ソラコム(147A)大企業の力を利用した成長と上場を目指す「スイングバイIPO」を実現

2024/04/17

世界で600万の契約回線を持つIoTプラットフォーム「SORACOM」を提供
大企業の力を利用した成長と上場を目指す「スイングバイIPO」を実現

業種:情報・通信業
アナリスト:大間知淳

◆ 世界で600万の契約回線を持つIoTプラットフォーマー
ソラコム(以下、同社)は、世界で600万の契約回線を持つIoTプラットフォーム「SORACOM」を開発、提供している。IoT(Internet of Things)とは、あらゆるモノがインターネットにつながり、情報交換することで相互に制御する仕組みである。同社グループは、同社、英国子会社、米国子会社の3社で構成されている。

同社は、日本IBMや、AWS(Amazon Web Services)のデータセンターを運営するアマゾンデータサービスジャパンで勤務した技術者である現代表取締役社長CEOの玉川憲氏らによって、14年11月に設立された。共同創業者である舩渡大地常務取締役COOと安川健太常務取締役CTOは、同社設立3カ月後の15年2月に取締役に就任している。

◆ KDDIによる子会社化から上場に至った経緯
信用力の低さから大企業との契約締結に課題を抱え、契約回線数が8万にとどまっていた同社と、IoTビジネスの強化を目指していたKDDI(9433東証プライム)の思惑が一致したため、同社は、17年8月に、KDDIの連結子会社(上場前の出資比率は65.7%)となった。上場時の公募増資と売出しにより、出資比率は44.4%に低下し、同社はKDDIの子会社から持分法適用会社に移行した。

KDDIグループ入り後、契約回線数は急増したが、同社は更なる成長を模索した。その際、同社が採用したのが「スイングバイIPO」というコンセプトである。スイングバイとは、「大きな惑星の引力を使うことで宇宙船や探査機を再加速し、より遠くまで進む」という宇宙航行技術であり、ベンチャー企業が大手企業の様々な力を利用し、IPOを通過点として更なる成長を目指すことを意味している。

17年8月のグループ化に伴い、KDDIは、五十嵐知子氏(現取締役CFO、21年に同社に転籍)と藤井彰人氏を取締役として派遣し、21年6月には岩松カール氏を取締役(監査等委員)として派遣している。24年4月時点では、取締役8名のうち、五十嵐氏を含む4名が業務執行を行う取締役、2名が独立社外取締役、残り2名がKDDI在籍者となっている。

同社は、KDDIの「IoT世界基盤」(グローバルIoTアクセス)の基礎となる通信ネットワークにSORACOMのプラットフォームを提供しているほか、技術開発支援等の業務を受託している。KDDI向け売上高の割合は、22/3期は約8%、23/3期には約7%で推移した。

同社は、IoTプラットフォーム事業の単一セグメントであるが、サービスを継続的に提供することから生じる「リカーリング収益(プラットフォーム利用料)」と、同一顧客から毎期必ずしも継続的に計上できるものではない「インクリメンタル収益(商品販売及びその他)」に売上高を分類している。23/3期の売上高構成比はリカーリング収益68.7%、インクリメンタル収益31.3%となっており、継続的な収益であるリカーリング収益が中心を占めている(図表1)。

◆ SORACOMのサービスの概要と特徴
(1) サービスの概要
テクノロジーの高度化が進む中、企業がIoTを導入するには、デバイス等のハードウェアや、データ通信、セキュリティ、生成AI等の多くの技術要素が複雑に絡む様々な課題への対処が必要となっている。

同社グループは、顧客企業がIoTを導入、運用する際に直面する共通課題を解決するIoTプラットフォームSORACOMにおいて包括的なサービスを提供している。具体的には、インターフェースや、IoTデバイス(通信モジュール、センサー、クラウド型カメラ、スマートメーター等)やSIM(通信利用者を識別するために固有の番号が割り当てられたカード)等のハードウェア、通信回線(コネクティビティ)、データ保存や可視化機能等のアプリケーションソフトウェア、各種ネットワークサービス等をプラットフォームサービスとしてワンストップで提供している。

様々なIoTサービスを始めるための必要な機能がレゴのブロックの様にモジュールとして揃っているので、顧客企業は、同社グループがWeb上で提供するIoTストアから、SIM1枚、デバイス1個から購入し、迅速かつ効率的にIoTサービスを始めることが可能となっている。同社では、規模や将来性等を踏まえて、IoTに精通したアカウントマネージャーを付けて対応している顧客をメジャーアカウント、それ以外をセルフサービスアカウントと呼んでいる。セルフサービスアカウントの中からも、契約回線数やデータ通信料の増加により、プラットフォーム利用料が急拡大した結果、メジャーアカウントに成長した例も多いようである。

