パーシャルスピンオフの活用

2025/10/29

・多くの企業で、事業ポートフォリオの見直しが求められている。儲からない事業はやめて、もっと儲かる事業にシフトする。事業の組み合わせを変えて、全体の収益性と効率を高めようという戦略である。

・事業を外部から買って強化すると同時に、自社の事業を外部に売却することもある。買い手がつかなければ、その事業を縮小して、撤退することもありうる。

・カーブアウトは、会社の事業を切り出して独立させることをいう。会社分割や事業譲渡のスキームを活用する。ソニーのPC事業は、2014年に事業ごと切り出され、VAIOとして独立した。

・スピンアウトは、カーブアウトの一種で、事業を切り出して独立させる際に、資本関係を持たずに完全に独立させる。一方、スピンオフでは、独立させる際に独立後も資本関係を維持する分離形態をいう。

・我が国初のスピンオフは、コシダカホールディングスが子会社のカーブスホールディングスを分離独立して2020年3月の上場させたケースである。

・カラオケのコシダカとフィットネスのカーブスに直接的なシナジーはほとんどなかった。カーブスの経営の自立を図って、成長力を高めるには親子上場ではなく、100%独立して上場する方が望ましいとコシダカホールディングスの創業者は考えた。

・100%の分離独立なので、コシダカHDの株主は、1株につき、カーブスの株式を1株受け取った。分割前の1株の価値は、分離後も変わらず、配当課税もなかった。

・カーブスHDは、上場によって経営陣、社員のモチベーションが上がり。ヘルスケア企業として、産学官、自治体。医療機関との連携が進めやすくなった。コロナ禍を経て、コシダカHD、カーブスHDの成長機会は高まっており、スピンオフ前の株主にとっても成果が享受できている。

・2017年度のスピンオフ税制は100%分割が前提であったが、2023年度のパーシャルスピンオフ税制では、80%までに分割が認めたれるようになった。つまり、親会社は事業子会社を分離独立させる場合、20%未満なら子会社の株式が持てるようになった。

・このパーシャルスピンオフ税制を用いて、ソニーグループは子会社のソニーフィナンシャルグループを分離独立させ、今年10月に上場させた。株主はソニー株1株に対して、ソニーフィナンシャルグループの株を約0.8株受け取った。分離独立前の対価をベースに算定されるので、1株当たりの価値は分離前と後で変わらない。

・なぜパーシャルスピンオフ(部分分割)の方がよいのか。100%独立してしまえば、例えばソニーというブランドが使えないかもしれない。ソニーGはエンタメ3事業とイメージセンサー事業に集中して、バランスシートの最適化が図れる。

・ソニーFGは、ソニーブランドを継続的に使用でき、成長戦略の実行に当たって、資金調達や投資の意思決定が独立して迅速に遂行できる。

・ソニーGは約20%の株式を所有することで、ソニーブランドやソニーのテクノロジーを提供しつづけることができ、それに見合うリターンも得ることができる。ソニーのDXを利用できるメリットはソニーFGにとって大きい。

・ソニーFGは、1979年の創業以来、創業者の思いをベースに、ソニー生命、ソニー損保、ソニー銀行、ソニー・ライフケア、ソニーフィナンシャルベンチャーズへと領域を広げてきた。上場後は。2030年に向けて、M&Aを含めて成長投資を加速していく。その自由度が大きく高まろう。

・「感動できる人生を、いっしょに」をスローガンに、健康寿命、資産寿命に加えて、感動寿命に関わるサービスを提供していく。大株主としてソニーGが20%有しているというのは、一般株主からみても心強い。既存株主にとっては、両社の成長力が高まるのであれば、株式を別々に持つ楽しみも期待できる。

・レゾナック・ホールディングスも、石油化学事業のパーシャルスピンオフを準備している。レゾナックHDの下に、半導体や電子材料などの高機能ケミカル事業を展開するレゾナックと、大分で石油化学事業を展開するクラサスケミカルを置いている。このクラサスケミカルをパーシャルスピンオフしようという計画である。

・石油化学事業は、業界再編も含めて、収益性の向上を図る抜本策が必要である。まずは、自立してサバイブしていくパーシャルスピンオフをベースに、他社との連携もありうるとしている。レゾナックHDの事業ポートフォリオの見直しにとっては、コアとなる戦略遂行である。

・パーシャルスピンオフのカギは、1)スピンオフする事業が分離独立することによって、より収益性と成長性が高められるようになるか、2)一部の資本を親会社が持つことによって、そこに明確なシナジーがあると認められるか、にある。

・一般株主からみれば、その会社の事業ポートフォリオが企業価値を十分生み出してくれるならば問題ないが、そうでなければ株式を分割して判断を株主にゆだねてくれるのは有難い。

・投資家は自分でポートフォリオを作ることができる。ソニーFGを買い増してもいいし、その分を売却してソニーGの株を買い増ししてもよい。事業部門の収益性を見直すよい機会となろう。

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