日本の企業経営に足らないもの~パワーかティールか

2020/02/10

・12月にCFOフォーラム・ジャパンが催された。テーマは、「デジタル時代に求められる未来志向の企業経営」であった。パネルディスカッションでの議論から、今後の企業経営に何が必要かを考えみる。

・モデレータの昆氏(3Mジャパン副社長)は、ケン・ウィルバーのインテグラル理論から展開されている‘ティール組織’に言及した。組織にはいろいろなタイプがある。ワンマン型、軍隊型、多国籍大企業型、家業型など、さらに上場企業でいうと、オーナー型、サラリーマン型、今流のガバナンス型もあろう。

・フレデリック・ラルーが名付けた5色カラーによる組織の特徴と変遷でいうと、ティールは青緑色という意味で、レッド(衝動型)→アンバー(順応型)→オレンジ(達成型)→グリーン(多元型)→ティール(進化型)と繋がる。

・日本企業をみると、創業者がリードするオーナー型企業のパフォーマンスが相対的によく、内部から社長が出てくるサラリーマン型大企業は成熟を突破できず元気がない。オーナー型も後継者が問題で、2代目、3代目が優秀とは限らない。そこで、「攻めのガバナンス」が登場したともいえる。

・ティール型組織は、組織の存在目的に合わせて進化していく。ビジョンや事業は社員の意見を重視して変化していく。個々人に意思決定権があるセルフマネジメント(自主経営)とホールネス(全体性)を重視する。

・このティールは、利益追求のオレンジではなく、コンセンサスや人間関係を重視するグリーンでもなく、セルフマネジメントしながらネットワークでつながり、上下関係のハイアラーキー(階層)ではなく、アドバイスを受けながら自分で決めていく。

・自分たちで組織全体の存在意義を問い、事業内容も組織形態も変えて進化していく。こうしたティール型組織が新しい組織としてこれからの価値創造をリードする、という見方である。

・筆者は、会社を分析する時、社長(CEO)の能力とともに、組織能力を最も重視する。傑出したリーダーで会社は大発展する。その時、そのリーダーの能力をいかに組織能力に埋め込んでいくか。その組織にとって当たり前のような文化になっていれば、特定のトップに過度に依存しなくても、企業は自律的に発展していける。米国の3Mはそうした組織能力を有しているといえる。

・名取氏(弁護士)は、34年の実務経験の中で、17年は企業の中にいた。企業内法務のプロとして、裁判になる前にいかに企業をプロテクトしていくかに尽力してきた。在籍した企業では、IBMが長かった。

・企業がインターナショナル→マルチナショナル→グローバルへと展開する中で、グローバルな全体最適を追求するには、1)業務プロセスやブランドを統一して、地域特性を解消すること、2)予算やヘッドアカウントなど、資産・資源の最適分配をグローバルに行うこと、3)適材適所の統一化を図ることをあげた。

・高倉氏(味の素の理事でグローバル人材担当)は、農水省→ファイザー→味の素へと移ってきたが、味の素ではこの6年間、ファイザーで25年前からやってきたことを実践している。

・それは、いかにダイバーシティ(多様性)を進めるか。味の素は海外売上比率が6割で、従業員3.5万人のうち2.5万人は外国人、130カ国に展開している。

・食文化は国によって異なるので、国×製品は限りなく広がる。適材のためのタレントマネジメント(人)、適所のためのポジションマネジメント(組織)が問われる。

・花田氏(日揮常務執行役員兼CDO:チーフデジタルオフィサー)は、石油ガスのエンジニアからスタートして、アルジェリアにもいたことがある。現在は、人事とCDOを担当している。2018年にITのグランドプラン(ITGP)を作った。オイルメジャーから2030年にマンパワーを3分の1にするにはどうすべきか、という問いに対する方向付けを行った。

・2030年にどういう会社になりたいかを描き、そこからバックキャスティングして、6カ月でプランを作った。5つのイノベーションのロードマップを立てている。横軸は直近の課題から将来の姿(デザイン)へ、縦軸は達成の難易度をとっている。すでに実行に移しているが、ハードルは高い。

・日(にっ)戸(と)氏(オムロン専務CFO兼グロバール戦略担当)は、6年前から経営企画を担当し、グローバル戦略本部長であるが、3年前からCFOも担当した。オムロンでは、社長、CTO、CFOは直接組織を担当せず、全体をみていく。オートモーティブ関連事業の日本電産への売却、SDGsの展開など、全部門をみわたして戦略を遂行していく。

・日本企業のグローバル化に向けて、名取氏はリーダーのパワーが足らないという。強烈なポリシーを決めて、トップダウンで一気ににやりきることを、米国人のエクゼクティブなら迷いなく実行する。日本人には、1)言語のハンデイに加えて、2)気力のハンデイ、3)体力の壁(時差)がある、と指摘する。

・味の素の高倉氏は、チェンジではなくトランスフォーメーションを実践すると決めた。日本企業の人事制度は、米国とは違うし、風土も異なる。外科的な変化は馴染みにくいと、味の素に来てから悩んだ。

・しかし、人事は企業のOS(オペレーティングシステム)の根幹である。チェンジというと全部を変えるように捉えられるので、トランスフォーメーションでいくという方針をとった。ゆらぎをつなぎ、ずらしていく。こわすのでなくかえる、そしてもっとかえる、という展開である。

・日揮の花田氏は、プランは作れても、どう実現するかについて、二面作戦をとった。モード1(今の課題の解決)をモード2(将来のIT経営デザイン)にいかにもっていくか。まずIT部門を1つにまとめた。次に、2つに分けた。

・生産性アップのIT(モード1)と新しい価値創造のIT(モード2)に分けて、各々にDOO(デジタルオペレーティングオフィサー)を付けた。スピードが違い、テーマが違うことを考慮した。花田氏は元々、地質工学を学んだので、人材の地質をかえる工夫をした。

・DX(デジタルトランスフォーメーション)に乗れない人材(ねんど層)に若い人材(砂)を入れて、新しい地層を作ろうとした。水と油ではなく、地盤改良であるという。デジタル化推進のカギは人材と組織にある。よって、人材開発とCDOを兼務するというのは1つのアイデアであろう。

・オムロンの日戸氏は、創業者のサイニック理論をベースに、今は百花繚乱ともいうべき時期と位置付ける。外部の経営環境の変化に一喜一憂せず、バックキャストしていく。イノベーションがコアなので、そのためのリソースを捻出していく。ROICをベースにポートフォリオの入替を、規律をもって実行すると強調した。

・未来はきっと明るい。でも、視界不良である。雲、霧、嵐の中に突っ込んでいくには、コックピットに計器、コンパスが必要である。このままでは会社は潰れると危機感を持ちつつ、もがきながらも会社を活かして自分も前へ、という日戸氏の気概が印象に残った。

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