インテグループ(192A)小型案件における直接提案型の営業スタイルに特徴がある
完全成功報酬制で中小企業にM&A仲介サービスを提供
小型案件における直接提案型の営業スタイルに特徴がある
業種:サービス業
アナリスト:大間知淳
◆ 完全成功報酬制で中小企業にM&A仲介サービスを提供
インテグループ(以下、同社)は、完全成功報酬制で中小企業にM&A仲介サービスを提供している。最低成功報酬額を15百万円と低い水準に設定しており、中小企業の中でも、売上高10億円以下の企業の案件や、成約単価(成功報酬額)50百万円以下の小型案件に強みを持っている。
同社は、三菱商事(8058東証プライム)や、M&A仲介会社のサンベルトパトーナーズ(現かえでファイナンシャルアドバイザリー、東京都千代田区)での勤務経験を持つ代表取締役社長の藤井一郎氏と、現取締役副社長で公認会計士の籠谷智輝氏によって、07年6月に設立された。
企業がM&Aを検討する場合、ファイナンシャル・アドバイザー(以下、FA)やM&A仲介会社を利用するのが一般的である。FAは、売り手または買い手のいずれかと契約し、契約先の利益最大化を目指して助言し、買い手(または売り手)、またはそのFAとM&Aの実現に向けて交渉する専門業者である。上場企業やクロスボーダー案件で主に利用されている。
一方、M&A仲介は、売り手と買い手の双方と契約して、中立的な立場で交渉や調整を行い、M&Aの実現を目指す専門業者である。主に中小企業で利用されている。同社は、M&A仲介を中心にサービスを提供しているが、案件によってはFAとしても活動している。
同社のM&A仲介は、初期相談から最終のクロージング(株式譲渡の実行・譲渡対価の支払い)まで、一人のコンサルタントが一気通貫で支援する体制をとっている。一気通貫の支援体制では、全体のプロセスに精通したコンサルタントが顧客の相談に乗れるため、顧客の信頼を醸成できるほか、顧客に寄り添った質の高いサービスが提供可能となっている。
M&A仲介サービスの業務フローの各プロセスは以下の通りである。
① ソーシング
同社は、会社・事業の売却を希望する経営者または企業(売り手)と、会社・事業の買収を希望する企業(買い手)から幅広くM&Aに関する初期相談を受けている。多くの案件を集めるため、インターネット等への広告出稿、ダイレクトメール、コールドコール(新規顧客に対して行う電話営業)によるダイレクトソーシングに加え、金融機関等の提携先からの紹介によるネットワークソーシングを実施している。
② 案件化
売り手から売却相談を受けた場合、秘密保持契約を締結した上で、売却可能性の診断、企業価値評価、買い手候補の提案を行い、売り手との間で業務内容や成功報酬等を定めた仲介契約を締結する。仲介契約の締結後、企業(売り手)の会社概要、財務内容、希望条件等を含む案件概要書及び付属資料一式からなる資料パッケージを作成し、買い手候補への打診を行う。
③ 買い手への提案
買い手から買収相談を受けた場合、買収希望をヒアリングした上で、買収ニーズを同社内のデータベースに登録する。その後、買い手の買収ニーズに合致する具体的な売却案件が出てきた際に、ノンネームシート注1による提案を行い、秘密保持契約を締結した上で、詳細資料による提案を行う。その後、売り手とのトップ面談まで進む場合には、買い手と仲介契約を締結する。
売り手の売却ニーズに基づいて買い手候補に売却案件を紹介することが一般的であるが、これとは逆に、買い手の買収ニーズから売り手候補にM&Aを打診することもある。
④ マッチング及びエグゼキューション
同社は、売り手と買い手を中立的に仲介する立場として、売り手と買い手のマッチング、トップ面談の設定、意向表明書注2の授受、基本合意注3の締結、デューデリジェンス注4の設定、最終条件の交渉、株式譲渡契約書注5等の契約書類等の調整、譲渡の実行・譲渡対価の支払い(クロージング)まで、M&Aの一連のプロセスを支援し、クロージングが完了した時点で、売り手と買い手の双方から成功報酬を受領する。
