自動車は成長産業なのか、成熟産業なのか

2013/05/10

【アナリストコラム 高田 悟】

国内完成車メーカー(商用車メーカーを除く)の13/3期決算がほぼ出揃った。トヨタ子会社のダイハツ及び本日決算公表予定の日産を除く6社合計の売上高は前期比18%増の40兆4,538億円となり、営業利益は同2.9倍の2兆2,519億円となった。一方、今期(14/3期)は各社計画を積み上げると売上高が同12%増、営業利益は同39%増の3兆1,300億円の見通しとなる。今期は大震災やタイ洪水からの生産回復、エコカー補助金の寄与が大きかった前期からは鈍化するが、2期連続で大幅増益と強気の見通しだ。加えて、業績への影響が大きい為替は各社ほぼ1米ドル90円(前期比7円安)を計画前提としているため、足下の100円前後の水準が年を通じて続けば営業利益は一段と膨らむことになろう。

 リーマンショック直後の決算でトヨタが翌期(10/3期)赤字予想を発表した。また、僅か2年前には多くが大震災から決算公表時に翌期(12/3期)予算公表を見合わせた。当時と比べ隔世の感がある。足下の見通しは極めて明るい。しかし、過去の変化が激しかったが故に、今期予想ほど高い成長が続かなくても成長の持続性が懸念される。そこで、成長の基礎条件、需要を追う。世界の自動車生産(年度)は10/3期から13/3期までの4年間で6,500万台→8,043万台へ24%増加した。地域別には日本887万台→955万台(対10/3期比108%)、北米993万台→1,572万台(同158%)、欧州1,626万台→1,605(同99%)、中国1,576万台→1,919万台(同122%)、アジア(タイ、インドネシア、インドの合計)453万台→766万台(同169%)、残りがその他地域となる。

上記生産実績は輸出が生産の約半分を占める日本を除けばほぼ地域の需要を反映する。世界自動車需要増への貢献ではアジア、北米、そして中国の順となる。この中で北米は市場成長というよりは、リーマンショック後の急激な需要縮小の回復局面にあり、需要はまだショック前の水準に戻っていない。アジアの伸長が著しいことが注目を引く。国民一人当たりのGDPが3,000ドルを超えるとモータリゼーションが進行すると言う。今まさにインドネシアがその局面にありアジア地域の自動車需要拡大を牽引する。14/3期のアジア地域生産台数見通しは818万台へ上向き、日本の885万台に一段と近づく。一方、依然として成長率は高いが普及黎明期を終えた中国の伸長は従来に比べれば足下は鈍化している。

最近の世界の需要動向から明らかなことは、国民一人当たりのGDP3,000ドル超えが近い国が幾つか存在し、人口も多いアジア地域は更なる自動車市場拡大が確実に見込まれる。とかく急成長を遂げた中国が注目される。だが、中国、潜在需要(自動車保有台数と買い替えサイクルで計算)にまだ届かぬ北米に加え、アジア地域の成長をいかに取り込むかが成長産業として止まる上で一層重要な課題となる。今期好業績見通しの背景として、円安効果がクローズアップされる。しかし、持続的成長のベースでもある数量面に着目すると、前期は北米での台数増とシェア回復に加え、アジア地域での販売台数増加が中国での領土問題の影響をカバーした。今期は日本での台数減を北米、アジア地域の伸長が補う想定だ。

国内完成車メーカーはここまで、需要拡大地域で極めて上手く立ち回ってきたと言える。それには長年培ってきたブランド力と地域にあった魅力的な商品の開発、投入面での成功がある。国内電機業界の低迷、中国自動車市場での欧米韓国メーカーに対しての劣勢などから国内自動車業界の衰退が危惧された。今後の成長市場での競争激化を踏まえると明日はわからない。一台のヒット車で世界は変わる。しかし、成長市場がある。そして、目先の成長市場はこれまで国内完成車メーカーが高いシェアを築いてきた北米、アセアンなど極めて身近な地域である。継続的にこれら地域の需要を捉えることができれば、まだまだ自動車は成長産業と言える。アジア地域では急速に自動車が普及する中で環境問題が深刻化してきた。環境、低燃費技術面での先行からも成長市場での競争に足下は優位に立っているとも言えよう。超円高と自然災害という大病を乗り越え、漸く健康を回復した国内完成車メーカー、自動車産業は今まさに新たな成長のスタートラインに立ったと言えまいか。

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
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