SDGsの共有は幻想か~米中対立の構図
・戦争は紛争解決の最後の手段である。これは歴史的命題ともいえる。かつて学んだ視点の1つとして忘れることはない。米中対立はどうなるのか。投資家にとっても、地政学的リスクの一大テーマである。
・華為(Huawei)の通信機器に、日本の電子部品は今後とも使えるのか。それを加工する機器や化学品材料の供給はどうなるのか。TikTokは中国本土と遮断できるのか。また、GAFAによるデータの独占は公益に反するのではないか。そのプラットフォームを使って、情報操作や偽情報の拡散が、国際政治のプロパガンダとして利用されている節がある。
・日経新聞の創論(10月1日)に「米中対立の行方」というインタビューが載った。米国のB.グレイザー氏(米戦略国際問題研究所上級顧問)と、閻学通(ヤン シュエトン)氏(清華大学国際関係研究院長)の対談は極めて興味深い。
・米中とも経済的に相互依存している。よって摩擦が起きる。かつて80年代の日本も、日米自動車摩擦に相当悩まされた。一方が利益を過大に得ると、同盟国といえども許容できずに、政治的対立は激しいものとなった。米国向け輸出の自主規制、米国現地生産の拡大が解決策であった。これによって日本の優位性はかなり抑えられ、一応の決着をみた。
・今は、米ロ冷戦に次ぐ、第2次冷戦に突入しつつある。習(シー)近(ジン)平(ピン)国家主席の独善と野心は、世界の支配を狙っているのだろうか。覇権大国の米国にとって、それを許すことはできない。一方で、米国は中国の体制転換を図ろうとするのだろうか。双方が共存する道は険しく、衝突のリスクは高い。長期の争いが続く、とグレイザー氏は主張する。
・ヤン氏は、軍事衝突による紛争が起きることはあっても、中米大戦のような戦争には至らないとみる。核兵器の抑止力が働くことと、中国の実力が向上しているといっても、米国を超えることはできないからである。
・では、グローバルな民間交流が両国の関係改善に役立つかといえば、それは思い込みで、ありえないという。米中の競争は経済、貿易、デジタルテクノロジーで続く。友好か敵対かは、相互理解ではなく、双方の利益が一致するか衝突するかに依存すると主張し、友好は共通の利益の上に成り立つと明言する。
・では、中国は、米国にかわって世界のリーダーになりたいのか。大事なことは、願望ではなく、その能力があるどうかが決め手となると分析する。今のところ軍事力では敵わない。経済力は世界2位であるが、科学技術の差は追いかけているといっても、その差は大きい。
・この科学技術の差が縮まることを、米国は最も恐れている。よって、ハイテク摩擦が激化し、そこに制約をかけようとする。フェアかアンフェアかと同時に、安全保障の命運がかかってくるからである。
・では、科学技術の流出に歯止めをかけて、米国の優位性が高まるのか。一方で、中国は一帯一路で実力以上の無理をしている、とヤン氏は指摘する。
・日本電産の永森会長は、米中のハイテク摩擦を乗り切るに当たって、規制強化でうまくいくはずはなく、互いに相手の利益に貢献するなかで、いかに折り合いをつけていくかにかかっていると強調する。
・ICUの岩井克人教授(経済学者)は、米中対立の時代にあって、両国とも、理想郷とは真逆のディトピア(反理想郷)になってしまったと論じる(読売新聞10月4日)。
・米国は利己心だけを煽って、格差社会を創り上げた。中国は強権独裁を追求して、経済的には豊かになっても、国民に服従を強いている。自国の価値を一方的に押し付けるといずれ戦争になる。
・一国においてどのように秩序を保つか。それには、「法を定める自由」と「法に従う義務」を認めることであると語る。法的拘束を認める中での自由、その均衡をいかに図っていくか。この社会的契約論を問うている。岩井先生は、米中ともここに疑念があると憂慮する。
・グレイザー氏は、米国と日本の国益は一緒ではないという。ヤン氏は、中国は実力にふさわしい責任を負うべきであると指摘する。これらが受入れられるものなのか。平和的共存が幻想であるとするならば、日本の立ち位置はどのようなものなのか。
・日本は社会正義を国内で実現し、世界に訴えていく必要がある。経済力は高めておく必要がある。しかし、現状の日本は相対的に没落しつつある。軍事力は自衛と抑止のために一定程度は確保しておく必要がある。しかし、それを支える技術力の向上は制約されており、米国に頼るしかない。これではいつか追い込まれよう。
・1つの方策は、SDGsで尊敬される国になることであろう。そのためには、さまざまな組織がSDGsに向けてESGをベースにした仕組みを作り、自らの価値創造を行い、その貢献を見える化していくことにあろう。
・世界各地で紛争は絶えない。日本に打撃を与える米中紛争もアジアで起きよう。当然、株式市場は乱高下しよう。投資家としては、常にそれに備えておく必要がある。何よりも紛争解決の最後の手段が戦争ではなく、紛争回避の常套手段はSDGsにあり、という観点を踏まえて、企業価値創造を求めていきたい。