CSVにみる発想の転換
・多くの企業活動は、伝統的顧客、限定されたマーケット、従来型のアウトソーシング、自己中心的なグローバル化などにしばられて、社会のニーズに十分応えておらず、それに対応するイノベーションへの挑戦が低下しているのではないか、とハーバード大学のマイケル・ポーター教授は指摘する。彼のプレゼンテーションを直接聞いたので、その内容を咀嚼してみる。
・そもそも社会的課題の解決を目指すソーシャルバリュー(社会的価値)の追求と、企業価値(コーポレートバリュー)の追求は両立する、とポーター教授はいう。例えば、環境汚染を減らすにはコストがかかるというが、それはこれまでのやり方に問題があるからである。リソースやシステムが効率的に使われていないからで、ここにイノベーションを起こせば汚染は克服できる。
・労働環境における事故についても、安全と企業の利益をトレードオフ(折り合い)の関係で捉えることは間違いである。こうした認識は誤りで、安全性を高めれば労働生産性は向上する、というように考えるべきだ。トレードオフではなく、シナジー(相乗効果)を追求していくことが求められる。
・社会的価値を上げることと、経済的価値の追求にはシナジーがある、とポーター教授はいう。これをイノベーションで解決していく。そこに、企業の新しい存在価値がある。例えば、水をもっとほしいという社会的ニーズに対して、企業はイノベーションを通じてその解決に貢献していく。
・ポーター教授のいうCSV(共通価値の創造、Creating Shared Value)を追求するには、3つの見直しが必要である。(1)製品・サービス、顧客、ニーズの再認識、(2)バリューチェーンの見直しによる生産性の再定義、(3)企業活動を行う地域を活性化させるローカルクラスターの開発、である。
・例えば、インシュリン関係を得意とする医薬品メーカーのノボノルディクス社(デンマーク)は、先進国の人々に糖尿病の薬を提供して成長してきたが、これは一部の人たちに対する貢献でしかない。途上国も含めて、医療サービス、薬を提供しようとすると、薬、価格、教育などを全面的に見直す必要があると考えた。そこで新たなターゲットを定め、テクノロジーでそれを切り開くことにした。このイノベーションに成功すれば、それは途上国での市場開拓とともに、先進国でもそのまま通用するはずである。リバース・イノベーションが実現する。
・CSVは制約条件を取り払い、社会から求められる課題を大きく捉えて、そのテーマを解いていく。その中で、社会的価値を含めたコーポレートバリュー(企業価値)を拡大していくことが、大きなチャンスを切り開くという発想である。ポーター教授のCSVという視点を、企業を評価する時のもう1つの軸としてぜひ活用したい。