同社は、SORACOMを利用したIoT導入を支援するパートナープログラムを構築しており、顧客企業がIoT活用を進める上での課題を解決するエコシステムを形成している。23年12月末では220社を超えるエコシステムパートナー企業が登録されており、これらが供給するIoTデバイスは200種以上となっている。

(2)サービスの特徴と技術的優位性
SORACOMの特徴と技術的優位性として、同社は以下の点を挙げている。

1)パブリック・クラウド上に構築した独自のモバイル・コア
端末の制御や、加入者情報の管理、通信経路の設定等を行うモバイル・コア(モバイル通信の基幹システム)は、従来、交換機やサーバー等のハードウェア上で構築されていたため、設備投資負担が大きく、ベンチャー企業では手掛けにくいものであった。同社グループは、AWS等のパブリック・クラウド上にソフトウェアベースで独自のモバイル・コアを構築し、コスト競争力と高い拡張性を実現している。関連する特許を70件以上有しており、SORACOMの技術的優位の源泉となっている。

2)継続的な機能更新とサービス拡張
同社は、顧客企業からのフィードバックに基づき、継続的に機能の更新やサービスの拡張を行っており、現時点で387の機能を顧客に提供している。近年は、平均2週間の開発サイクルで新機能を提供しており、SORACOMのアップデートを通じて、顧客は先端技術の導入や利便性が増したサービスの利用が可能となっている。

3)多様な通信規格への対応とクラウドとの高い親和性
SORACOMは、セルラー回線(3G~5G)だけでなく、Sigfox注1等のLPWA注2回線等の様々な通信規格に対応しているほか、仮想SIMを発行することにより、Wi-Fiや有線Ethernet注3のインターネット回線等で接続するデバイスを提供している。また、多様な通信規格による接続を通じて収集されたデータをSORACOM上で、一元的かつ容易に管理することができる設計(Connectivity Agnosticと称している)を採用している。

加えて、SORACOMはパブリック・クラウド上で構築されているため、同じくパブリック・クラウド上に構築された顧客システムとの互換性が非常に高いほか、データセンター等のプライベート・クラウドを含めた、他のクラウドサービスとの連携も容易(Cloud Agnosticと称している)である。ConnectivityAgnosticとCloud Agnosticが、SORACOMの機能柔軟性における特徴となっている。

4)グローバル・カバレッジ
SORACOMは、グローバルでサービスを展開することを目的に開発された結果、15年9月に日本でサービスを開始してから、約1年後の16年11月に米国で、17年2月に欧州で開始される等、早くから海外でもサービスが提供されている。同社の海外における接続回線は、欧州、米国、アジアの複数のキャリアとの契約により、当該キャリアがローミング接続注4する各地域の通信キャリア回線を含めて調達されている。結果、23年12月末では、接続可能な移動体通信事業者は世界で392キャリアに達しており、180の国と地域で利用が可能となっている。

5)強固なセキュリティ
IoTプラットフォームを構築するにあたり、同社は17年に情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格であるISO/IEC27001:2013の認証を取得したほか、AWS Foundational Technical Review等の外部機関によるシステム脆弱性診断を実施し、指摘事項に対応することで、強固なセキュリティを構築している。

6)顧客ストックの蓄積と事業拡大
IoTサービスの特性として、一度導入されたサービスが継続利用される傾向が強く、サービス開始以降、顧客数は増加が続いている。また、同社グループの事業においては、導入時におけるIoTデバイスの販売や各種セットアップ料等の初期費用等から成るインクリメンタル収益に加えて、データ通信量等のサービス利用に応じた継続課金であるリカーリング収益を獲得する収益構造であることから、比較的、事業が安定して拡大するビジネスモデルとなっている。

(3) 提供サービスの種類と収益の内訳
リカーリング収益(プラットフォーム利用料)は、通信サービス、ネットワークサービス、アプリケーションサービス、その他に分類されている。

1) 通信サービス(コネクティビティ)
IoT向けの通信接続サービスを「SORACOM Air」の名称にて提供している。当該サービスにおいては、通信サービスにかかる従量課金による継続収入を得ており、リカーリング収益の主要な収益源となっている。

