笑美面(9237)先行投資負担の軽減により、23年10月期の営業利益率は急上昇へ

2023/11/01

高齢者に対するシニアホームの紹介サービス等を提供
先行投資負担の軽減により、23年10月期の営業利益率は急上昇へ

業種:サービス業
アナリスト:大間知淳

◆ 高齢者に対するシニアホーム紹介サービス等を提供
笑美面(えみめん、以下、同社)は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホーム等のシニアホームを、高齢者や介護家族に紹介するシニアライフサポート事業と、シニアホーム運営事業者にコンサルティングや情報提供等を行うケアプライム事業を展開している。紹介先として提携しているシニアホームは23年8月末時点で8,864ホームに達している。

同社は、家業の不動産会社を実質的に経営していた榎並将志氏(現代表取締役社長)が、老人ホーム運営事業への参入を目的に、10年9月に大阪市に設立したトータルプロデュースを前身としている。榎並氏は自ら、老人ホームでの1カ月半に亘る現場実習を体験する中で、介護事業を不動産業の延長で経営しても成功しないと確信し、介護施設の運営を断念した。

一方、介護事業に魅力や楽しさを感じたことや、住宅では当たり前にいる物件探しや紹介のプロフェッショナルが、介護施設を探す場合はあまりいないことに事業機会を見出したことが創業の契機となった。榎並氏は、12年1月、シニアライフサポート事業を開始すると共に、トータルプロデュースの商号を笑美面に変更し、自ら代表取締役社長に就任した。

15年9月に、「大阪市トップランナー育成事業プロジェクト」に認定されると、大阪府での知名度が大きく向上した。その後は、オフィスを東京都(16年)、福岡県(17年)、神奈川県(18年)、兵庫県、埼玉県(20年)にも開設し、展開地域を広げている。21年には、地域に優良なシニアホームを増やすことを目的に、ケアプライム事業を開始した。

(1) シニアライフサポート事業
同社は、シニアホームを探している入居対象者やその家族(以下、入居検討者)を対象に、対面によるマッチングサービス(シニアホーム紹介サービス)を提供している。同社のコーディネーターが、直接取材等で得たシニアホームの詳細情報を元に、入居検討者に対して、当事者の身体状況や家庭の事情に適したシニアホームを紹介し、入居までのトータルサポート(見学調整や、シニアホーム・病院とのやり取り代行、役所の申請手続き代行等)を行うことで、入居検討者の不安・負担を軽減している。

入居対象者に関しては、患者の早期退院問題に取り組む病院のメディカルソーシャルワーカー1(以下、MSW)や、高齢者の在宅介護を支援するケアマネージャー2等をシニアホーム探しの“紹介パートナー”として連携し、継続的な紹介を受けている。

シニアホーム紹介サービスでは、「専門性」、「中立性」、「シニアホームを探す入居対象者を紹介いただく紹介パートナー」、「幅広いシニアホームとの連携」を軸に運営を行っている。

① 専門性
同社では、コーディネーターが、シニアホーム紹介の“プロフェッショナル”として入居対象者一人ひとりに最適なマッチングを提供できるように努めている。コーディネーターの成功ナレッジを5~10分程度の動画にして、新人を含めた全コーディネーターが反復視聴することで、育成の効率化に取り組んでいるほか、Salesforceを活用した継続的なオペレーションの進化を図っている。

② 中立性
生活保護受給の入居対象者や介護保険対象外の入居対象者等、シニアホームにとって、手数料収入が低い入居対象者を含めて、同社は全ての相談に対応することを基本方針としており、身体状況やニーズに合ったシニアホームへの紹介に努めている。

③ シニアホームを探す入居対象者を紹介いただく紹介パートナー
同社のコーディネーターは、22/10期末で約700病院に在籍するMSWや、ケアマネージャーに直接営業を行い、連携しているシニアホームの情報を提供している。同社の全紹介数に占めるMSWによる紹介数の割合は約7割であり、22/10期におけるMSWからの紹介数は5,280人であった。

同社がシニアホームに紹介した入居検討者が実際に入居した人数を同社ではスマイル数と呼んでいる。22/10期のスマイル数は2,206人であったが、その77.7%に当たる1,714人(うち、近畿圏634人、首都圏584人、その他展開地域496人)がMSWからの紹介であった。

