米国中小企業の経営者、「前例ない空前の楽観」─ 即時償却で
旺盛な設備投資で、金利上昇もこなし、力強い景気拡大と株高が向こう数年間、続きそうです。
米国中小企業の経営者:18ヵ月連続、先行きを楽観
中小企業の業界団体である全米独立事業者協会(NFIB)が集計する中小企業楽観度指数が一段と上昇しています(5月調査、6月12日公表)。中小企業経営者の楽観度は「調査開始以来の45年間で2番目に高い歴史的水準」(NFIB)まで高まってきました。
原動力は、トランプ政権の税制改革(トランプ減税)を好感した各社それぞれの業績期待です。2016年11月に大統領選でのトランプ氏勝利直後に、楽観度指数は大きく跳ね上がりました(図表1の矢印参照) 。それ以降18ヵ月連続で中小企業の経営者の「前例ない空前の楽観」(unprecedented optimism)が続いている、とNFIBは述べています。
メイン・シナリオ:2023年景気後退まで株高続く
アンケート形式のNFIB調査を回答項目別にみると、「事業拡大を計画する」(Expansion Plans)企業の占める割合が過去最大となりました。「先行き増益を見込む」(Positive Earnings Trends)企業や「賃金引き上げで従業員をつなぎとめる」(Compensation Increases)企業も過去最大です。
事業拡大を計画するには、経営資源──すなわちヒト、モノ、カネの投入が必要です。モノの投入である設備投資については、トランプ減税の中心に据えられた「即時償却」(full expensing)が起爆剤になっています。与党共和党を二分した論争「大企業か?中小企業か?」の末に、中小企業の重視策として法制化された経緯があります(注)。米国景気は力強く拡大していますが、近年、弱まっている経済成長力(潜在成長率)を高めることが即時償却の主眼です。
(注)MYAM Market Report「米国中小型株、上昇力で大型株に勝るか─トランプ減税で」(2018年6月1日)参照。
即時償却とは、設備投資した年に、要した費用を全額、費用に計上することを認める特例措置です。通常、設備投資に要した費用は、税法が定める耐用年数の到来まで毎年、少しずつ費用に計上する「減価償却」をしなくてはなりません。例えば日本で、法人が業務用に新車を購入するケースを想定しますと、法定耐用年数の6年間にわたり減価償却します。新車でなく、ベンツやレクサスなど値落ちしにくいとされる高級車であえて4年落ち中古を好む企業経営者も少なくないようですが、即時償却できるからです。即時償却することで、設備投資した年の税額を(減価償却する場合よりも)節約でき、資金繰りが楽になる利点があるのです(図表2参照)。日本では、中小企業の経営者にとって「4年落ち中古車は節税対策の定番」とも言われるゆえんです。
米国ではより大規模に、即時償却が法制化されました。向こう5年間は即時償却を100%認める特例措置です(6年目以降は枠を縮小)。企業は税額が減る反面、政府には(一時的ながら)大幅な税収減となるため、35%の法人税率は、トランプ大統領が公言した15%でなく、21%への引き下げが精一杯でした。共和党指導部は「一時的に財政赤字が急拡大しても、設備投資の加速で長期的に潜在成長率が高まり、税収増にもなる」と考えたのです。
トランプ減税を受け、IMF(国際通貨基金)は4月の世界経済見通しで「米国景気は力強く拡大」「景気減速感が強まるのは2023年頃」との見解を示しました。中小型株を中心に、23年頃までは(上下動しつつも)米国株高が続きそうです。
リスク・シナリオ:金利上昇による「景気腰折れ」
IMFは同時に、(発生確率の低い)リスク・シナリオとして「金利上昇による景気腰折れ」にも言及しています。銀行貸出金利が上昇すれば、借入れが困難となり設備投資が減って景気が悪化する、とのシナリオです。市場でも一部ながら「金利上昇で2019年に景気後退」との憶測も聞かれます。しかし、即時償却で資金繰りが楽になり、浮いた資金を事業拡大や賃金引き上げ等に充て始めた中小企業が「銀行貸出金利上昇」のみを理由に設備投資を断念するとは考えづらく、あくまで発生確率の低いリスク・シナリオのようです。
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