Chordia Therapeutics(190A)白血病適応の主力パイプラインの第2臨床試験入りで早期の承認申請を目指す
がん領域に特化して新しい作用機序による低分子医薬品を開発
白血病適応の主力パイプラインの第2臨床試験入りで早期の承認申請を目指す
業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦
◆ がん領域に特化して新しい作用機序による低分子医薬品を開発
Chordia Therapeutics(以下、同社)は、武田薬品工業(4502東証プライム)のベンチャー支援制度を活用し、三宅洋社長を始めとする武田薬品工業の研究者達によって設立されたバイオベンチャーである。がん領域に特化して新しい作用機序による低分子のファーストインクラスの医薬品の研究開発を行っている。ファーストインクラスの医薬品とは、新規性・有用性が高く、従来の治療体系を大幅に変えるような革新的な医薬品を指す。
◆ RNA制御ストレスを標的としたがん治療薬の研究開発を推進
同社の研究開発は、近年、発見されたがんの特徴である、RNA制御ストレスを標的にしている。RNA制御ストレスとは、細胞内でタンパク質の生成を行うRNAの生成過程に乱れが生じ、異常なRNAが蓄積し、細胞に負荷がかかっている状態を指す。がん細胞では正常細胞に比べて過剰に負荷がかかっている状態にあり、異常なRNAを更に生成、蓄積させることでがん細胞を選択的に死に至らしめるという作用機序により、抗がん効果を得る。
図表1は、タンパク質生成の設計図であるDNAを基にRNAを生成し、タンパク質を生成する過程を示している。DNAから前駆型メッセンジャーRNA(mRNA)が生成される転写○A、前駆型mRNAのうち、タンパク質生成に必要なエクソン部分のみを取り出して成熟型RNAを生成するスプライシング○B、タンパク質生成に必要なアミノ酸を、タンパク質を生成するリボソームに運ぶ輸送○C、役割を終えたRNAの分解○Dの過程を経る。同社のRNAストレス制御を標的とする医薬品は、これら転写、スプライシング、輸送、分解の各過程を調節する物質を阻害することで、がん細胞での異常なRNAの生成、蓄積により、がん細胞を死滅させることを目指している。
RNA制御ストレスを標的としたがん治療薬はまだ医薬品として市販されておらず、同社はこの分野でのリーディングカンパニーとして研究開発を進めている。
◆ 事業モデルと収益構造
同社は医薬品の探索研究、前臨床研究、臨床研究といった研究業務、特に候補化合物の探索、評価、最適化、臨床試験に集中し、基礎研究、原薬や製剤の製造、流通・販売等は外部の協力先に委託している。
開発中の医薬品については、外部の製薬会社にライセンス供与する場合と、自社で臨床試験、承認申請を行い、外部委託先との連携により製造・販売までを行う2つの戦略を取っている。
外部の企業にライセンス供与する場合には、ライセンス契約締結時の契約一時金、パイプラインの開発状況に応じた開発マイルストン、上市した医薬品が契約時に設定した販売目標を達成した場合の販売マイルストン、医薬品の売上高に一定比率を乗じたロイヤリティ収入を得る。自社で製造、販売を行う際には、医薬品販売の利益を得ることになる。
基本的には海外市場については、医薬品として承認・上市の可能性が高まる第2相臨床試験の段階で、海外の製薬企業にライセンス提供し、国内市場については、製薬会社として製造・販売を行う方針としている。
国内市場での製造・販売を目指し、塩野義製薬(4507東証プライム)の傘下で医薬品の製造受託を行うシオノギファーマや医薬品卸事業を行うメディパルホールディングス(7459東証プライム)と提携している。
◆ 開発パイプライン
同社は武田薬品工業からライセンスを譲渡された4つのパイプラインと、自社開発した1つのパイプラインの合計5つのパイプラインを保有している(図表2)。
1) CTX-712(CLK阻害薬)
CTX-712(CLK阻害薬)は、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、以下、AML)や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes、以下、MDS)等の血液がんや、卵巣がん等の固形がんを対象に開発を進めているCLK阻害薬である。RNAのスプライシングを調節している酵素であるCLKを阻害することで、正常なスプライシングが行われなくなり、mRNAが細胞に異常に蓄積され、もともと過剰なストレスがかかっていたがん細胞を選択的に死滅させる、という作用機序を持っている。
CTX-712は、国内で第1相臨床試験、米国で第1/2相臨床試験を実施中である。国内の第1相臨床試験は18年8月に開始され、23年8月に全ての患者登録が完了し、固形がん46名、血液がん14名の合計60名の患者への投薬が行われた。米国では24年2月時点で12症例の登録を終えている。
国内第1相臨床試験の結果については、24年4月の米国がん学会で23年11月時点までの46名の固形がん患者、14名の血液がん患者への投薬結果が報告された。有効性については、AML/MDS患者14名のうち6名でがんの規模が小さくなったり、消滅したりという有効性が認められ、卵巣がんでは14名中4名に有効性が認められた。奏効率はAML/MDSで42.8%、卵巣がんで28.6%の結果を示した(図表3)。
こうした第1相臨床試験結果を受け、今後はAMLを対象に日米の第2相臨床試験を優先して進める考えである。
CTX-712については、武田薬品工業とのライセンス譲渡契約に基づき、現時点では、全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化の権利を同社が保有している。
白血病を含む造血器腫瘍、及び固形がん患者の中で、奏功が期待される患者を層別するためのバイオマーカーの共同研究を京都大学、国立がん研究センターと進めている。
2) CTX-177(MALT1阻害薬)
CTX-177(MALT1阻害薬)は、難治性リンパ腫を対象にした、MALT1阻害薬である。MALT1はリンパ腫の異常増殖をもたらす転写因子NF-κBを活性化する。CTX-177はMALT1を阻害することによりNF-κBを抑制し、抗がん作用を生みだすと考えられている。CTX-177はRNA制御ストレスを標的とした候補化合物ではない。
20年12月に小野薬品工業(4528東証プライム)とライセンス契約を結び、全世界での開発、製造、販売権を譲渡した。現在、小野薬品工業が米国で非ホジキンリンパ腫もしくは慢性リンパ性白血病患者を対象に第1相臨床試験を進めている。
3) CTX-439(CDK12阻害薬)
CTX-439(CDK12阻害薬)はmRNAの転写を調節している酵素のCDK12を阻害することにより、細胞内で異常なmRNAが蓄積し、がん細胞を死滅させる作用機序を持つ。マウスを使った非臨床試験で、乳がんや卵巣がん、その他の固形がんについて抗がん作用を示している。現在、第1相臨床試験に向けた準備段階にある。
CTX-439については、武田薬品工業とのライセンス譲渡契約に基づき、現時点では、全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化の権利を同社が保有している。
4) GCN2阻害薬
GCN2はタンパク質生成に必要なアミノ酸のリボソームへの輸送を行うトランスファーRNA(tRNA)を調節している。GCN2阻害薬は、tRNAの輸送に異常を生じさせ、異常なtRNAが細胞内に蓄積し、もともと負荷がかかっていたがん細胞が選択的に死滅する作用機序を持つ。現在は、探索研究段階にある。
GCN2阻害薬については、武田薬品工業とのライセンス譲渡契約に基づき、現時点では、全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化の権利を同社が保有している。