セレンディップ・ホールディングス<7318> 事業承継プラットフォームでのソリューションのワンストップ提供が特徴
事業投資を通じて中堅・中小のモノづくり企業の事業承継を支援
事業承継プラットフォームでのソリューションのワンストップ提供が特徴
業種: 輸送用機器
アナリスト: 藤野 敬太
◆ モノづくり企業の中堅・中小企業に特化した事業投資会社
セレンディップ・ホールディングス(以下、同社)は、「経営の近代化」と「地方 創生」を推進するために、モノづくり企業を対象として事業投資を行う会社 である。同社は、06 年にコンサルティング会社として創業するとともに、ベン チャーキャピタルを設立してベンチャー企業の育成に従事してきた。13 年 にパン製造会社を買収した経験を通じ、事業承継型 M&A を事業の主軸と するようになった。同社が確立したビジネスモデルは、後継者不在等の課題 を抱える企業の株式を譲受してグループ企業とし、経営者派遣や経営支援 等を行うことで、事業承継を円滑に推進するとともに、長期的な企業価値の 向上を目指すというものである。
同社の事業は、経営支援のためのソリューションを提供するプロフェッショナ ル・ソリューション事業、金融機関等との共同投資やファイナンシャルアドバ イザリー業務を行うインベストメント事業、M&A で傘下に収めたモノづくり企 業が行っているモノづくり事業の 3 つの報告セグメントに分類されている(図 表1)。自動車部品製造やFA装置製造を行う 3社がモノづくり事業に区分さ れているため、グループの売上高と利益の大半をモノづくり事業が生み出 す状況になっている。そのため、同社の業種区分も「輸送用機器」となって いる。
◆ 同社のモノづくり企業に対する認識と事業承継プラットフォーム
中堅・中小のモノづくり企業の多くで、オーナー経営者の高齢化により後継 者不在という問題が顕在化している。また、後継者不在企業も含めて、多く の中堅・中小企業は以下のような課題を抱えているというのが、同社の認識 である。
- 社会環境や産業構造の急激な変化に対して経営管理体制が追いつい ておらず、「経営の近代化注 1 」が進んでいない
- 少子高齢化に伴う労働力不足等、経営資源を十分に確保できていな い
- 生産性が低く、稼ぐ力が弱い
同社は事業投資の投資先を、後継者不在の中堅・中小のモノづくり企業に 据えている。同社は、M&A により資本の面で事業承継を実現させた上で、 上記の経営課題に対応できるプロ経営者の派遣、経営執行に関与する PMI 注 2の実行、企業価値の回復と向上を図る経営コンサルティング等のソリ ューションを総合的に提供している。このように、ヒト、カネ、ノウハウに関する 機能を適切に投入することで、投資先の企業価値の向上を図っていくが、 同社ではそれらの機能を経営管理基盤、事業承継基盤、モノづくり基盤の 3 つに整理している。これら 3 つの基盤を持つことにより、事業承継に必要な ソリューションをワンストップで提供できる体制を整え、事業承継プラットフォ ームとして機能させている(図表 2)。
◆ グループ体制の詳細
事業承継プラットフォームを構成する 3 つの基盤、セグメント、グループ企業 を整理したものが図表 3 である。
◆ プロフェッショナル・ソリューション事業
プロフェッショナル・ソリューション事業は、同社と、セレンディップ・テクノロジ ーズが担当している。モノづくり企業に対し同社はプロ経営者を、セレンディ ップ・テクノロジーズはエンジニアを派遣し、経営課題や技術的課題に対す るソリューションを提供している。
◆ インベストメント事業
20年3月に設立したセレンディップ・フィナンシャルサービスが担当する事 業である。金融機関等と連携しての共同投資やマイノリティ出資のほか、フ ァイナンシャルアドバイザリー業務も行う。ファイナンシャルアドバイザリー業 務に応じたフィー収入や、投資先を売却することで得られるキャピタルゲイ ンが収益源となる。
なお、投資を行う主体としては、同社とセレンディップ・フィナンシャルサービ スとなるが、投資スタイルにより区別をしている。同社による投資は自己勘定 によるもので必ずしも短期のエグジットを前提とせず、営業キャッシュ・フロー の獲得を主眼に置き、設備や開発、人材への投資も行っていくスタイルであ る。一方、セレンディップ・フィナンシャルサービスによる投資はファンド経由 または共同投資であり、バリューアップを目的としつつも、売却によるキャピ タルゲイン獲得を狙っていくスタイルである。
◆ モノづくり事業
同社が M&A により傘下に収めたモノづくり企業 3 社が属する。
天竜精機(長野県駒ヶ根市)は FA 装置メーカーで、コネクタ自動組立機や 電池関連自動組立機といった個別受注生産品と、クリームはんだ印刷機等 の量産品の実装関連設備を製造している。
佐藤工業(愛知県あま市)は精密プレス加工技術が特徴の自動車精密部品 メーカーである。自動車のオートマチックトランスミッションの機能部品が主 力製品で、アイシン(7259 東証一部)が主要顧客である。
三井屋工業(愛知県豊田市)は自動車の内装部品や外装部品のメーカー で、トヨタ自動車(7203 東証一部)が主要顧客である。トヨタ自動車と直接取 引を行っているため、新車種の企画段階から開発に参画できるポジションに ある。
◆ セレンディップ・ホールディングスの強み
同社の特色及び強みとして以下の点が挙げられる。
- 事業承継に必要なソリューションをワンストップで提供できる事業承継プ ラットフォームの存在
- M&A の成否を左右する PMI を実践できるプロ経営者の存在及びその ノウハウのグループ内での蓄積
- 現在進行形のものも含め、過去の M&A の実績