アンビスホールディングス<7071> 20年9月期も19年9月期と同等の新規出店が続く見込み
慢性期や終末期の人を主な対象とした医療施設型ホスピス「医心館」を運営
20年9月期も19年9月期と同等の新規出店が続く見込み
業種: サービス業
アナリスト: 藤野 敬太
◆ 医療施設型ホスピス「医心館」を運営する企業
アンビスホールディングス(以下、同社)グループは医療施設型ホスピス「医心館」を運営している。継続的な医療が必要な慢性期注1や終末期注2の人で、現在の医療制度のもとでは病院にいられず、在宅療養では家族の負担が大きすぎて続かないという「行き場を失くした」人に、多職種地域連携のもとで療養生活の場を提供するのが「医心館」である。
同社は、16年10月に単独株式移転により設立され、13年9月に設立されたアンビスを100%子会社とする持株会社体制へ移行した。同社グループは、同社と、連結子会社のアンビスの合計2社で構成されている。
「医心館」はアンビスが設立されて以来、約6年で1都9県に展開しており、19年8月末時点で19施設786室となっている(図表1、図表2)。なお、「医心館」は、首都圏等の大都市部では「都市型モデル」として集中的な出店によるドミナント戦略で、地方都市では「地方都市モデル」として、他社に先行して出店することで先行者利益を獲得する高シェア戦略での出店をそれぞれ志向している。両モデルの売上高はほぼ拮抗しており、19/9期第3四半期累計期間においては、「都市型モデル」の施設の売上構成比54.2%となっている。
◆ 「四方よし」の医心館モデル
医心館には、病気になった人、医療機関、地域社会、同社の4者が関わっているが、それぞれにとってメリットがあるビジネスモデルである。
病気になった人の中には、医療依存度が高いものの自宅等で看護や介護を十分に得ることが難しい人が存在する。がんの末期状態にある人、特定疾患等の難治性の病気を持つ人、人工呼吸器の装着や気管切開で呼吸管理が必要な人、重度障害により在宅での日常生活が困難な人、看取り対応の人等がそれに該当する。
医療機関は、医療過疎の地域を中心に、経常赤字と医師の慢性的な不足に悩まされている。医師の確保が難しくなると、少ない人員ですべてに対応せざるを得ないという劣悪な労働環境となり、ますます医師が確保できなくなるという負のスパイラルに陥ることになる。
そのような医療機関における負のスパイラルの発生は、病床及び医療機関の減少、医師不足の深刻化につながり、地域社会における医療サービス体制の崩壊につながりかねない。
医心館モデルは、こうした、病気になった人、医療機関、地域社会が抱える課題を解決するのと同時に、同社にとっても十分な収益を上げることができる事業となっている。これが「四方よし」の所以である。
◆ 医心館のビジネスモデル
医心館のビジネスモデルは、訪問看護、訪問介護、居宅介護支援等の訪問系サービスと、住宅型有料老人ホーム等の施設系サービスを組み合わせることによって成り立っている。在宅療養と入院医療の良いところを併せ持ち、かつ、互いの欠点を補う形でのサービスの提供を実現している。
在宅療養は、自宅という日常空間で過ごすことになるため、プライバシーは守られ、自分の生活スタイルを守ることができるが、ケアや見守りが必要なため、家族等の負担が重い。また、緊急時の対応も遅くなる傾向があり、病院に比べ、安心感はどうしても低くなる。一方、入院医療は、病院での管理のもとで治療をするため、治療効果は高いが、非日常的な空間での生活とならざるを得ず、住空間とは言いづらい。
医心館は、慢性期や終末期の療養生活であれば常時必要としない医師、薬剤師、ケアマネージャーの機能を外部化(非常駐化)し、住まいの機能を付加し、看護ケアに特化した施設である。医心館では看護スタッフがメインプレイヤーとなるが、地域の医師や薬剤師、ケアマネージャー等の外部のスタッフとの連携により、チームとしてケアを行っていく。その結果、地域包括ケアシステムや地域医療の仕組みの一翼を担う存在となっている。
別の視点で見ると、地域の開業医等の無床診療所にとっては、病床を必要とする人を診る必要が生じた場合は、医心館のベッドを利用することで対応することができる。同社では「シェアリング病床」と呼び、地域の医師との連携強化のひとつの手段として捉えている。
◆ 収益構造
医心館のサービスを通じて得られる収益は、(1)医療保険報酬、(2)介護保険報酬、(3)その他保険報酬、(4)入居者から得られるホテルコスト収益から構成される。同社では、(1)~(3)を合わせて保険売上、(4)を保険適用外売上と分類している。
保険売上では医療保険報酬と介護保険報酬の両方から収益を得ることで、安定的な事業運営が可能となっている。このことで、ホテルコストを低価格に設定することが可能になり、入居者の経済的な負担の軽減につながっている。
収益の種類別の売上の内訳の開示はないが、参考となるのは、定員数に対する入居者数と看取り数であろう(図表3)。
◆ アンビスホールディングスの強み
同社の「医心館」の特色及び強みとして、(1)「四方よし」のビジネスモデル、(2)「都市型モデル」と「地方都市モデル」の2つの出店モデルがあることによる展開余地の大きさ、(3)累積看取り数に裏付けられる看取りのノウハウの蓄積、(4)エリアマネージャーを置かず、現場スタッフに数値目標を意識させない等の看護に集中できる現場環境の4点が挙げられよう。