主力の通信サービスであるセルラー通信(携帯電話向け周波数帯である2G/3G/LTE/5Gに対応したデータ通信SIM「IoT SIM」)は、国内向け回線とグローバル回線に区分され、世界180の国と地域をカバーしている。また、LPWA通信では、Sigfoxに加え、LoRaWAN注5やLTE-M注6のネットワークを利用した通信サービスも提供している。その他、Starlink注7等の衛星通信を提供している。また、Wi-Fi、有線通信、衛星通信等の通信経路に限らず、ネットワーク上でデータを暗号化して通信を行い、SORACOMの機能を利用できる「SORACOM Arc」も提供している。

2) ネットワークサービス
IoTシステム運用に際しては、通常、安全性の確保、通信方向の制御、取得したデータの利用等、通信サービス(コネクティビティ)の利用だけでは対応できない様々な課題が生じる。これらの課題を解決するために、VPN注8接続や物理専用線により、IoTデバイスから各種クラウドや顧客データセンターまでを安全に接続するサービスや、同社通信サービスによって繋がるIoTデバイスに必要に応じて遠隔から安全にアクセスできるサービス等を提供している。同社は、ネットワークサービス上の顧客データの利用状況に応じた従量課金による継続収入を得ている。

3) アプリケーションサービス
IoTデバイスから送信されるセンサーデータ等を時系列で保存する機能や、データを可視化するダッシュボードの作成/共有サービス、各種クラウドやAI/機械学習等のサービスへのデータ転送サービス、IoTデバイスの管理等のIoTデータ活用やIoTデバイス活用における課題を解決する機能等、自社開発した機能やサービスを提供している。アプリケーションサービスでも、顧客データの利用状況に応じた従量課金による継続収入を得ている。

4) その他(KDDI向けプラットフォーム提供)
業務委託契約に基づき、KDDIが構築する「IoT世界基盤(グローバルIoTアクセス)」の基礎となる通信ネットワークについて、SORACOMを提供し、継続収入を得ている。

一方、インクリメンタル収益は、商品販売とその他(プロフェショナルサービス及び業務受託)に分類されている。

1) 商品販売
通信サービス提供時の回線契約に伴い、通常提供される通信用IoT SIMに加えて、顧客の要望に応じて、通信モジュール、カメラ・GPS・センサー等のIoTデバイス等の商品を仕入販売している。また、特定大口顧客向けにはスマートメーター等の商品も販売している。

2) プロフェショナルサービス
同社グループのIoTプロフェショナルコンサルタントが、顧客企業のIoT導入プロジェクトにかかる技術要素や課題の整理、実行計画立案の支援等のコンサルティングサービス等を提供している。

商品販売やプロフェショナルサービスは、顧客がIoT事業を始めるときだけでなく、IoT事業の拡大に伴って継続的に増加する収益と位置付けられる。

3) 業務受託
業務委託契約に基づき、KDDIからソフトウェア開発等の業務を受託しており、個々の受託案件毎に業務受託収入を得ている。

◆ 高水準の売上総利益率や資本効率の高さに特徴がある
同社の売上原価は、主として、商品仕入高、通信費、減価償却費、労務費等によって構成されている。リカーリング収益(プラットフォーム利用料)の売上原価の大部分は、通信費(変動費及び固定費からなる国内外の通信会社向けの狭義の通信費及びクラウド事業者向けのクラウド利用料)であり、他にはソフトウェアの減価償却費も計上されている。

一方、インクリメンタル収益に分類される商品販売の売上原価は、主にSIMとIoTデバイス等の仕入原価(商品仕入高)が該当する。インクリメンタル収益のその他(プロフェッショナルサービス及び業務受託)の売上原価は、主として労務費が該当する。

リカーリング収益の売上総利益率は、60~70%と安定的に高く、利益への貢献度が高い。22/3期の62.1%から24/3期第3四半期累計期間に66.1%へと上昇したのは、増収効果により固定費負担が軽減したためである。一方、インクリメンタル収益の売上総利益率は、22/3期以降、25%~50%で推移している。利益率が低い商品販売と、利益率が高いその他(プロフェッショナルサービス及び業務受託)の売上高構成比の変動が、インクリメンタル収益の売上総利益率の主要な変動要因となっている。

全体としては、リカーリング収益の売上高構成比の上昇により、売上総利益率は、22/3期の50.0%から24/3期第3四半期累計期間には60.4%に上昇しており、高い水準を確保している。

