アクティブ対パッシブ~リターンを超える投資とは

2020/02/03 <>

・2年前にCFA協会研究財団から「投資運用の未来」が出版された。著者のロナルド・カーン氏(ブラックロックのシステム エクイティ リサーチのグローバルヘッド)は、この分野の第一人者で、リチャード・グリノルドとの共著「アクティブ・ポートフォリオ・マネジメント~運用戦略の計量的理論と実践」でもよく知られている。もともとはハーバード大学の物理学博士である。

・投資運用の未来はどうなるのか。カーン氏の論点を参考にしながら、次の10年のトレンドについていくつか確認しておきたい。50年前はアクティブ運用が中心であったが、30年前からインデックス運用が本格化し、最近はスマートインデックスが注目されている。テクノロジーの進歩とともに、クォンツ運用の進展も著しい。

・筆者の経験を辿っても、個別の産業・企業を分析する企業アナリストから、機関投資家向けセルサイド株式アナリスト、運用機関に移ってバイサイドリサーチから、バランス運用、クォンツ運用、インデックス運用のマネジメントなどを担当した。現在は、中小型株式の独立アナリストとして、かつての企業アナリスト業務を担っている。

・この間、資産運用の理論、モデルは大きく発展している。理論研究と実証研究はさまざまな展開をみせているが、運用の現場においては、それらが活用されつつも、みんながハッピーというわけではない。現実の経済、金融、企業は動いている。一定の前提をもとにモデル化しても、それがうまくあてはまるとは限らないからである。

・ポートフォリオマネジャー、ファンドマネジャーというプロにとって、個人の腕前、組織の力量には大きな差がある。結果として、資産運用のパフォーマンスが顧客である投資家に十分満足いただけるものとはなっていない。

・年金や老後資金の運用において、能力の高いプロに任せたいと思うが、それがうまくいくかどうか常に不安である。かといって、すべて自分で運用するわけにもいかない。

・プロの運用をみると、積極的(アクティブ)にポートフォリオを自ら構成するケースと、何らかのインデックスをそのまま利用して受け身(パッシブ)に運用するケースがある。

・その中で、アクティブ運用は敗者のゲームともいわれ、中々思ったパフォーマンスが上がらない。一方、インデックス運用は指数に連動するだけで本当に大丈夫なのか。運用の成果はリターンであるが、そのリターンのあげ方について、もっと自分なりの信念をもちたいとも思う。でも、信念を掲げて、それがリターンに結びつかなかったら、身も蓋もない。

・投機と投資は何が違うか。投機には本来熟慮という意味を含むが、一般には、よく考えもせず不用意に、勝手な思い込みで勝負をかけることと受け取られている。まれにうまくいっても実力とはいえない。一方、投資とは、グレアム・ドッドの「証券分析」にあるように、徹底的かつ厳密に調査分析した上で判断する。彼らの弟子がウォーレン・バフェット氏である。

・噂や値上がりの動きに釣られることなく、本質的価値を見い出して、それを十分下回る安全余裕度をもった価格の時にのみ買う。株式投資でいえば、1社では安全といえないから10~30社の銘柄を保有すべし、となる。

・株式、債券、不動産、商品、収集品など、全ての資産に市場は成り立つが、これが公正に取り引きされるならば、そこから本来のポートフォリオを作ることができる。このポートフォリオの金融的価値を、期待効用理論に基づいて、平均値(リターン)と分散(リスク)で測ることが、MPT(現代ポートフォリオ理論)の始まりであった。

・株式のインデックス運用は、市場全体のリターン(平均値)とリスク(分散)をパフォーマンスのベースとする。過去の実績が将来を約束することにはならないが、一定の前提のもとに期待値として用いる。実際には取引コストなどによって多少誤差が生じる。

・アクティブ運用は、市場平均を示すインデックスを上回るパフォーマンスを目指す。何らかのファクター(要因)に注目して、マーケットを上回るαを上げる。それにはαを生むための独自の情報収集・分析・予測が必要となる。

・もし市場が完全に効率的であったら、自分だけの独自の分析は成り立たない。自分が知ったことはみんなも知っており、市場にすでに織り込まれていることになる。この効率的市場仮説に立つと、アクティブ運用には出番がなくなる。ところが、現実はそうでもない。

