雨風太陽(5616)先行投資による損失が続くなか、黒字化のタイミングが当面の焦点

2023/12/22

産直ECプラットフォームの運営を中心に地域の関係人口を増やすサービスを展開
先行投資による損失が続くなか、黒字化のタイミングが当面の焦点

業種:情報・通信業
アナリスト:藤野敬太

◆ 産直ECプラットフォームを中心に関係人口増加につながる各種サービスを展開
雨風太陽(以下、同社)は野菜や魚介類といった一次産品の生産者を介して都市と地方をつなぎ、地域の関係人口注を増やすことにつながる各種サービスを提供している。生産者と消費者を直接結ぶ産直ECプラットフォーム「ポケットマルシェ」が主力サービスである。

同社の前身は、代表取締役の高橋博之氏が13年に設立したNPO法人東北開墾である。同NPO法人は食材とともに送付する情報誌「東北食べる通信」を発行し、生産現場の状況を定期的に直接消費者に伝えるサービスを確立した。その後、東北以外の地域でも展開したいという声を受けて、一般社団法人日本食べる通信リーグを設立し、東北では情報誌を自前で発行し、東北以外では他の法人が情報誌を発行する形での運営として、「食べる通信」モデルを全国に展開していった。

食材付き情報誌のビジネスモデルだと、食材の調達や雑誌の発送作業等の関係で発行部数が限られる。そこで、生産現場と消費者を直接つなげるというコンセプトはそのままで、制約なく規模を拡大していくために、15年2月に同社が設立された。16年9月には、現在の主力サービスである「ポケットマルシェ」を開始した。

同社の事業は関係人口創出事業の単一セグメントだが、売上高は、個人向け食品関連サービス、企業・自治体向けサービス、個人向け旅行関連サービスの3サービスに区分されている。創業時からのサービスである「ポケットマルシェ」を含む個人向け食品関連サービスが中心だが、他のサービスの開始に伴い、その売上構成比は低下してきている(図表1)。

◆ 個人向け食品関連サービス:「ポケットマルシェ」
「ポケットマルシェ」は、生産者と消費者が直接コミュニケーションをとることができる産直ECプラットフォームである。出品する生産者は農家、漁師のみで、酒や調味料等の加工品業者は出品者の対象とはなっていない。また、生産者にとって必要な業務をスマートフォンで完結することができることも、大きな特徴となっている。

「ポケットマルシェ」での販売を通じて、生産者は、以下のメリットを得ることができる。

(1)値づけが自由で、規格外のものでも販売ができる。「ポケットマルシェ」経由での販売量を決めるのも生産者であり、販売チャネルの多様化を図ることができる
(2)中間業者が介在する既存の市場経由での販売よりも収益性が高い
(3)出品、伝票処理、各種コミュニケーション等の全作業をスマートフォンで完結できる。販売を始めるのにスマートフォンだけあればよいため、初期投資がほとんどかからない
(4)購入した消費者との直接のコミュニケーションを通じて、消費者の声に励まされることもあり、生産意欲の向上につながる。また、安定的に購入してくれる消費者を見つけることができる

「ポケットマルシェ」での購入には、消費者にとって以下のメリットがある。

(1)新鮮で安心安全な食材だけでなく、入手が難しい希少品種や、大手流通では取り扱っていない規格外商品を購入することができる
(2)生産者から直接購入するため、生産者が誰かが分かる

これらのメリットから、生産者、消費者双方の利用が増えていき、23年9月時点で7,900名超の生産者と約70万人の消費者が登録しているプラットフォームとなっている。なお、7,900名超の登録生産者は、全国の市町村の85.3%をカバーするほど広範に分布している。また、22年では1日平均約260品の新商品が加わり、約15,000品の商品が出品されている。

「ポケットマルシェ」の特徴として、生産者と消費者が直接やり取りできることが挙げられる。生産者は、プラットフォーム上に専用のコミュニティウォール(生産者ページ)を持ち、購入した消費者とコミュニケーションがとれる。20年~22年の購入者のうち約3分の1が投稿し、一度の購入で平均2.58回のコミュニケーションが発生するほど活況であり、生産者、消費者双方にとってのエンゲージメント強化につながっている。このコミュニケーションにより、同社は、広告宣伝費をかけずにリピート購入を促進することができるといった効果を得ている。

