円安一服の背景となった安倍政権内の要人発言

2013/01/18

今週16日の日経平均は5日ぶりに反落し、終値は1万600円。下落率(マイナス2.56%)も昨年5月以来の大幅なものとなりました。来週開催される日銀金融政策決定会合(21日~22日)や、本格化する日米企業決算発表などのイベントを控え、上値を伸ばす材料の決め手に乏しい中、為替市場の円安が一服したことで、輸出関連株を中心に利益確定売りに押されたことが背景です。

一方で、中小型の建設・橋梁関連株や、太陽光発電関連株、新興市場の一部銘柄が物色され、株式市場の中で資金が循環している動きも見せており、今のところは株式市場に対する先高感と買い意欲の強さが感じられるため、トレンド転換というよりは、いったんの調整と見た方が自然です。もう一段の下押しには注意が必要ですが、調整が終われば、1月のSQ値(1万771円)が戻りの目処として意識されそうです。

円安の一服は、安倍政権内の要人発言がきっかけです。15日に甘利経済財政・再生担当相が「過度な円安は輸入物価に跳ね返る。国民生活にマイナスの影響もあり得る。」と述べ、16日には石破幹事長が「(過度な円安は)産業によっては困る企業も出てくる。」と発言しました。こうした発言の裏には、急ピッチな円安進行に対する米国への配慮などもありそうですが、現政権が円安を積極的に誘導するのではなく、あくまでも「過度な円高を修正していく」という姿勢を示したものといえます。

「○○円までさらに円安が進めば日経平均は1万○○円になる」という見通しをよく耳にしますが、最近になって、円安による企業業績への寄与期待というメリットと、輸入コスト上昇などによるデメリットの議論も目立つようになってきました。先程の要人発言もこうした議論の中から出てきたものと思われます。実際のところはどうなのかについては、国内でもこれから本格化する企業業績発表シーズンや、貿易収支などの経済指標などで見極めていくことになります。

また、直近までの株式市場は「円安と株高の上昇スパイラル」によって、イケイケで上昇してきましたが、安倍政権に対する期待と政策観測(大胆な金融緩和と積極的な財政出動)による円売りと、米中の経済マクロ指標の改善や、欧州情勢の落ち着きなど外部要因の好転によるドル買いやユーロ買いのリスクテイクの動きが結果として円安に反映された格好です。

ただ、外部要因が悪化し、リスク回避の動きが強まれば再び円高になる可能性があります。米国では、債務上限の引き上げや、年初に回避された「財政の崖」も、実際は歳出を強制的に削減する措置が2カ月間凍結されただけで、間もなく与野党協議の第2弾が始まるほか、欧州でもイタリアやドイツで総選挙が控えています。また、世界の景気についても、先日世界銀行が2013年の見通しを下方修正したばかりで、このまま楽観的なムードが続くか微妙なところです。さらに、国内現政権の政策も失望に変われば、財政規律の悪化などが意識されて全体的な日本売りとなり、「円安・株安・債券安」のトリプル安になる恐れも秘めています。政策運営を一歩間違えれば、必ずしも「円安=株高」ではなくなるわけです。

今後の株式市場も引き続き為替市場に連動しやすい状況が続くと思われますが、「円安だから株価が上昇」という単純な構図ではなく、外部要因と内部要因を整理してウォッチしていくことが重要となります。いずれにしても、今回の株価下落が良い意味で過熱感を冷やし、しっかりした相場展開の足掛かりになってくれればと思います。

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