④ 幅広いシニアホームとの連携
同社は、8,864(23年8月末時点)のシニアホームと連携し、コーディネーターが入居対象者にシニアホームを紹介できるようにしている。紹介した入居検討者が実際に入居した際にシニアホームの運営事業者から紹介手数料を受け取る仕組みとなっているため、入居検討者には無料でサービスを提供している。

なお、同社が各種調査を集計したところ、21年におけるシニアホーム数は38,788カ所(うち、有料老人ホーム16,724、サービス付き高齢者向け住宅7,979、グループホーム14,085)であった。

同社のサービスの相手先は、直接的にはシニアホームの入居対象者であるが、入居対象者を介護している家族を含めた入居検討者、病院側から高齢患者の早期退院のプレッシャーを受けているMSW、空室問題を抱えるシニアホーム運営事業者にとっての課題を解消する「三方よし」のサービスの実現を目指している。

(2) ケアプライム事業
同社は、シニアライフサポート事業において蓄積された入居検討の要望・ニーズに関する情報を提携シニアホーム及びシニアホーム運営事業者に提供することにより、地域に優良なシニアホームを増やすことを目的として、21年7月からケアプライム事業を開始した。同事業で現在提供しているサービスとしては、シニアホーム新規開設コンサルティング、シニアホーム運営効率化、ケアプライムコミュニティサイト運営が挙げられる。

シニアホーム新規開設コンサルティングは、シニアホーム運営を検討している土地オーナー等と、シニアライフサポート事業の取引先であるシニアホーム運営事業者をマッチングするサービスである。

シニアホーム運営効率化は、介護業務のオペレーションの改善やコストの削減を目的に、シニアホーム運営事業者へオペレーションに係る有益情報(オムツのサブスク、介護用品のネット販売等)を提供している。

ケアプライムコミュニティサイトは、同社とシニアホーム運営事業者との情報連携サイトであり、運営事業者の責任者が、自社の運営シニアホームへの入居者紹介に関わる情報の取得や入力等ができるようになっている。蓄積されたシニアホームの情報を同社のコーディネーターが入居検討者に提供すると共に、入居検討者からのフィードバックを得て、ケアプライムコミュニティサイトを介して運営事業者と情報を共有している。具体的には、運営シニアホーム単位で入居検討者が見学や入居に至らない理由等を共有することで、運営事業者に気付きの機会を提供している。

ケアプライムコミュニティサイトは、23年3月にリリースされたが、8月末時点の登録数は3,860ホームに達している。

◆ シニアホーム紹介サービスが営業収益の中心
同社は、サービス区分として、シニアホーム紹介サービス(シニアライフサポート事業)、シニアホーム運営コンサルティング、シニアホーム運営効率化等のその他(以上、ケアプライム事業)に分けて営業収益(売上高に相当)を開示している(図表1)。

22/10期におけるサービス別営業収益構成比は、シニアホーム紹介サービス89.4%、シニアホーム運営コンサルティング10.3%、その他0.3%であった。

◆ シニアホーム紹介サービスの収益構造
同社は、対面サービスによるマッチングサービスを提供しているため、仕入原価や、入居検討者集客のためのリスティング・媒体広告等の広告宣伝費等が発生せず、主なコストは人件費等である。シニアホーム紹介サービスの営業収益となる紹介手数料は、成約数(紹介数×成約率)×1室当たり手数料単価-返金額によって算出される。同社では、各変数に関して、以下の様に対応している。

(紹介数)
同社は、紹介ルートの中でも重視するMSWからの紹介数の増加に向けて、エリア毎にチーム体制を敷くことで地域の特性情報を蓄積しつつ、病院開拓の型及びMSWの横展開(口コミで同一病院内の別のMSWからも相談を受けること)の型をマニュアル化して、営業活動を推進している。

(成約率)
同社は、Salesforceシステムを活用した約300本(23年8月末時点)のナレッジ動画をコーディネーターに反復視聴させることにより、均質なサービスを保ちつつ、成約率の向上を目指している。

(1室当たり手数料単価)
同社は、1室当たり手数料単価の向上に向けて、同社の平均単価を下回らないシニアホームとの提携を増やすことや、シニアホーム運営事業者の担当者との連携頻度を高めることで、入居検討者にとって価値のある最新の空室情報や、その他のシニアホーム情報の蓄積を推進している。

