リアルゲイト(5532) 社会的課題の解決と新しい価値観を提供
築古ビルをリノベーションし運営まで手掛けることにより収益性を向上
社会的課題の解決と新しい価値観を提供
業種:不動産業
アナリスト:髙木伸行
◆ 遊休不動産の有効活用によりオーナーとテナントのニーズに応える
リアルゲイト(以下、同社)は、利用価値が低下した事務所や商業施設といった築古の遊休不動産を活かすために耐震補強、増築、用途変更などの抜本的な改良を加え、運用まで手掛けることにより、価値を付加し収益性を向上させる事業を行っている。
同社は09年8月に飲食業の運営・プロデュースを行うトランジットジェネラルオフィス(東京都渋谷区)の子会社とし設立された。21年7月にサイバーエージェント(4751東証プライム)がトランジットジェネラルオフィスから同社株式を取得し子会社化した。上場時点で68.5%を保有するとともにサイバーエージェントの取締役1名が同社の取締役を兼任している。
同社は、スモールオフィスやシェアオフィスを提供するフレキシブルワークプレイス事業を行っており、プロジェクト内容は築古ビルを対象とするか新築ビルを対象とするかで分かれる。
築30年程度の築古ビルを対象とする「再生」については、抜本的なリノベーションを行い資産価値の向上を図っている。新築ビルに対して築古ビルを扱うメリットとしては、初期投資が低く済み、短期間での稼働が可能で、新築プレミアムの影響を受けにくいといったことが挙げられる。新築ビルを対象とする「開発」はスモールオフィスやシェアオフィスを物件に組み込むことで、施設の価値向上を図っている。再生案件は22/9期の売上高の88.6%、開発案件は11.4%を占めた(図表1)。
不動産の運用形態としては、1)マスターリース契約(以下、ML(賃貸))、2)プロパティマネジメント契約(以下、PM)、3)自社保有(以下、保有(賃貸))となっており、物件により運用方法を選んでいる。いずれの運用形態においてもテナントから受け取る賃料、プロパティマネジメントを通して不動産オーナーから受け取る運営委託フィーといったストック型収益が中心となる。ML(賃貸)、保有(賃貸)、PM、そしてその他からなるストック型収益合計は22/9期売上高の75.8%を占めている(図表1)。
その他は、物件運営に付随して発生する4)設計・施工請負契約(以下、設計・施工)、5)保有物件の売却(以下、保有(販売))が挙げられフロー型収益に分類される。
1)マスターリース契約(ML(賃貸))
同社のML(賃貸)では、築古ビルを中心に一括して借り上げ、運営・管理を行っている。不動産オーナーに賃料を保証し借り上げた後に不動産価値を向上させ、その物件を転貸することにより、テナントから賃料を受け取っている。土地や建物を保有することなく、管理物件を転貸することから資本効率の良い事業となっている。
同社の物件は独創的・創造的な内外装の建物で従来のシェアオフィスのような単なる机貸しや小さな箱貸しというイメージではない。物件の価値を向上する手段としては、築古ビルに耐震補強、増築、エレベーター新設、住宅をオフィスへ、オフィスを店舗へといった用途変更などが挙げられる。更にエリア特性や潜在的テナントのニーズを踏まえた見栄えのする外観に変え、ラウンジや屋上に庭園を設けるなど、感性に富むクリエイターやスタートアップ企業に受け入れられる形態に変えることで物件の魅力を高めている(図表2)。
価値向上に向けての費用負担については、同社が負担して低い賃料で借りるケースやオーナーが負担して同社が支払う賃料に反映させるといったケースがある。いずれのケースでも改良に関連する設計・施工というサービス提供につながる場合が多い。
2)プロパティマネジメント契約(PM)
同社のPMは、テナント誘致、賃貸借契約代行、トラブル対応、請求業務、建物の点検・代行などを行うことでオーナーから手数料を受け取っている。テナントとの日常的なコンタクトから、テナントのニーズを吸収し、物件の運営に反映させることでテナントの満足度を高めて、空室率の上昇を抑制することにもつなげている。
3)自社保有(保有(賃貸))
物件を自社で取得したうえでテナントと賃貸借契約を結び、賃料収入を得るケースがある。現在、3件のプロジェクトが稼働しており、うち2件は入居済みであり、1件は本格的にプロジェクトが稼働するまで間があるため、従来のテナントが入居した状態にある。
4)設計・施工請負契約(設計・施工)
同社は、物件の設計監理の請負を行っている。築古ビルの資産価値向上についての豊富なノウハウを蓄積していることから、マスターリース契約を締結する際にリノベーション工事を受注するケースが多い。また、新築工事にも対応している。
5)保有物件の売却(保有(販売))
自社保有を目的に物件の取得を行っているが、ポートフォリオの見直しにより、保有物件を売却する場合がある。22/9期は不動産の売却実績はなかった。
◆ 運営物件
23年3月末時点での累計プロジェクト数(終了物件も含んで今まで手掛けたプロジェクト数)は90件、稼働中プロジェクト(テナント入居前物件も含めた運営中プロジェクトでリーシングマネジメント契約等も含む)は69件、入居済物件(テナント入居後の物件でリーシングマネジメント契約等は含まない)は55件となっている(図表3)。稼働中プロジェクトと入居済物件の差である14件のうち11件が、今後同社の収益への貢献が期待される。
また、同社は売上高の関係する重要経営指標(KPI)として運営面積(賃貸可能床面積、総床面積)、運営プロジェクト数(累計プロジェクト数、稼働中プロジェクト数、入居済物件数)を挙げている。各KPIの推移は図表4に示したとおりである。
◆ 対象とする地域と物件
同社は、築30年前後で延床面積300坪~600坪程度の築古のコンパクトビルを主な対象としている。対象地域はオフィス需要並びに収益性を考慮し、東京都心部に絞っている。
23年3月末時点での稼働中プロジェクト69件のうち、同社が特に力を入れている渋谷区で27件を保有しており、他は港区15件、目黒区11件、千代田区4件、中央区3件、新宿区3件、その他6件である。エリア集中の例としては、渋谷区の北参道エリアで8つのプロジェクトが稼働中である。
◆ 顧客の概要~テナントとビルオーナー
23年4月1日現在で入居テナントは区画契約872件、フリーデスク契約355件となっている。区画契約のうち、事務所契約が743件、店舗54件、住居20件、SOHO(住居兼オフィス)が55件である。大部分が区画専有面積50㎡未満のスモールオフィスで事務所契約の63%を占めている。また、入居テナントの業種内訳は情報サービス業が23%、経営コンサルタント業・士業が12%、広告業が10%といったところが目立つ。
ビルオーナーなどのクライアント数は3月末に稼働中のプロジェクト69件に対して46クライアントとなっており、不動産デベロッパー、鉄道会社、建設会社、個人など多種多様である。