・株式投資の世界では、まだアクティブ投資が主流であるが、インデックス(パッシブ)投資の台頭も著しい。アクティブ運用は、調査に手間暇がかかるからコストも高い。このコストも入れると、パフォーマンスが低下する。

・αが、プラスのリターンとして投資家に貢献するファンドは多くない。調査にコストをかけても、それを上回るパフォーマンスに結びつかないならば、その調査には価値がない。調べてもムダなことはやっていることになる。

・アクティブ運用がゼロサムゲームなら、勝った人がいれば負けた人もいる。インデックス運用はもともと市場平均並みだから勝ち負けはない。実際、アクティブ運用のパフォーマンスをみると、負けている運用機関が多い。だから、敗者のゲームといわれてしまう。

・では、アクティブ運用マネジャーの能力はどうやって測るのか。それには、IR(情報レシオ)=α(市場を上回るリターン)/σ(リスクを表す標準偏差)をみる。IRはパフォーマンスの一貫性を評価する尺度である。

・さらに、このIRは、IR=IC(スキルを示す情報係数)× (分散投資の広がり)×TC(実施効率の伝達係数)で表せる。ICはマネジャーに固有のスキル、√BRはマネジャーの意思決定の頻度、TCは実際にその通りに実行できているかどうかの相関係数を示す。このスキル、広がり、効率がアクティブ運用の勝利には決定的である、とカーン氏は強調する。

・さまざまな情報やデータマイニングから、新しい投資アイディアがひらめいたとする。そのアイディアが、1)合理的か、2)予測力があるか、3)一貫性があるか、4)付加的か、を必ず検証する。偏りがあったり、雑音であったり、たまたまであったりするデータでは使えない。ここに、ビックデータに関するクォンツ分析が効いてくる。

・これらの点を踏まえて、カーン氏は投資運用における7つのトレンドとして、①アクティブからパッシブへ、②アクティブ運用の競争格差、③アクティブ運用のチャンス、④ビックデータの活用、⑤スマートベータによるファクター投資、⑥リターンを超えるサステナブル投資、⑦手数料の縮小を挙げている。

・当初はインデックスが投資の最適アプローチで、アクティブは無用になるという主張が強かったが。①行動ファイナンス、②裁定価格理論、③市場の過度の変動、④情報の非効率性、⑤投資の制約条件など、市場は必ずしも効率的でない。

・スキルが十分でないアクティブ運用マネジャーにとっては、競争上生存が厳しくなっているが、新スキルを身につけるならば、アクティブ運用を拡大するチャンスが増えているという見方もできる。

・フェアディスクロジャー規制で、従来型情報の価値は下がっているようにみえるが、パッシブ運用マネジャーとの対比では、アクティブ運用の機会を向上させることは多いにありそうである。

・ビックデータは、財務データ中心ではなく、テキストデータ、自然言語処理も有用になってくる。画像やビデオも大いに解析されるようになろう。

・スマートベータは一種のファクター投資なので、市場を上回るパフォーマンスを上げるという点で、クォンツ型のアクティブ運用である。

・では、ピュアにアルファリターンを求めるアクティブ運用はどうなるのか。従来通りのやり方では、差別化がさらに難しくなるので、パフォーマンスは低下しよう。

・新しい情報の非効率性、アノマリーを求めてイノベーションを行うリサーチ能力が必要とされる。このためにはコストがかかる。よって、成功するピュアアルファ投資は相対的に高価なものになる、とカーン氏は指摘する。

・ESGやSDGsを考慮するサステナブル投資では、従来型のリスクをコントロールしながらリターンを得る、というやり方が必ずしも通用しない。つまり、投資家の効用関数が、正規分布を前提にした統計上の一次モーメント(平均値)と二次モーメント(分散)では捉えきれないのである。

・道徳的見解や倫理的見解を踏まえて、受益者への義務を履行するためには、社会的、環境的価値についても、効用関数に組み込んでいく必要がある。期待効用の極大化ではなく、一定の満足度基準を多次元で表していく必要があるかもしれない。

・ここのモデル化はまだできていない。私見ではあるが、まずは定量データに定性判断を加えた評価モデルを工夫しながら、期待効用などの規範モデル(normative model)に組み込むことが求められる。こうした定量・定性を統合したコンジョイント メジャメント モデルが望ましい。

・運用の実務では、現在さまざまな工夫をなされつつある。AIの活用も含めて、実績としてのパフォーマンスに結びつくかどうかは今後の課題であり、その成果に期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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