CXからみたインベスターエクスペリエンスとは
・NRIの機関誌「知的資産創造」の2月号に“CX戦略起点のサービス革新”が特集されていた。CX(カスタマーエクスペリエンス)とは、体験して感じる感覚的な価値のこと。この考え方を投資家に当てはめてみると、どんなことがわかるか。いくつか検討してみたい。
・投資家はどんなビジネスモデルを持っているのか。投資家といっても、機関投資家から個人投資家まで多様であるが、改めて価値創造の仕組みであるビジネスモデルを思い起こしてみる必要がある。
・新型コロナショックにどれだけ耐えているか。一時的なことなので、びくともしていないか。パフォーマンスの急落に青くなっているか。企業への影響はマイナス面プラス面いろいろ出ているが、体力の弱いところは3か月で存亡の危機に直面しよう。
・CXは顧客経験価値のことで、よい商品・サービスとは、客観的な機能的価値だけでなく、直観に訴え心を動かす情緒的価値にも十分配慮することが求められる。
・確かに生活者として、日用品、スマホ、車、家などを購入する時、その消費行動には、過去の経験や現在の経済的状況をもとに、自らの感性を重視して好みの順位付けをしている。CXの提供者である企業は、顧客の経験価値を高めてほしいと行動する。顧客をいかにおもてなしするか。その工夫に力を入れていく。
・NRIでは、エクスペリエンス(経験)には、5つの側面があると分析する。①五感に心地よいと感じる感覚的価値、②すばらしいと心に感じる情緒的価値、③理解が進んで分かってくる知的価値、④ライフスタイルに取り入れてやってみたいと思う行動的価値、⑤参加してメンバーとなって貢献したいと思う社会的価値である。
・こうした経験をすると、1)その商品やサービスを継続したくなり、2)もっと多様に使いたくなり、3)広く共感を求めるようになる。つまり、カスタマーがリピート客になり、単価がアップし、SNSで発信したくなる。プラットフォームを長く使い、サブスク型の契約となり、仲間を呼び込んでくれる。
・従来のCS(顧客満足度)は、顧客の合理的満足と感情的満足を分けて捉えていなかった。どんな商品・サービスが欲しいか、という視点から満足度をみていた。
・これに対してCXは、経済的な満足と感覚的満足を分けて、なぜその商品・サービスがほしいかにフォーカスする。経済的な側面だけではコモディティ化して、価格競争になりやすいが、whatではなく、whyを追求して、ロイヤリティの向上やファン化を図っていく。
・つまり、結果としてのパフォーマンスだけでなく、結果を生み出すに至るプロセスを共有していくのである。このプロセスにCXのストーリー(物語)があり、ジャーニー(旅路)がある、という見方である。
・ここは投資家にとっても全く同じである。株式や投資信託の結果としてのパフォーマンスだけでなく、その投資スタイルに共感できるか、投資する企業の価値創造のビジネスモデルに信頼がおけるか、そのストーリーや戦略こそが根幹である。
・CXを2つの軸で見ると、4つの象限に分けられる。2つの軸は、A)商品・サービス提供者が気付いている感覚(経験価値)と、B)消費者・投資家が気付いている感覚(経験価値)である。
① 両者がすでに気付いている「共有の領域」はすでに常識であって、新しさはない。
② サービス提供者は気が付いていて、消費者がまだ気づいていない「秘密の領域」は、マーケティングによってプロアクティブにアピールできる。
③ 逆に、サービス提供者が気付いていなくて、消費者が気付いている「盲点の領域」は、提供者がリアクティブにすぐにでも改善できそうである。
④ そして、最も難しいのが、両者とも気付いていない感覚の「未知の領域」である。ここの経験価値をどう生み出していくか。そこには潜在価値を創出するイノベーションが必要である。
・イノベーションを起こすには、CXデザインシートが求められる。未知のエクスペリエンスをデザインし、革新的な感覚的な満足(サプライズ)を提供することである。消費者は、今まで感じたことのないおもてなしを受けることになろう。
・投資に例えると、新しいことに挑戦になければ、結果は生まれない。これまでの延長だけでは、大きな成果はついてこない。楽しい「共感の領域」へ進化していく必要がある。
・CXイノベーションへの課題として、NRIでは、例えば、1)介護では、認知症、高齢者虐待、人手不足、低い待遇への対応、2)保育では、児童虐待、保育士不足、働き方、場の価値への対応、3)金融では、顧客本位でない業務運営への対応、4)教育では、問題解決アプローチから問題発見へのアプローチへの対応、5)不動産では、場の提供ではなく、場から生まれる付加価値の提供を挙げている。
・CXを生み出すには、EX(社員の経験価値)も高めていく必要がある。そのためには、①インセンティブだけではなく、②データドリブンの経営(社員がリーダーシップを発揮できるベース)、③経営者のオーナーシップ(変化へのコミットメント)が重要である。
・では、投資家はどうすればいいのか。まずは、企業を見る時、CXを活かしてビジネスモデルの変革に取り組んでいるかを見極めたい。同時に、投資家サイドのIX(インベスターエクスペリエンス)を磨いていくことが求められる。
・金融商品サービスの提供者としては、1)もっときちんと分からせてくれる、2)もっと共感できる、3)新しい仕組みに投資家も参加できるようにする、4)おまかせではなく、投資家としての自分の役割を明確にしてくれる、5)そして、アウトカムとパフォーマンスがきちんと分けられ、各々がよくなるように、IXイノベーションを実践する、ことであろう。CXから投資家も大いに学んで行きたい。