スパークスのまいこばなしIFIS出張版 第10号 「IR活動は株価を上げるため?」

2016/11/07

日本のIR活動が活発に

最近、日本企業がよりIR活動(投資家向け活動)を活発化させています。日本でも「株式会社は株主が所有している」、「企業経営者は自身の利益ではなく、企業価値/株主価値の向上のために働くべきである」という概念が、少しずつ浸透している結果であると思われます。また、アベノミクスの一環として導入された、コーポレートガバナンスコード、日本版スチュワードシップコードは、企業と株主との対話を更に強めるものとなっております。IR活動は当たり前の事として、日本に根付きつつあります。今回は、企業が行うIR活動の難しさや、目的について書いてみたいと思います。

一筋縄ではいかないIR活動

私は、ファンドマネージャーの仕事は、企業のIRがなければ成り立たないと考えています。それほど、株式市場にとってIR活動は重要です。と、同時にIR活動は極めて難しいとも考えています。なぜIR活動は、難しいのでしょうか?

まずは、投資家の属性が様々です。国内投資家もいれば、海外投資家もいます。海外投資家は言語も問題もありますが、文化的な違いもあります。日本は控えめな姿勢や、ライバル企業を尊重することが美徳と思われがちですが、外国では逆に自信のなさと取られることが多々あります。

次に、投資期間の違いです。短期の投資家もいれば、長期の投資家もいます。また事業の理解も大きく異なります。つまり、各投資家の違いが大きいため、受ける質問の幅も極めて広いということです。結果として、質問の幅は、企業の経営理念や歴史、自社の強みといった大枠や、現在の事業環境、国内外のライバル企業の分析、中期・長期の経営・財務戦略、などは当然として、各工場の状態や生産ラインの改善方法、主要製品の動向、採用・人員計画まで、様々なレベルになります。

IR担当の方々は、企業経営レベルの視点と、現場の視点の両方が必要となり、かつ、自分の言葉で議論する必要があることが、IR活動が難しくなる背景です。

IR活動の目的とは?

では、IR活動の目的とはなんでしょうか?現在の株価を上げることでしょうか?積極的にIRをする企業の株価は上がりやすいのでしょうか?

結論から言えば、IR活動の目的は、合理的な株価形成のためです。そして、合理的な株価形成は資本コストを低減し、究極的には企業価値の増大に貢献します。IRとは、金融市場を中心とした、様々な利害関係者(ステークホルダー)への適切な情報提供と議論を通じ、企業に対する合理的な将来像が、株価に反映されることだと思います。そして、合理的に株価が形成されれば、株式市場の驚きが減少し、株価が不必要にアップ・ダウンをしないことに繋がります。これは株価のリスクが低減することになり、資本コストの低下に寄与します。そして、同時に企業価値増大へも寄与することになります。

IR活動も企業経営の一環

IR活動は現在の株価を上げることが目的ではありません。IR活動も企業経営と同じで、短期的な効果を狙うべきではなく、長期的に継続される地道な活動であるべきなのです。

積極的にIR活動をする企業が増え、お会いするIR担当者の素晴らしさには、頭が下がります。一方で、稀ですが、改善しなければならない部分も感じます。ここでは2点、改善すべきケースを書いてみます。

IR活動の改善すべき点とは?

初めのケースは、業績が悪くなったときです。具体的には、先日、あるインターネット企業の調査に行きました。その会社は、コンテンツ提供の会社で、かつては飛ぶ鳥を落とす勢いがあったのですが、変化の早いインターネット業界ゆえ、近年は業績が低迷しています。私は、この会社の復活の可能性を探るため、IR面談の依頼をしました。(私は、常に会社の底力を信じています。どの会社でも危機に陥ると、建て直す大きな力が働くものです。)

しかし、返答は「忙しくて会えない」だったのです。私は、業績が悪い時こそIRに力を入れるべきだと思います。投資家は、業績の悪い企業には近寄ろうとしません。その会社に対する恐怖感が蔓延し、株価は低位で放置されてしまいます。会社は、業績が悪い時こそ、真の実力を示すべきなのです。実際には、業績の良いときに、IRに積極的になり、業績が悪くなるとIRに消極的になる会社が存在するのです。

もう一つのケースは、IRとPR・広報が混同されているときです。旅行代理店のケースを仮定しましょう。宇宙旅行の募集開始というニュースがあるとします。宇宙旅行は、社会の注目を集めるには、インパクトのあるニュースであり、PRのポイントです。しかし、IRでは、あまり意味がありません。企業の将来像に与えるインパクトが限定的と思われるためです。もし宇宙旅行のニュースをIRで説明するのであれば、このニュース/PRによって、どの位、顧客認知度が向上したのか、結果、どの位の旅行予約が増加したのか、今後の業績へのインパクトを説明する流れになるべきだと思います。

まだまだ元気な日本企業

以上のように、日本企業がIR活動を積極化しているのは、株式市場にとって大きなプラスです。日本企業の業績は、足元、円高のマイナスインパクトや訪日需要の一巡もあり、足踏み状態です。しかし、IRでお会いする多くの経営者を通じて感じることは、日本企業はまだまだ元気だと言う事です。中長期での業績改善がIRを通じて適切に株価に反映されることを期待したいと思っています。

 

※当コラムは執筆者の見解が含まれている場合があり、スパークス・アセット・マネジメント株式会社の見解と異なることがあります。

スパークス・アセット・マネジメント株式会社
スパークスの投資情報   スパークス・アセット・マネジメント株式会社
スパークス・アセット・マネジメントが独自のボトムアップ・リサーチを通じて得た日本、アジアの様々な情報をご提供してまいります。
本資料は、スパークス・アセット・マネジメントが情報提供のみを目的として作成したものであり、金融商品取引法に基づく開示書類ではありません。また特定の有価証券の取引を勧誘する目的で提供されるものではありません。スパークス・アセット・マネジメントとその関連会社は、本資料に含まれた数値、情報、意見、その他の記述の正確性、完全性、妥当性等を保証するものではなく、当該数値、情報、意見、その他の記述を使用した、またはこれらに依拠したことに基づく損害、損失または結果についてもなんら補償するものではありません。ここに記載された内容は、資料作成時点のものであり、今後予告する ことなしに変更されることもあります。また、過去の実績に関する数値等は、将来の結果をお約束するものではありません。この資料の著作権はスパークス・アセット・マネジメントに属し、その目的を問わず書面による承諾を得ることなく引用または複製する ことを禁じます。

このページのトップへ