また、同社が売り手(または買い手)のFA、提携先が買い手(または売り手)のFAの立場でM&Aを支援することもあり、その場合、M&Aが成立すれば、同社は売り手(または買い手)からのみ成功報酬を受領する。
なお、提携先から売り手(または買い手)の紹介を受けていた場合は、クロージング後に、業務提携契約に定めた案件紹介料(売り手または買い手から受領した成功報酬の一定割合)を同社から提携先に支払っている。
現状は主にダイレクトソーシングによる案件開拓を行っているため、23/5期に紹介料が発生した案件は、全成約47組中8組と低い水準にある。21/5期から23/5期までの成約組数に占めるネットワークソーシングの割合は12%であった。しかし、同社は、成長の加速を目指し、今後は、金融機関等の提携先からの紹介によるネットワークソーシングを拡大する方針を掲げている。
◆ 小型案件において価格競争力のある料金体系を採用している
M&A仲介会社の多くは、クロージング時に受領する成功報酬だけでなく、仲介契約を締結した時点等で生じる着手金や、基本合意を締結した時点等で生じる中間金を受領している。また、一部の会社は、契約期間に亘って固定金額の月額報酬を顧客から受領している。一方、同社は、着手金、中間金、月額報酬を受け取らない「完全成功報酬制」を採用しており、上場M&A仲介専門会社注6の中で完全成功報酬制を採用しているのは同社だけと説明している。
最終的にM&Aが成立しなかった場合、着手金や中間金は返金されない場合が多いようである。同社は完全成功報酬制を採用しているため、顧客にとっては依頼や相談のハードルが低く、安心してサービスを利用できる仕組みとなっている。半面、完全成功報酬制であるため、同社にとっては、案件に着手してから売上計上まで時間が掛かるうえ、各期の売上高の変動が大きくなる可能性がある。実際、後述するように、同社の経常損益は、過去5期において大きく変動している。
また、同社は、成功報酬の計算基準として、売買金額(譲渡金額)をベースとした株価レーマン方式を採用している(図表1)。
買い手が売り手に支払う株式の売買金額が20億円の場合、各段階の成功報酬額は、5億円以下の部分が25百万円、5億円超から10億円以下の部分が20百万円、10億円超から20億円までの部分が30百万円となり、成功報酬額の合計は75百万円となる。
一方、M&A仲介会社の中には、株価レーマン方式でも売買金額に総負債額を加算した金額(移動資産総額)をベースとした方式を採用している会社も存在する。株式の売買金額と総負債額が各々20億円であった場合、各段階の成功報酬額は、5億円以下の部分が25百万円、5億円超から10億円以下の部分が20百万円、10億円超から40億円までの部分が90百万円となり、成功報酬額の合計は135百万円となる。売買金額ベースの方式は移動資産総額ベースの方式に比べ、顧客の負担が少なくなる。
M&A仲介各社は、通常、最低成功報酬額を設定している。上場しているM&A仲介専門会社の多くが最低成功報酬額(税別)を20百万円~25百万円としているのに対し、同社は15百万円に定めている。売買金額が2億円の場合、最低成功報酬額が適用されるが、最低成功報酬額を25百万円としているM&A仲介会社を利用する顧客の負担率(売買金額に対する成功報酬額の割合)は12.5%に達する一方、同社を利用する顧客の負担率は7.5%にとどまり、同社は、ターゲットとしている小型案件において、この面でも価格競争力を有している。
◆ 良好な営業利益率や強固な財務体質に特徴がある
同社の売上原価は、コンサルタントの人件費(給料手当、賞与、法定福利費)と経費(業務委託費、旅費交通費、案件紹介費等)によって構成されている。23/5期において、各項目の売上高に対する比率は、人件費38.2%(給料手当16.3%、賞与18.7%、法定福利費3.1%)、経費12.4%(業務委託費0.6%、旅費交通費6.2%、案件紹介費5.6%)であった。結果、売上総利益率は49.4%であった。