一方、23/3期の販売費及び一般管理費(以下、販管費)は3,168百万円であったが、販管費率は50.3%と高水準となっている。内訳としては、給料手当が1,843百万円、広告宣伝費が291百万円、賞与引当金繰入額が42百万円であり、固定費が中心と推測される。営業利益率については、23/3期は販管費率の高さにより1.6%にとどまったが、24/3期第3四半期累計期間においては、売上総利益率の上昇と、増収効果等による販管費率の改善により、営業利益率は11.8%へと上昇し、良好な水準となっている。

23/3期末において、有利子負債依存度は0.4%に過ぎず(少額のリース債務のみ)、自己資本比率は67.5%と高水準である。負債の中心は、契約負債(1,134百万円、負債純資産合計比20.0%、前払い契約となっている顧客からのプラットフォーム利用料に係る前受金)や買掛金(196百万円、3.5%、商品仕入及び通信費)である。

資産サイドを見ると、23/3期末において、売掛金(売上債権)が889百万円、商品(棚卸資産)が373百万円であることから、運転資本(売上債権+棚卸資産-仕入債務-契約負債)は67百万円のマイナスと資金繰りについて余裕のある状態であった。なお、24/3期第3四半期末の運転資本は、売掛金の増加や契約負債の減少により、253百万円のプラスに増加した。これが季節性によるものか否かは不明である。

総資産(5,663百万円)の62.4%を占めるのは現金及び預金である。有形固定資産(94百万円)、無形固定資産(187百万円、自社開発ソフトウェア等)と投資その他の資産(306百万円)によって構成される固定資産合計は588百万円に過ぎない。

固定資産合計に運転資本を加算した投下資本は521百万円である。売上高を投下資本で除した投下資本回転率は12.1回と高水準を誇る。結果、低い営業利益率を高い投下資本回転率で補い、投下資本利益率(Returnon Invested Capital、以下、ROIC)は12.7%を確保している。なお、ROICの分子となる税引後営業利益は、同社の法定実効税率34.6%(23/3期)を使って算出した。

◆ 売上高、売上総利益率、リカーリング収益等を重視している
同社は、経営成績を評価するためのKPIとして、売上高、売上総利益率、営業利益率に加え、リカーリング収益、課金アカウント数注9、リカーリング収益のARPA注10を挙げている。KPIの推移は図表2の通りである。23/3期においては、課金アカウント数とARPAの増加に伴い、リカーリング収益が前期比29.2%増となり、売上高の増加と売上総利益率の上昇を牽引した。

また、同社は、海外売上高(国内顧客向け海外回線に係る売上高を含む)と海外売上高比率も開示している。グローバル回線の利用が増加した結果、23/3期の海外売上高は2,153百万円(海外売上高比率34.2%)と、前期の1,396百万円(同25.6%)から拡大している。

23/3期における海外売上高の内訳は、英国子会社による国または地域における売上高が1,689百万円、米国子会社による国または地域における売上高が464百万円であった。なお、23/3期における英国子会社の業績は、売上高2,008百万円、経常利益433百万円、当期純利益352百万円と高い利益率を誇っている。英国子会社の売上高には米国子会社向けのSIM等の販売や通信回線の提供によるものが含まれている。

◆ 大手顧客に依存しているが、最大手の日本瓦斯への依存度は低下
SIM1枚、デバイス1個からセルフサービスでIoTサービスを開始できる手軽さ等により、23年12月末時点において、直近1カ月間でリカーリング収益が発生した課金アカウント数は7,000を超えている。しかし、取引先上位1割の課金アカウントによる売上高の割合は概ね9割を超えており、大手顧客への依存度は高い。

主要顧客としては、日本瓦斯(8174東証プライム)、セコム(9735東証プライム)、ヤマトホールディングス(9064東証プライム)の連結子会社であるヤマト運輸、オムロン(6645東証プライム)、ソースネクスト(4344東証プライム)の連結子会社であるポケトーク、世界35カ国以上でサービスを提供する英国の決済サービス企業であるSumUp Inc.等が挙げられる。

中でも、100万台以上の規模でスマートガスメーターによる自動検針を行っている日本瓦斯への依存度が高く、売上高に占める日本瓦斯向けの割合は、22/3期には34.3%に達していた(図表3)。しかし、日本瓦斯向けIoTデバイスの初期導入の一巡と、その他顧客向けの売上高の拡大により、売上高に占める日本瓦斯向けの割合は低下傾向となっている。

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ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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