また、DM(ダイレクトメッセージ)の機能を通じて生産者と消費者が直接やり取りできるようになっている。商品に対する要望や質問には、生産者が一次対応するため、同社のカスタマーサポートは最小限の業務量に留めることが可能となっている。

商品の発送も生産者自らが行う仕組みとなっている。ネットスーパー等のように物流センターを介することがないため、流通額が急伸した場合の対応も容易である。なお、商品の配送については、ヤマトホールディングス(9064東証プライム)傘下のヤマト運輸のシステムと連携している。

「ポケットマルシェ」上での取引に対して、同社は生産者から20%の販売手数料を受け取り、生産者の手取り率は80%となる。一般的なフリマアプリでの手取り率90~95%よりは低いものの、既存流通での手取り率46%(野菜の主要14品目の平均)または29%(水産物の主要10品目の平均)よりは高い。

◆ 個人向け食品関連サービス:「ポケットマルシェ」以外
個人向け食品関連サービスに分類される「ポケットマルシェ」以外のサービスとしては、サブスクリプションサービス、食材付き情報誌「食べる通信」、ふるさと納税プラットフォーム「ポケマルふるさと納税」がある。

サブスクリプションサービスは、「ポケットマルシェ」をベースとした生産者とのネットワークを活用して、様々なテーマのもと、定期便として毎月食材が届けられるサービスである。消費者の定期購入代金が同社の売上高となる。

食材付き情報誌「食べる通信」は、同社サービスの原点となったサービスで、生産者のストーリーがまとめられた情報誌が食材とともに届けられる。23年9月時点で全国18地域にて発刊されている。このうち、「東北食べる通信」と「海苔食べる通信」は同社が発行し、それ以外は、同社とは別の発行体が、同社の購読者管理システムを使って発行している。自社で発行している分については購読料が同社の売上高となり、別の発行体によるものについては、システムの利用の対価として発行体から支払われるコミッションフィーが同社の売上高となる。

ふるさと納税プラットフォーム「ポケマルふるさと納税」は、同社と契約した自治体に所属する生産者の「ポケットマルシェ」への出品がすべて、自動的にふるさと納税にて購入可能となるサービスである。ふるさと納税での購入分については、納税額は出品額に応じて自動計算される仕組みとなっている。サービス利用にかかる自治体からの手数料と、取引に対する生産者からの販売手数料の2点が同社の売上高となる。

◆ 企業・自治体向けサービス
主に自治体との関係をベースとしたサービスで、自治体支援サービスと法人向け食材販売がある。

このうち自治体支援サービスは、各自治体にいる生産者、約70万人の消費者ネットワーク、同社のメディア構築ノウハウや農業・自然体験コンテンツ開発力を活用して、地方自治体が抱える課題を解決するサービスである。これまで、「ポケットマルシェ」での販売促進、農業体験プログラムの実施、インバウンド観光コンテンツの開発といった実績がある。これまで全自治体の12%と商談を実施したことがあり、営業人員を増員することで、案件を増やすことが可能と同社は考えている。

◆ 個人向け旅行関連サービス
生産者のネットワークを活用し、農業体験等を中心に、都市の消費者に生産者のいる地方を旅行してもらうサービスである。同社自身による「ポケマルおやこ地方留学」の運営のほか、自治体等と連携したインバウンド向け観光コンテンツの開発を行っている。

◆ 3つのインパクト指標
同社は、「都市と地方をかきまぜる」ことをミッションとしており、その進捗を見る上で、売上高とは別に以下の3点をインパクト指標として設定している。

(1)都市から地方に流通した経済的な価値を示す「顔の見える流通総額」(図表2)
(2)都市住民と生産者が交流した量を示す「生産者と消費者のコミュニケーション数」(図表2)
(3)同じく交流した量を示し、個人向け旅行関連サービスに関係する「都
市住民が生産現場で過ごした延べ日数」(図表3)
このうち、「顔の見える流通総額」と「生産者と消費者のコミュニケーション数」
は連動性が高い。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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