為替介入の基礎知識
市川レポート(No.215)為替介入の基礎知識
- 日本・米国・ユーロ圏・英国の中央銀行のうち、為替介入の権限を持たないのは日銀のみ。
- 円売り介入の原資は外為特会の国庫短期証券、介入による当座預金残高への影響は中立。
- 円急伸で国内経済への悪影響が懸念される場合の為替介入は、他国の理解も得られやすい。
日本・米国・ユーロ圏・英国の中央銀行のうち、為替介入の権限を持たないのは日銀のみ
足元の為替市場では、一段の円高進行に対する警戒が続くなか、政府・日銀による為替介入の議論もみられるようになりました。そこで今回は為替介入の仕組みと効果についてお話しします。一般に為替相場が急激に変動した場合、通貨当局は為替レートを安定させるために介入を行います。介入の法的枠組みは国によって様々で、まずは日米欧の介入制度を簡単に比較してみます。
介入の権限について、日本では財務省のみが保有し、日銀に権限はありません。これに対し、米国では財務省と米連邦準備制度理事会(FRB)の双方が権限を保有し、英国でも同様に財務省とイングランド銀行(BOE)が保有しています。一方、ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)のみが権限を持ちます。つまり4カ国・地域のなかで介入権限のない中央銀行は、日銀だけということになります(図表1)。
円売り介入の原資は外為特会の国庫短期証券、介入による当座預金残高への影響は中立
次に日本における介入の仕組みを説明します。日本では財務大臣の代理人として財務大臣の指示に基づき、日銀が為替介入(外国為替平衡操作)を実施します。例えば1兆円の円売り・ドル買い介入を行う場合、財務省は一般会計と区別された「外国為替資金特別会計(外為特会)」で国庫短期証券を発行し、これを日銀に直接引き受けてもらうことによって、1兆円を調達します。
財務省は日銀を介して民間銀行と1兆円の円売り・ドル買いの取引を行います。財務省が受け取ったドルは米国債などで運用され、民間銀行が受け取った1兆円は日銀当座預金に積み上がり、-0.1%の付利対象となります。財務省はその後、別途1兆円の国庫短期証券を市中で発行し、日銀から調達した1兆円の返済に充てます。なお市中で購入するのは民間銀行ですので、財務省への購入代金支払いで日銀当座預金は1兆円減少します(図表2)。
円急伸で国内経済への悪影響が懸念される場合の為替介入は、他国の理解も得られやすい
このように円売り・ドル買い介入の日銀当座預金残高に対する影響は中立的です。また-0.1%が付利される金額は、準備預金積み期間における平均残高に基づいて算出されるため、その影響も限定的と考えられます。なお為替介入の効果については、急激な相場変動の勢いを一時的に緩和することはあっても、相場のトレンドそのものを変えることは極めて困難という解釈が一般的です。
自由変動相場制における為替介入は、相場が著しく変動した場合にのみ実行の可否が検討されるものですが、適切なタイミングで行われなければその効果は限定的となります。仮にこの先、円が急伸して日本株を大きく押し下げ、物価の基調にも悪影響を及ぼす恐れが強まった場合には、政府・日銀が対策の1つに為替介入を含める可能性があります。そのような状況における介入であれば、通貨安競争を促すような類のものではありませんので、他国の理解も得られやすいと思われます。
(2016年2月25日)
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