFCAの株式の29%(議決権では44%)を所有する。彼は、FCAから独立したフェラーリの会長でもある。

・なぜ合併するのか。理由を3つ語る。第1は、投資効率の向上である、1台当たりの投下資本を削減できるので、年間50億ユーロのコスト削減が見込める。第2は、年間生産900万台の規模はトヨタ、FW(フォルクスワーゲン)に並び、一定の競争力を確保できる。第3は、それぞれが合併を経験しているので、この文化融合を通してシナジーを発揮できる、という。

・フィアットはクライスラーと、プジョー・シトロエンはGMの欧州事業(独オペルと英ボクスオール)を経営統合している。業界再編を経験しているので、次の変革期も乗り切っていくと自信をみせた。

・エルカン氏は、伊を代表するファミリービジネスの当主でもある。長く家業としての事業を続けるコツに特別なマジックはないが、1)ファミリーのトップとしての責任、2)悪い時でも恐れず、良い時には慎重にしっかりケアする長期的投資、3)時代の変化に適応して新しい歴史を描いていく挑戦、をあげた。

・車は新しい黎明期にある。エンジンからモーターへ、メカからエレキへ、排ガスからカーボンニュートラルへ、手動から自動へ、大きく変貌していく。デジタル化の中で、取り残されるのではなく、進化をリードしていくと語った。

・まさに電気自動車(EV)の時代がくる。トヨタは、2018年にカーマニュファクチャラー(自動車製造会社)からモビリティカンパニー(モビリティサービスプラットフォーム企業)に変身すると宣言した。新しい競争相手が登場してくる。トヨタ、VW、ステランティスという従来の規模の競争が通用するとも思えない。ステランティスがEVでついていけるのか。見物であるが、エルカン氏は飄々としてやり抜く覚悟のようにみえる。

・日本電産の永守会長(CEO)の永守節は今回も冴えわたっていた。1995年に車載用モーターに参入した。ガソリンからEVに変わると読んだ。2010年にEV時代がくると想定したが、10年以上遅れた。これまでは燃費規制や排ガス規制で凌いできたが、ようやくEVでないと無理と誰もがわかってきた。

・車は100年に1度の大変革期を迎えている。まさに、新参者が参入できる。新しい競争が始まっている。技術革新と新規参入で、製品・サービスの価格は劇的に下がる。いい部品も安くなる。ハードの時代は終わり、ソフトの勝負となる。もはや系列取引でグループを維持するという時代ではないと強調した。

・EVの動力源は、モーターとバッテリーにある。現在はいずれのコストも高い。今の車の価格を200万円とすれば、2035年にはEVの比率が50%になり、その価格は5分の1くらいになると予言する。40万円になるというわけだ。途上国でも十分買えるようになる。車の需要は、2億台はある。中国も台頭している。5年後の2025年が分水嶺になるとみている。

・日本電産はモーターで圧倒的世界№1を目指す。そのためには、人材が足りない。若い人には夢や希望がなく、閉塞感がある。これでは若者は育たない。批判ばかりしていても進まないので、自らの私財で大学を運営し、人材を育てることにした。

・創業以来、日本国内で1万人を採用してきた。会社が大きくなるにつれて、いい大学から人を採れるようになった。でも、全くの期待はずれであったという。偏差値と仕事のできる人間の間に何の関係もないと分かった。これまでは社内で人材を育ててきた。しかし、今の大学は、企業が望んでいない人材をどんどん出してくる。

・これでは、グローバルに戦えない。大学の偏差値志向、ブランド志向では人材は育たない。2018年から大学の経営に参画し、京都先端科学大学(旧京都学園大学)に変え、今年4月にはモーター技術者を育てるための工学部を新設した。

・2025年から授業は全て英語になる。教師も公募で3分の1が外国人になった。教とともに育に力をいれている。教え、学び、礼儀、作法、常識を身につけて、創造性豊かな人間を育てる。大学を創り、企業を起業する人材、挑戦する人材を育てるという構想と実践に、大いに期待したい。

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