同社は、各コンサルタントの成果に基づき、同業他社よりも高い料率の業績インセンティブ(賞与)を支払う報酬制度を導入している。23/5期は、優れた成果を出したコンサルタントが多かったため、売上高に対する賞与(売上原価)の比率は、22/5期の9.2%から18.7%に上昇した。また、直接営業を主体としているため、同社の案件紹介料は絶対額では大きくはないが、売上高に対する比率は、22/5期の0.8%から23/5期には5.6%に上昇する等、売上総利益率の変動要因として無視できない存在となっている。
一方、23/5期の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は390百万円、販管費率は30.7%であった。内訳としては、広告宣伝費が182百万円(売上比14.4%)、役員報酬が73百万円(同5.7%)、管理部門の人件費、採用教育費、地代家賃等のその他が134百万円(同10.6%)であり、固定費が中心と推測される。営業利益率については、22/5期は減収に伴う販管費率の高まりにより2.1%にとどまったが、23/5期においては、増収効果による販管費率の改善により18.7%へと上昇した。
なお、24/5期第3四半期累計期間においては、好調な売上高を背景に固定費負担が軽減したため、営業利益率は46.6%へと急上昇している。
23/5期末において、有利子負債はなく、財務体質は強固である。自己資本比率は22/5期末の90.9%から62.9%に低下したが、これは、大幅増益に伴い、決算賞与を中心とした未払金や未払法人税等が急拡大したためである。
資産サイドを見ると、23/5期末において、現金及び預金が1,038百万円と、総資産(1,096百万円)の94.8%を占めている。有形固定資産(9百万円)や投資その他の資産(39百万円)等によって構成される固定資産合計は49百万円に過ぎない。
◆ 売上高と成約組数を重視している
同社は、KPIとして、「売上高」と「成約組数」を挙げている。また、これらに影響を与える指標として、「成約1組当たりの売上高」、「コンサルタント1人当たりの成約組数」、前期末と当期末のコンサルタント数の和を2で除して算出した「平均コンサルタント数」を把握、管理することで、売上高及び成約組数の持続的な成長を目指している。KPIの推移は図表2の通りである。
同社は、創業来、少数精鋭でインバウンド型の営業戦略を採っていたが、19年頃からコンサルタントの採用を積極化し、アウトバウンド型営業に舵を切った。結果として、コンサルタント1人当たりの成約組数は減少したが、コンサルタント数の増加により、成約組数は拡大傾向にある。なお、22/5期においては、コンサルタント数は増加したものの、コンサルタント1人当たりの成約組数が減少したため、成約組数も減少している。
同社は、中小企業の中でも、売上高10億円以下の企業や、成約単価(成功報酬額)50百万円以下の小型案件を主要なターゲットとしている。成約1組当たりの売上高(成約単価)については、大型案件の寄与が大きかった19/5期は33百万円であったが、通常の状態に戻った20/5期は17百万円となり、22/5期に掛けては20百万円~25百万円で推移した。23/5期については、5百万円であった最低成功報酬(税別)を、22年7月に10百万円に引上げたこと等から、23/5期の成約1組当たりの売上高は27百万円に上昇した(最低報酬額は23年5月に15百万円に引上げられた)。
◆ 特定の顧客には依存していない
M&A仲介というサービスの特性上、継続的に売上高の10%以上を占める主要顧客は見当たらない(図表3)。
同社は、M&A仲介を主力サービスとして提供しているため、仲介が成約した場合、売り手と買い手から同額の成功報酬を受け取ることになる。しかし、開示されている22/5期、23/5期、24/5期第3四半期累計期間においては、売上割合が10%以上の先は22/5期と24/5期第3四半期累計期間に各々1社であり、複数とはなっていない。
22/5期の戸田商事向け売上高は、複数案件の成功報酬を合計した金額が開示対象となる売上高の10%以上となったものである。24/5期第3四半期累計期間の高島(8007東証プライム)の売上高については、仲介ではなく、FAとして関与した案件であった。