SDGs時代の新しいモニタリング~新型コロナショックを踏まえて

2020/10/19

・9月に催された日経SDGsフォーラムをWebで視聴した。いくつかのセッションを聞いて印象深かった点を取り上げてみたい。

・新型コロナ感染症にいかに対応するか。その社会的課題をSDGsとして、どのように取り組んでいくのか。ソリューションは容易ではない。貧困、健康、働き甲斐、技術革新、公正など、いくつもの目標やターゲットに関わってくる。

・新型コロナの不確実性とリスクマネジメントを、どのようにとらえるのか。当初は、原因も伝播も症状もよくわからなかった。うつさないようにするには、隔離しかなかった。人の移動を止めるしかないので、戒厳令のような都市封鎖で社会経済活動の停止を命じた。

・どういう経緯がどのような結果(アウトカム)を生むのか分からない時は、最悪の事態を想定して、それを避けるような行動をとるように意思決定するしかない。海外では、都市のロックダウン、日本では外出自粛策がとられた。

・第1波が過ぎたところで、症状、感染経路、避けるための手立てについて、様子がかなり分かってきた。第2波がきたが、ここからはコロナ対応を社会経済活動と両立させながら進める方針がとられた。

・しかし、コロナに感染しないための手立てがわかってきたといっても、1)明らかにルール違反をする人々が出た、2)ルールを守っても感染してしまうことが避けられない、3)感染した場合の対応策ははっきりしてきた。

・現在は「不確実な状況」から「リスキーな状況」に移っているといえる。つまり、状況がどうなるか読めないところから、リスクを特定することができるようになってきた。

・リスキーな状況では、①どうすればそうなるかの結果がかなりはっきりしている。②どうなるかの可能性についてある程度判断できるようになっている。

・結果を正確に特定することはできない。その結果が生じる可能性(実現確率)についても明確に数量化することは難しい。客観的データを求める人にとっては、引き続き不確実下の意思決定しかできない。つまり、先が読めない恐い状況が続いていることになる。

・一方、主観確率をイメージできる人にとっては、結果の内容とその確率について、マトリックスが構成できるようになる。三密を避けて、適切に行動すれば、通常の生活には支障がなさそうである。

・行動パターンをアウトカムとして想定し、それが起きる確率を主観的に定める。そこには個人差が生じるので、専門家によるガイドラインを定めて、望ましい方向に持っていく政策誘導がとられた。

・このコロナショックを、社会科学的な視点から、伊藤邦雄先生(一橋大学CFO教育研究センター長)は、監視資本主義(サーベイランスキャピタリズム)とモニタリング民主主義の対比でとらえている。

・中国の国家資本主義は、見張型国家独占で人々の行動を徹底的に追跡する、コロナ感染のコントロールには威力を発揮するが、人々の思想追跡にも使うので恐い社会となる。一方、民主主義は、資本主義のいいところを活かすはずであったが、格差が拡大し、GAFAによるデータ独占も懸念されるようになった。

・民主主義と資本主義の新たなインテグレーション(統合)をどう行うのか。ここにSDGsの16番目の開発目標(‘平和と公正をすべての人へ’)へのソリューションとして、「モニタリング民主主義」を提言する。

・データを一方的に独占するのではなく、そこにガバナンスを効かせる。そのためには、モニタリングのための情報開示が不可欠である。モニタリングを通して、国家と市民、大企業と生活者のデジタルデータの相互監視を行い、デジタル情報、デジタル資産を共有資産にしようという姿勢である。

・そこには、新型コロナ感染症のデジタルデータも、気候変動のデジタルデータも入ってくる。私たちの生活データ、健康データ、金融データがそのまま吸い取られて、誰かに勝手に利用されたのではたまらない。しかし、適切に加工され、今までにない統計データとして、戦略的に活用されるのであれば、社会全体の福祉の向上になることは十分考えられる。

・大和証券グループの中田社長は、SDGsをベースにした金融イノベーションに邁進すると強調した。新型コロナショックが新たな社会課題を生み出しており、そのためには従来とは違った資金の循環が必要になっている。ESG投資もSDGs債もサステナブルボンドもその流れにある。

・ここからが難しいところである。今みえる経済的リターンのプロファイルだけでなく、中長期的な課題への貢献も、社会的リターンとして受け入れるという土壌が培われている。これを従来型のファイナンス理論で解こうとすると、非合理的で非効率となるかもしれない。これを超える新しい金融が始まっているといえよう。

・新型コロナショックが働き方を変えている。DXがそれを可能にしていく。その影響をいかに見える化していくか。新しい動きを、①財務情報として知りたい、②非財務情報としてもっと体系的に知りたい。③KPIも明らかにしてほしい。

・こうしたニーズが高まっており、これらをモニタリングしながら企業価値向上を評価していく。投資家も変化している。

・多くの企業は本業を通してSDGsに貢献することを目指している。しかし、SDGsを経営ビジョンに取り込んでくると、実は次にめざすビジネスモデルの変容が求められる。新型コロナの克服には、イノベーションが必須である。GHG(温室効果ガス)の削減にもイノベーションが不可欠である。

・こうした課題を担うには、目標、リスク、シナリオを開示し、それを共有していくことが重要である。誰にとってマテリアル(重要)であるか。どこにプライオリティをおくか。ここにエンゲージメントの役割がある。

・隠す社会は暗黒である。デジタル資本主義と民主主義が新たに両立する、という意味において、‘開示の共有が第3の道である’という伊藤教授の提言を肝に銘じたい。

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