ものづくりを超える日立の社会イノベーション
・日立イノベーションフォーラムで、日立製作所(コード6501)の中西宏明社長の話を聞いた。最も印象的であったことは、日立はものづくりを超えてきた、という点である。社会イノベーションを事業にするという思いが実行に移されている。
・世界のGDPは伸びて行く。とりわけアジアの伸びが高く、2030年には世界のGDPの47%(2010年26%、1990年11%)をアジアが占めるようになる。その時日本はわずか4%にとどまる。アジアが伸びるという見通しに疑問のある人は少ないと思う。
・その成長に当たっての課題は、都市化である。都市の人口が増えて行く。都市の社会インフラ(エネルギー、交通、水、通信など)をいかに整えていくかが大きなテーマであり、ビジネスチャンスでもある。この都市化がテーマであるという点は、ドイツのジーメンスでも全く同じ認識である。
・そこで日立は社会イノベーションをテーマに、日立グループが社会イノベーションを担っていくことを宣言し、ここで新しいビジネスを創り上げようとしている。今後10~20年で、100万人都市がアジアに続々登場してくる。当然、電力、情報通信、水などが必要になるはずで、すでにさまざまなプロジェクトが動き出している。
・日立の社会イノベーションは、社会インフラ作りとITを融合させることによって、新しい仕組みを創ろうとしている。CEMS(コミュニティ・エネルギー・マネジメント・システム)もその1つである。ビッグデータ(大量のデータ)を活用することによって、人の行動を分析し、新しい商業施設、災害に強い町づくりなどに結び付けていく、ということもできる。
・そもそも日本の強みは何か。それは、ものづくりにある、というのが従来の基本的な考え方であろう。ものづくりが大切であることに何ら異論はないが、いいものを作るというやり方だけでは、アジアでは必ずしも通用しない。ものづくりをもう少し突き詰めてみると、現場に密着したきめ細かな対応である、と中西社長はいう。狭い意味でのものづくりにこだわるのではなく、現場に密着し、現場と対話して、そのフィードバックを活かして、よりよいシステムを作り上げていくという考えである。
・単に自国のものを、他の地域にもっていけば、役に立つはず、売れるはず、ということではない。例えば、シンガポールは四季のない国である。空調エネルギーシステムについて、日本や欧米のものをそのまま持っていけばよい、というものではない。別のノウハウが必要である。水の配管についても、その国の実情に合わせて行く必要がある、と中西社長は強調する。現場密着で本当のニーズを知って、それに合致したシステムを提供しようとしている。
・ストレージ事業では、単なるベンダーからITソリューションプロバイダーへシフトしていく。シリコンバレーに拠点を有するが、米国、アジア、欧州に地域本社を置いて、マーケットインしていく。英国での鉄道事業では、現地に販売、エンジニアリング、メンテナンスの会社を設立し、英国人のマネジャーを軸に、現地で雇用を増やし、継続的な収益を上げて行こうとしている。水に関しては、シンガポールのハイフラックス(Hyflux)、日本の商社と事業運営会社を設立して、インドで工業立地の水の利用について、ビジネスの拡大を目指している。
・社会イノベーションの戦略強化は、2010年の中西社長の就任から加速されている。現在の中期計画では、2012年の見通しである売上高7900億円、営業利益327億円、売上高営業利益率4.1%、海外売上高比率23%に対して、2015年度の目標は、同1兆円、同700億円、同7%、同33%を掲げている。
・昨年、かつて日立のトップであった庄山氏のコメントを聞く機会があった。ものづくりは、単にものを作るのではなく、ものを作る仕組みの重要さを強調していた。今の日立はものづくりを超えようとしている。世界のトップクラスとどこまで戦っていけるか、日本を代表する日立の社会イノベーションに注目したい。