行間を読ませる

2025/09/22

◆俳優のロバート・レッドフォードが亡くなった。訃報が届いた翌18日は主要各紙の朝刊1面コラムがそろって追悼文を書いた。いずれも出世作となった1969年公開の「明日に向って撃て!」を取り上げたのは当然だろう。 レッドフォードが演じたサンダンス・キッドの役は当初、スティーブ・マックイーンと決まっていたという裏話あり、「明日に向って撃て!」のギャラで買ったユタ州の土地をサンダンスと名付けたことや、自主製作映画を応援する「サンダンス映画祭」を立ち上げた功績をたたえたものもあった。

◆僕がいちばん好きな作品は、ウォーターゲート事件でのニクソン大統領の不正を暴く「大統領の陰謀」だ。レッドフォードはワシントン・ポスト紙のウッドワード記者を演じ、相棒の先輩記者役がダスティン・ホフマンだった。ダスティン・ホフマンが主演した名作「卒業」は、当初レッドフォードに白羽の矢が立っていたと産経新聞「産経抄」が書いていた。

◆毎日新聞「余禄」と日経新聞「春秋」はコラムの終盤で「大統領の陰謀」に言及した。「余禄」は、レッドフォードが生前、「大統領の陰謀」の現代的意義を強調し「ニクソンはいないがトランプがいる」と語ったエピソードを紹介した。「春秋」はトランプ大統領が新聞社を訴えたニュースを挙げた。両者の言わんとすることは明らかだろう。

◆そのなかにあって朝日新聞「天声人語」はまったく別の話題を書いた。
「朝日新聞のひとりの記者として、きょうという日を考える。歴史を振り返れば、9月18日は二重の意味で、私たちの新聞に多くを教え続ける節目である。」
こう始まるコラムは、満州事変・GHQによる発行停止という「ふたつの9月18日」を報道機関が権力に屈した日として記憶に刻み、「重く暗い歴史を省みて、頭(こうべ)を垂れる」と記している。

◆文章丸ごとの引用は格好悪いと思いながらも、この(おそらくいい年齢をした)記者の青臭くも熱い心意気に打たれた。この日の「天声人語」はこう書き切った。
「ジャーナリズムとは何か。その立ち位置が問われるのは、右だとか左だとか、そんなことではなく、ときの権力に対し、いかなる距離をとっているかである。圧力からも、しがらみからも自由に、ものを言う覚悟である。」

◆自らはレッドフォードにも「大統領の陰謀」にも一言も触れることなく、しかし、アメリカのトランプ政権下で起きているジャーナリズムの危機に警鐘を鳴らし、そしてそれは対岸の火事ではないという意味も込めて、ジャーナリストの気骨を示して見せた。 と、同時にこのコラムはライバル紙が「書くであろう」内容を予測し、それを利用している。これほど上手に「行間を読ませる」技術にお目にかかったことはない。プロの技に脱帽である。

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