8月5日妥当レンジ 28,623円~30,869円
米国の利上げに対する楽観(緩和的)が後退

2022/08/09

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

投資のポイント

<米雇用統計には反応薄だったが>
■ペロシ米下院議長の訪台による瞬間的な緊迫状態から市場は回復しつつある。しかしながら、台湾周辺の緊張は以前よりも増したことはリスク量の増加として認識しておく必要があるようだ。
■3日発表の米ISM非製造業景況指数(7月)は低下を見込んでいた市場予想に反して56.7と前月比1.4ポイントのプラスとなった。さらに5日発表の米雇用統計(7月)においては、非農業部門雇用者数が市場予想(25万人増程度)に対して、前月比52.8万人増と大幅に増加、失業率も3.5%と6月(3.6%)と低下した。注目された平均時給も前月比+0.5%(予想は+0.3%)と加速した。
■賃金上昇率の鈍化がみられない限りは、FRBは利上げペースを緩められないとの見方が強い。雇用統計発表後の6日にFRBのボウマン理事は「物価上昇率の持続的な低下が確認できるまでは同程度の利上げを検討すべきだ」と述べた。債券市場では米利上げ継続による景気後退懸念を視野に米10年国債利回りは2.75%へと低下傾向を示しているが、米国株式市場は不思議なほど堅調さを維持している。
■今週は、10日:米消費者物価指数(7月)、11日:米生産者物価指数(7月)、12日:ミシガン大学消費者態度指数(8月)などが発表される。足もとの原油価格・ガソリン価格が下落していることから消費者物価の上昇率は低下が見込まれているが、注意が必要である。また、15日には7月の中国の消費・工業生産・固定資産投資等が発表されるがロックダウン等で一段と悪化している可能性にも用心が必要だ。
■足もとは上値に対しては引き続き膠着感の強い展開が続く中で、リスク要因に対して脆弱な状態にあると考えている。
■国内企業決算は円安要因もあり、上方修正企業が下方修正を上回っている。しかし、一方で来期以降のアナリストコンセンサスは伸び悩みからむしろ下方に動きつつある。日本株は今期業績をベースにすれば株価は割安感のある水準であることから、一時的に上昇する局面があるかもしれないが、強気にはなりにくい。個別株を物色する展開が今後も続くと考える。

 

 

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

28,623円~30,869円 (前回28,817円~31,099円)

「IFIS/TIWコンセンサス225」(8月5日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(8月5日)

今期予想EPS 1795.16 (前週1787.90円)
来期予想EPS 1896.88 (前週1892.64円)
再来期予想EPS 2042.39 (前週2044.32円)
今期予想PER 15.70 (前週15.55倍)
来期予想PER 14.85 (前週14.69倍)
再来期予想PER 13.80 (前週13.60倍)
来期予想PBR 1.11 (前週1.13倍)
来期予想ROE 7.47% 前週 7.67%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
7.03% (前週 7.17%)

8月5日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

  

 

 

妥当レンジは多少の変動はあるものの、年初からの変動は或る程度限定されている。一方、日経平均株価は米利上げとロシアのウクライナ侵攻を契機にリスクが上乗せされたのか、妥当レンジを下回って推移している。米利上げが織り込まれつあるものの、国際情勢は中台の緊迫化もありリスクが減少したとは言い難い。妥当レンジそのものは、来期以降の企業業績をベースとしていることから、世界景気の減速を鑑みれば上方には動きにくい。現状は今期業績が円安効果で押し上げられていることに生じている一時的な楽観の可能性も。

来期予想ベースのプラス企業比率は、 50.5%→57.0%→52.7%→46.156.2%→44.4
再来期予想ベースのプラス企業比率は、49.555.4%→52.9%→53.8%→63.344.2
プラス比率は再び悪化!

[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成

 

 

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
TIWマガジン「投資の眼」   株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。

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