独立社外取締役の効果はいかに
・『「独立取締役が増えると、いいガバナンスになる」というのは迷信にすぎないと思われる。』これは、藤田勉氏(一橋大学特任教授)が日経ヴェリタス(2020年1月26日)に書いた「独立取締役の効果疑え」からの引用である。
・まず、CGC(コーポレート ガバナンス コード)を導入したものの、①企業の収益力は上がっていない、②企業の不祥事が多発している。そもそもCGCを導入した国で、それが上手くいっている国はない、というのが1つの検証である。
・CGが優れていれば、すべてのステークホルダーの利益を長期的に拡大しつづけるはずである。その代表がアップルやトヨタであると、藤田氏は指摘する。では、CGCに従って、ガバナンスをよくしようとしてもうまくいかないのはなぜか。
・その主因として、独立取締役が機能しにくいところを挙げる。CEOが独立取締役を選任している。監視される人(CEO)が監視する人(独立取締役)の人事権と報酬決定権を握っている。さらに、独立性が高いと利害関係がない。関係がないので、CEOを厳しく監視する理由が乏しい。よって、いいガバナンスになるはずがない、というのが藤田氏の論点である。
・これにどう反論するか。今のCGCは、独立取締役を増やし、いろいろ役割を与え、仕組みを改革していけば、ガバナンスはよくなり、ひいては企業価値向上に結びつくはずであるという論理で動いている。
・会社と利害関係がないから、CEOを厳しく監視するインセンティブが働かない、というのはユニークである。ふつうは、利害関係がないから、客観的にCEOを監督できるというのが、有力な見方である。社長に盾突けないというのであれば、執行担当の取締役と同じレベルになってしまう。
・指名委員会で、社長が全く知らない人を社外取締役に選んでくる例は極めて少ないと思われる。報酬委員会で社外取締役の報酬を決めるとしても、その水準は常識的なものであろう。
・独立取締役に就いている人は、地位に固執しているのか。報酬がそんなにほしいのか。社会的使命を担っているという名誉に拘っているのか。
・したがって、取締役会でCEOに逆らってでも、より高い企業価値向上を目指すような意思決定を誘発できないのか。そうだとすれば、藤田氏の指摘は的を射ている。
・では、どうすればよいのか。形は大事である。社外取締役を半数以上にして、多様な人材を整えれば、議論は充実しそうである。取締役会の議長を社外にして、CEOと分離すれば、何をアジェンダにするかについて中身が変わってきそうである。指名委員会、報酬委員会を社外中心にして透明化を高めれば、社長のいいなりにというわけにはいかなくなる。
・独立社外取締役には各々求めるべき役割があり、それに副った資質を有する人を選任していくべきである。社長の知り合いだから、経営者を経験しているから、専門性を持っているから、というだけではなく、選任プロセスの透明性と一定の開示が求められる。
・会社の将来を決めるのに決定的に重要な機能は、社長(CEO)である。では、独立社外取締役が素晴らしいCEOをフェアに選べるのか。社内はもちろん、社外から呼んでくることができるのか。
・社外取締役の責任は重いが、それを慈善事業のごとくやれというのか。社会的使命というだけで、十分なインセンティブが働くとも思えない。CEOを鍛える社外取締役が求められているが、投資家がそれを望んでも、社長には疎ましいかもしれない。社長の器も問われる。
・日本の上場企業にいい会社は数多くある。よいガバナンスの会社もある。しかし、大多数ではない。ガバナンス改革はスタートして5年、まだ形すら十分でない。中身はこれからである。
・今の平均的な姿をみると、これで日本企業のパフォーマンスが平均的に向上するとはいえない。もっとガバナンスを充実させて、そこから10年のデータを積み上げれば、ガバナンスがよくなって企業価値が向上し、株価パフォーマンスが市場全体としてよくなってきたとなるかもしれない。
・しかし、道は遠い。どうすればよいか。ガバナンスをよくする努力は、全上場企業に必要である。まずは、ガバナンス改革に真剣に取り組み、成果が上がりそうな企業を見出して、そこに投資していくことである。
・ガバナンスが唯一の投資尺度ではないが、重要な1つの尺度として活用したい。アクティブな投資がパフォーマンスで上位にくるようになれば、ガバナンスの成果として、認知されるようになろう。
・それでも市場全体からみれば、一部の企業に留まるかもしれない。インデックス投資の投資家からみれば、一部の企業がよくなるだけでは満足できない。市場平均を持ち上げたいのである。
・そうなると、例えば米国企業、日本企業、アジア企業をみて、市場全体を含めて評価する必要がある。現状では、1)ガバナンス改革はまだ十分でない。2)ひいては、経営者の経営力も今一歩である、3)成長戦略への取り組みも弱腰である、という見方が有力である。これではパフォーマンスはついてこない。
・独立社外取締役の効果を発揮するには、形も実質も一層練磨する必要がある。CEOを入れ替える必要がある。企業も日本株式会社のポートフォリオの1社なので、どんどん入れ替わってよい。そうすると、藤田氏のいう新陳代謝の推進こそガバナンスの要ということになろう。独立社外取締役の奮起を促したい。