ケイファーマ(4896)iPS創薬のALS治療薬、再生医療の亜急性期脊髄損傷治療法の上市を目指す

2023/10/20

中枢神経疾患領域を対象とした iPS 創薬事業と再生医療事業を展開
iPS 創薬の ALS 治療薬、再生医療の亜急性期脊髄損傷治療法の上市を目指す

業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦

◆ 中枢神経疾患領域を対象としたiPS創薬事業と再生医療事業を展開
ケイファーマ(以下、同社)は、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授(同社取締役CSO1)と同整形外科学教室の中村雅也教授(同社取締役CTO2)の基礎研究の成果を、中枢神経疾患領域を対象としたiPS創薬及び再生医療として実用化するために16年11月に設立されたバイオベンチャーである。

同社は、医薬品等の研究・開発・製造・販売の単一セグメントであるが、iPS細胞を活用したiPS創薬事業と再生医療事業の2つの事業を展開している。

◆ iPS創薬事業
iPS創薬とは、患者の細胞から疾患の情報を持つ疾患特異的iPS細胞を作製し、健常者のiPS細胞との比較もしながら、疾患に効果がある化合物のスクリーニングを行い、治療薬を開発するものである。iPS細胞は様々な細胞や器官に分化できるため、疾患特異的iPS細胞から分化誘導した疾患モデル細胞の作製と、疾患モデル細胞を対象とした治療薬の開発も可能となる。

同社のiPS創薬事業では、中枢神経疾患の治療薬の開発において、患者のiPS細胞から分化誘導した疾患モデル神経細胞を用いて治療効果がある薬剤候補物質を選定する際に、既に他の疾患のために開発された薬剤や化合物を対象にスクリーニングを行う、ドラッグリポジショニングの手法を用いている。

iPS創薬は、動物実験等の段階を経ることなく、ヒトの細胞を対象に治療薬の開発が行えること、ドラッグリポジショニングの手法を活用すれば、既に安全性が確認された化合物や薬剤の中から特定の疾患に効果がある薬剤を抽出できること等から、患者数の少ない希少疾患の治療薬の開発や、開発期間と開発費用を削減できる創薬手法として注目されている。

◆ 再生医療事業
再生医療事業では、神経損傷疾患である脊髄損傷を対象に、他家iPS細胞3から分化誘導した神経前駆細胞4を患者に移植することで損傷部位の治療を行う研究開発を進めている。同社では、慶應義塾大学と共同で、損傷による炎症が低下し、移植した神経前駆細胞が生着しやすい損傷後約4週間以内の亜急性期の脊髄損傷治療法の研究開発を優先的に進めている。

◆ 事業モデル
同社は、慶應義塾大学医学部等の基礎研究や特許等の知的財産権の独占的な実施許諾権に基づき、開発パイプラインについて、製薬企業等のパートナーとの共同研究契約や、パイプラインの権利の一部または全部を譲渡するライセンス契約を締結して、契約一時金収入や開発段階に応じたマイルストン収入を得る。製品の上市後には販売額に応じた販売ロイヤリティ収入や販売達成額に応じた販売マイルストン収入を得る。各段階の収入を得た場合、特許権の保有者である慶應義塾大学等には、再許諾実施に伴う支払いを行う。

◆ 開発パイプライン
同社のiPS創薬事業、再生医療事業の開発パイプラインは以下の通りとなっている。

1) iPS創薬事業
① KP2011(筋萎縮性側索硬化症治療薬)
KP2011は、筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)を対象とする治療薬である。ALS患者の細胞から作製したiPS細胞を分化誘導した神経細胞に対して、1,200を超える化合物のスクリーニングを行った結果、パーキンソン病治療薬のロピニロール塩酸塩を候補治療薬として選定し、慶應義塾大学医学部で医師主導治験(第Ⅰ相試験/前期第Ⅱ相試験)を実施した。

臨床試験は18年12月から21年3月の期間に、ALS患者20例に対してロピニロール塩酸塩の実薬投与13例、プラセボ投与7例で行われた。その結果、主要評価項目である安全性については最大用量投与による有害事象の殆どは軽度なもので、副作用等による内服の中止がなかったことから、副作用に対する忍容性も確認された。

