5月29日妥当レンジ 19,800円~21,400円
株式市場への資金流入は「新常態」なのか?
【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】
投資のポイント
<世界的な実質「財政ファイナンス」が株価を支える?>
■2日時点の日経平均株価の予想PERは今期予想ベース(5月29日時点のアナリスト・コンセンサスEPSを使用)で19.9倍、来期ベースで16.5倍、再来期ベースで14.9倍である。世界的に新型コロナによる影響を強く受ける今期を除外して、来期、再来期で見ても株価には割安感は見られない。むしろ割高である。
■確かに、足もとの経済指標では5月のドイツIFO景気動向指数(5月25日発表)が79.5と前月(74.3)より改善したり、5月の中国財新マークイット製造業PMI(1日)が50.7と節目の50を超えて景況感が回復しつつあり、センチメントの改善を促している面はある。
■しかし、ブラジルをはじめとした南米諸国やインド等の新興国での新型コロナ感染者の拡大(世界の1日の感染者数は5月30日に13.4万人と過去最高を更新)と新興国経済の深刻な悪化。中国全人代による「香港国家安全法」制定方針の採択(28日)ならびにそれに対抗するトランプ米大統領による当局者制裁や香港の優遇処置の廃止(29日)など、国際情勢・経済は楽観できる状況には無い。幸いなことに米国の対抗処置は、米中貿易合意の破棄や中国企業への追加制裁には至らなかったことで市場は安堵したものの、中国が強硬姿勢に転じつつあるように見受けられ、“暴発”が危惧される。
■それでも株式市場が活況であるのは、財政と中央銀行による資金供給の継続に他ならない。国内では財政支出が約72兆円の第2次補正予算が27日に閣議決定された。20年度の国債新規発行額は90兆円まで膨らむ。これを買入れ限度額を撤廃した日銀が積極的に購入することで、0%前後の金利水準が続く。米国も欧州も同じような状況にあり、英国や米国ではマイナス金利政策の可能性が指摘されている。債券市場から行き場を失った消去法的な資金が株式市場を押し上げる。いずれは逆回転が生じるのであろうが、それが何時かは分からない。
■今週は、ISM非製造業景気指数・ADP雇用統計(3日)、米雇用統計(5日)の発表が注目される。米国の失業保険申請者数は過去10週で4千万件に達し、5月の失業率は20%に達するとの見方もある。ただ、楽観市場では既に織り込み済みである可能性も強い。今は財務基盤磐石な堅調銘柄を買うしかない。
◇日経平均妥当水準(レンジ)
19,800円~21,400円 | (前回18,600円~20,100円) |
*「IFIS/TIWコンセンサス225」(5月29日)来期予想ベースEPSをもとに算出
◇IFIS/TIWコンセンサス225(5月29日)
今期予想EPS | 1106.12円 | (前週1097.49円) |
来期予想EPS | 1334.77円 | (前週1327.60円) |
再来期予想EPS | 1485.26円 | (前週1451.26円) |
今期予想PER | 19.78倍 | (前週18.58倍) |
来期予想PER | 16.39倍 | (前週15.36倍) |
再来期予想PER | 14.73倍 | (前週14.05倍) |
来期予想PBR | 1.03倍 | (前週0.96倍) |
来期予想ROE | 6.30% | (前週 6.28%) |
来期予想 インプライド・リスク・プレミアム |
6.23% | (前週 6.37%) |
5月29日 日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出
5月29日時点の今期コンセンサス予想PER 19.78倍、来期 16.39倍、再来期14.73倍。来期・再来期予想EPSの上方への見直しが進むものの、割高感は否めない。「香港国家安全法」に対する米国の制裁は市場予想よりも穏やかなものであったが、引き続き想定外のリスクへの警戒は維持したい。
来期予想ベースのプラス企業比率は、 42.2%→43.7%→55.3%→35.2%→45.5%。
再来期予想ベースのプラス企業比率は、37.6%→41.0%→53.1%→47.0%→54.0%。
再来期ベースが50%超え。経済環境に対する楽観が波及しているのか?
[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]
出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2014年1月から表示
「IFIS/TIWコンセンサス225」について IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。 理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。 4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。 〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕 会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。 〔予想EPS増減社数〕 今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。 〔予想PBR(今期末)〕 前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。 〔予想ROE(来期ベース)〕 前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。 〔リスクプレミアム〕 特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り |