(返金額)
近年、同社では、シニアホーム運営事業者と入居者の紹介に関する契約を締結する際、入居者が入居後早期に死去や再入院等により退去する場合に備えた、紹介手数料の返金条項を定めることが増えている。主に、入居後3カ月以内に退去となった際に入居日数に応じた返金が発生する場合があり、シニアホーム運営事業者からの退去情報を基に、社内で情報を精査した上で、契約に従って返金を行っている。

◆ ケアプライム事業の収益構造
シニアホーム新規開設コンサルティングでは、土地オーナーや土地活用提案を行っている建設事業者等にシニアホーム運営事業者の情報を提供し、シニアホームの開設が決定した時点で、主にシニアホーム運営事業者より情報提供による紹介料及びコンサルティング料を受領している。

シニアホーム運営効率化では、シニアホーム運営事業者である有料会員に、オペレーションに係る有益情報を月額2,700円(税抜)で提供している。23年8月末時点での有料会員数は146件となっている。

ケアプライムコミュニティサイトについては、無料でサービスを提供している。

◆ MSWからの紹介数、スマイル数等を重視している
同社は、「高齢者が笑顔で居る未来を堅守する」というビジョンを掲げており、介護家族が高齢者に対する「心の介護」に専念できるよう、「介護家族にとって、シニアホームの利用が『ポジティブ/当たり前』になっている状態」を目指している。中長期的には、「マッチするシニアホームとの出会いにより、負担が軽減している介護家族が47都道府県で増加」、「自らの強みを伸ばしてサービスの質を上げ、介護家族に安心を提供しているシニアホームの増加」という2つの社会変化(インパクト)の実現を志向している。

また、同社は、23年4月の取締役会において、「ビジョン(社会インパクト)」を実現するための以下の基本方針を決議している。
① 「インパクト・メジャメント(測定)及びマネジメント」を行う
② インパクトに関する情報を開示・発信する
③ ステークホルダーとのエンゲージメント活動を積極的に行う

当該方針に基づき、同社は、MSWからの紹介数、家族会議実施数、スマイル数(以上はシニアライフサポート事業)、プラットフォームサイト登録数(ケアプライム事業)を重要な経営指標(KPI)としている。同社では、「インターネットを介しての遠隔でのマッチングサービス」上のシニアホーム検索事業者との差別化を図るため、「条件(身体状況、予算、エリア等)」と「要望(どのような暮らしを行いたいか、リハビリの要否等)」を分けてヒアリングを行い、介護家族を知る機会となる「家族会議」を行うことで、成約率や、成約数の予測精度の向上に繋げている。

20/10期から22/10期に掛けては、新人コーディネーターの採用と戦力化が進んだ結果、MSWからの紹介数や家族会議実施数が拡大し、スマイル数の増加に繋がっている(図表2)。

◆ 固定費の負担が重く、22年10月期の営業利益率は4.1%と低い
同社は、費用を売上原価と販売費及び一般管理費に分類せず、営業費用として一括計上している。22/10期の営業費用は584百万円であり、営業費用率は95.9%となっている。内訳としては、給料及び手当が241百万円、支払手数料が67百万円、採用費が56百万円、法定福利費が46百万円、役員報酬が37百万円、賞与が19百万円、賞与引当金繰入額が19百万円等であり、固定費が中心と推測される。22/10期の段階では、人件費や経費等の先行投資の負担が重く、営業利益率は4.1%にとどまっている。

同社の22/10期末における自己資本比率は12.5%と低い。有利子負債は、総資産の47.3%にあたる147百万円に達しているが、現金及び預金残高(192百万円)を下回る水準である。また、22/10期において、営業活動によるキャッシュ・フローは38百万円の資金流入である一方、投資活動によるキャッシュ・フローは6百万円の資金流出にとどまっていることから、総合的に見ると、財務の健全性は確保されている。

◆ 特定顧客には依存していない
同社は、23年8月末時点で紹介可能なシニアホーム数が8,864ホームに達しており、数多くの事業者から紹介手数料を得ている。多数のシニアホームホームを運営している顧客企業はあるものの、業界としては寡占化が進んでいないため、売上高の1 割以上を占める大手顧客は存在していない。同社の主要顧客としては、SOMPOホールディングス(8630東証プライム)の連結子会社であるSOMPOケアや、ベネッセホールディングス(9783東証プライム)の連結子会社であるベネッセスタイルケア等が挙げられる。

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