有効性については、ロピニロール塩酸塩の実薬群がプラセボ群と比較して、ALS患者の総合評価や日常活動量の低下を抑制する効果が認められた。死亡または一定の病気の進行までの期間を生存期間として検討した結果、生存期間の中央値は、実薬群50.3週、プラセボ群22.4週で、実薬群が病気の進行を27.9週間(約7カ月)遅らせる可能性が示された。ALS患者に対するロピニロール塩酸塩の安全性と有効性が確認され、世界で初めてALSに対するiPS細胞創薬の臨床でのPoC5を取得している。

この医師主導治験の結果を踏まえ、KP2011は23年3月に中枢神経用薬を主力とするアルフレッサファーマ(大阪市中央区)に導出され、今後は20年代後半での上市を目指しアルフレッサファーマでの企業治験が行われる予定である。

アルフレッサファーマへの導出と並行して、慶應義塾大学との共同研究で、ロピニロール塩酸塩が新規メカニズムに基づいてALS治療効果を示す新規薬剤であることを明確にする研究開発を行っている。

② KP2021(前頭側頭型認知症治療薬)
脳の前頭葉と側頭葉前方に萎縮がみられる前頭側頭型認知症の治療薬であるKP2021は、化合物のスクリーニングを完了し、詳細な解析を実施中である。一定の作用メカニズムが確認できた段階で、医薬品等の承認審査を行う医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)との協議を行い、その後の開発を実施する計画である。

③ KP2032(ハンチントン病治療薬)
遺伝性の神経変性疾患であるハンチントン病の治療薬KP2032は、化合物の選定を進めている。今後、最終化合物を選定し、一定の作用メカニズムが確認できた段階で、PMDAとの協議等を行う計画である。

④ KP2041(フェリチン症治療薬)
鉄を体の中に運搬するフェリチンを規定する遺伝子の変異で脳内に異常フェリチンが沈着するフェリチン症の治療薬であるKP2041は、基礎/探索研究段階にあり、化合物スクリーニングに向けた評価系を構築中である。

⑤ KP2051(那須・ハコラ病治療薬)
脳と骨の疾患である那須・ハコラ病の治療薬KP2051は、基礎/探索研究段階にあり、化合物スクリーニングに向けた評価系を構築中である。

⑥ KP2061(難聴治療薬)
難聴治療薬であるKP2061は、慶應義塾大学で若年性難聴治療薬として用途特許取得済みの化合物であり、北里大学との共同研究により有効な疾患についての検討を行っている。

2) 再生医療事業の開発パイプライン
① KP8011(亜急性期脊髄損傷治療)
亜急性期脊髄損傷治療の開発パイプラインであるKP8011は、慶應義塾大学が21年6月から4症例を目標に臨床研究を行っている。これは他家iPS細胞から神経のもとになる神経前駆細胞を作製して凍結保存したうえで、患者の脊髄損傷部位に対して約200万個の細胞を注射で移植するものである。21年12月には、世界で初めてiPS細胞から作成した神経前駆細胞を亜急性期の脊髄損傷の患者に移植した。

22年3月には、第三者機関である独立データモニタリング委員会により、移植3カ月目までのデータをもとに安全性に問題はないとの判定を受け、2症例目以降の移植が継続されている。

同社では、慶應義塾大学での臨床研究の結果を受け、20年代半ばに同社による企業治験を開始し、薬機法上の再生医療等製品の早期承認制度の適用を受け20年代後半での上市を目指している。同社主導による企業治験を行うために、慶應義塾大学と連携して、最適なiPS細胞の選定や分化誘導方法の確立、脊髄損傷モデルマウスの評価、臨床に向けた大量培養方法の検討、臨床用iPS細胞の製造委託先の選定等を進めるとともに、製薬会社等のパートナーとの連携を進める計画である。

② その他のパイプライン
KP8011と同じ他家iPS細胞から分化誘導した神経前駆細胞を用い、亜急性期脊髄損傷に比べ患者数の多い慢性期脊髄損傷(KP8021)の企業治験に向けた研究、国立病院機構大阪医療センター(以下、大阪医療センター)との共同研究で慢性期脳梗塞(KP8031)、慢性期脳出血(KP8041)、慢性期外傷性脳損傷(KP8051)についての研究開発を進めている。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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