ispace(9348) 月の水資源等を目指す月面開発事業を目的に高頻度打上に挑む
無人の着陸船、探査車で月面への物資輸送、月面データの収集・提供を行う
月の水資源等を目指す月面開発事業を目的に高頻度打上に挑む
業種: サービス業
アナリスト:鎌田良彦
◆ 月面開発に取り組む民間宇宙企業
ispace(以下、同社)グループは、同社と子会社3社の合計4社からなり、月の水資源等の利用を目指した月面開発事業に取り組む、民間宇宙企業である。同社と米国子会社のispace technologies U.S.,inc.及びルクセンブルク子会社のispace EUROPE S.A.は、月着陸船(以下、ランダー)や月面探査車(以下、ローバー)の開発・製造や各地域の顧客向けサービス提供等を行い、子会社ispace Japanは事業に必要な電波法上の無線免許を取得し電波利用を行っている。
◆ ビジネスモデル
同社は、自社開発の無人のランダー及びローバーを用いて、①顧客の荷物(以下、ペイロード)を月に輸送するペイロードサービス、②月のデータを収集・提供するデータサービス、③パートナーシップサービスを提供している。
① ペイロードサービス
ペイロードサービスは、顧客のペイロードを同社のランダー及びローバーに搭載して月まで輸送するサービスである。ロケット打上の1~2年前頃前から顧客のペイロードをランダー及びローバーに搭載するが、同サービスには、搭載するための技術的なアドバイスと調整、月面到着後の実験、これらに関するデータ通信等のサービス提供も含まれる。
同サービスは、ペイロード重量に1kg当たりの価格を乗じた金額を顧客に課金する料金体系となっており、打上の1~2年前の本契約時からロケット打上までの間に、一括若しくは複数回に分割されて入金される。
② データサービス
データサービスは、ランダーやローバーに搭載する同社のカメラや各種観測機器等によって収集した月のデータを顧客に提供するサービスである。現状では売上計上はまだないが、将来的には成長が期待できるサービスであると同社では見ている。
③ パートナーシップサービス
パートナーシップサービスは、技術開発や事業開発で協業を行うパートナー企業と契約を結び、同社グループの活動をコンテンツとして利用する権利や、広告媒体上でのロゴマークの使用、データ利用権等をパッケージとして提供し、その対価を得るサービスである。
◆ 打上計画
同社では、1機のランダーによる1回の月着陸及び月面探査のプロジェクトを1ミッションとしており、28年までに10のミッションが計画・実行されている(図表1)
このうちミッション1及びミッション2は、技術実証ミッションとされ、ミッション3以降が商業化ミッションとされている。複数のミッションに関するランダーやローバーの開発が同時並行的に行われており、26年以降は年2~3回のミッション実施を計画している。
ペイロードサービスの価格設定は、個別の案件毎にボリュームディスカウント等はあるが、月面までの輸送で150万ドル/kg、月周回軌道までの輸送で50万ドル/kg、ローバー搭載のペイロード価格で350万ドル/kgを想定している。月面までの輸送単価は、長期的には100万ドル/kg程度まで下がると見ているが、一方で、現状では昼間の約14日間とされている月での探査期間が夜でも可能になる等、探査期間が拡張されることによる単価上昇要因もあるとしている。
① ミッション1
ミッション1の同社ランダーは、22年12月11日にSpace Exploration Technologies Corp.(以下、SpaceX)のファルコン9ロケットに搭載され、米国ケープカナベラル宇宙軍基地から打上げられた。ロケットから分離された後、3月21日には月周回軌道へ投入され、4月下旬に民間企業初の月面着陸を行う計画となっている。
ミッション1のランダーのデザイン上のペイロード重量は最大30kgで、実際には約12.43kgのペイロードを搭載しており、データサービスを含み約1,000万ドルの契約額となっている。主なペイロードは、アラブ首長国連邦(UAE)の政府宇宙機関のMohammed Bin Rashid Space Centre(以下、MBRSC)の月面探査ローバーが10kg、その他、日本特殊陶業(5334東証プライム)の固体電池、カナダの民間企業の人工知能のフライトコンピューターやカメラ、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)の変形型月面ロボットの輸送を行う。
② ミッション2
ミッション2は24年に、SpaceXのファルコン9ロケットで打上の予定で、デザイン上のペイロード重量は30kg、実際のペイロードは10.5kg、契約額は約1,600万ドルである。主なペイロードとしては、高砂熱学工業(1969東証プライム)の月面用水電解装置、台湾中央大学の深宇宙放射線プローブ、ユーグレナ(2931東証プライム)の微細藻培養装置等がある。ミッション2では自社開発のローバーを搭載し、ローバーへの顧客ペイロード搭載や月面データの収集を行う計画である。
③ ミッション3
25年に打上予定のミッション3では、現在、米国子会社ispace technologies U.S. inc.で開発中の大型ランダーを搭載の予定である。同ランダーは、デザイン上のペイロード重量500kgで、ペイロード販売可能重量は約145kgを想定している。このうち95kgについては、アメリカ航空宇宙局(以下、NASA)のペイロードとなる。これはNASAが今後10年間に総額26億ドルの予算で、月面への輸送サービスを民間に委託するCommercial Lunar Payload Services(以下、CLPS)計画の一環のプロジェクトで、ispace technologies U.S.
inc.はこのプロジェクトを受注した米国のチャールズ・スターク・ドレイパー研究所チームの一員として、同研究所から約5,450万ドルでペイロードサービスを請負っている。この他、法的拘束力のある契約には至っていないが、ペイロードサービス中間契約を締結済みの案件が何件かある。
ミッション3では地球との直接交信ができない月の裏側への着陸を計画しているため、ランダーとの交信のため、2機のリレー衛星を同社の投資として打上げる予定である。この2機のリレー衛星は、同社の資産としてミッション4以降も稼働する予定である。
④ ミッション4以降
ミッション4以降も、デザイン上のペイロード重量最大500kgのランダーの打上を計画している。ランダーに搭載が必要な機器の見極め等ランダー開発の不確実性の低下や、需要拡大に伴う顧客への販売充足率の上昇により、デザイン上のペイロード重量に対する販売可能ペイロード重量である歩留まり率上昇を見込んでいる。ミッション4以降の1ミッションの費用は、約1億ドル、うちランダー等の製造費用が40%、打上費用が60%と想定している。