コロナショック以降のヘッジコストと外債投資

2020/05/20

コロナショック以降のヘッジコストと外債投資

1.ドル円のヘッジコストは急低下
2.2020年後半のヘッジコストの見通し
3.ヘッジ外債は米クレジット、投資適格社債などが有力な選択肢

1.ドル円のヘッジコストは急低下

■日本円から外貨建て資産に投資する際、為替レートの影響を回避するには「為替ヘッジ」という手法があります。ドル円であれば、「直物のドル買い・円売り」と、「先物のドル売り・円買い」を同時に行うもので、先物の期間は、1カ月や3カ月などの短期が一般的です。

■ドル円のヘッジコスト(ドルの調達金利)は、日米の金利差とベーシススワップ(上乗せ金利)の合計で決まります。ベーシススワップは、本邦企業や投資家などのドル需要や、グローバルなドル需要の影響を受ける需給要因による部分です。ドルを調達する側が需給に応じた上乗せ金利を支払います。

■ドル円のヘッジコストは、世界的な新型コロナ感染拡大の影響から乱高下しました。3月中旬に一時2.65%まで急上昇した後、足元(5月19日)は0.54%程度まで大きく低下しました。3月中旬のヘッジコストの上昇は、新型コロナ感染拡大と原油価格の急落を受けた金融市場の混乱によってドル需要が急速に高まったため、ベーシススワップが急上昇して米利下げによる日米金利差の縮小を上回ったためです。

■ドル円のベーシススワップは、日米など主要中銀のドル資金供給策の発表や、米連邦準備制度理事会(FRB)の実質ゼロ金利政策、無制限の量的緩和(QE)などの決定によってドル需要が落ち着いたことを受けて急低下しました。この結果、国内投資家のドルヘッジコストは、コロナショック前の2.0%程度から0.6%程度の水準に低下しています。

■ユーロ円のヘッジコストは、欧州の金利が日本の金利を下回っているため総じてマイナス(ヘッジプレミアム)となっており、国内投資家が為替ヘッジをして欧州債に投資した場合、利回りはヘッジプレミアム分高くなります。3月中旬に新型コロナの欧米での感染拡大を受け一時的にプラスに転じましたが、その後、マイナス水準に戻りました。ベーシススワップが一時的に上下した影響を受けたとみられます。

2.2020年後半のヘッジコストの見通し

■次に、今後のヘッジコストの動向を展望します。為替スワップは実質的に資金取引であることから、日本、米国、ユーロ圏の短期金利の動向、すなわち各国中銀の金融政策がドル円、ユーロ円のヘッジコスト(ヘッジプレミアム)に大きな影響を及ぼします。新型コロナ感染拡大により世界的な景気減速が見込まれ、低金利環境が続くとみられるなかで、各国中銀の金融政策とそれに伴う金利差、ベーシススワップの見通しは下記のとおりです。

✓当面は日米金利差・日欧金利差は横ばい

■日本では徐々に経済活動が再開されるとみられます。日銀は量的緩和や企業信用の支援を中心とした緩和に留め、マイナス金利の深堀りは見送るとみられます。

■米国でも徐々に経済が再開されていますが、景気回復のペースは緩やかで、FRBの大規模な金融緩和政策が継続されるため、当面は金利が低位に抑制されるとみられます。

■欧州でも同様に経済が緩やかながら回復に向かうとみられますが、ECBは大規模な金融緩和を継続するとみられます。今後も短期金利は低位で推移する見通しです。

■弊社は、日銀およびFRBとも金融政策を据え置くと予想します。ECBには利下げ余地がありますが、金利引き下げ幅は大きくならない見込みです。日米金利差、日欧の金利差ともに、当面横ばい推移が続くと見込んでいます。

✓ベーシススワップは低水準も不安定化

■ドル円のベーシススワップは、特にドルの資金需要の影響を受けます。3月には金融市場の混乱からドル需要が極端に高まりましたが、FRBの積極的なドル供給や大規模な金融緩和により、ドル需給は落ち着きました。今後は新型コロナの経済・金融市場への影響が徐々に低下するため、ベーシススワップは不安定ながらも低水準で推移するとみられます。

■ユーロ円でもベーシススワップが上昇した後、低下しました。当面、低水準で推移すると見込まれます。

■経済は徐々に再開されていきますが、新型コロナの感染再拡大への懸念は残ります。当面ベーシススワップはドル円、ユーロ円ともに低水準も不安定な動きが見込まれます。

✓2020年後半のヘッジコストは低水準続く

■日米、日欧間の金利差が動かず、ベーシススワップは低水準での推移が見込まれるため、2020年後半のドル円のヘッジコストも低い水準で横ばい、ユーロ円のヘッジプレミアムも現行水準で横ばいが続く見通しです。

3.ヘッジ外債は米クレジット、投資適格社債などが有力な選択肢

■2020年に入り、国内投資家の外国債券への投資が活発化しました。日本の10年以下の国債利回りがマイナス圏に沈むなかで、利回りを得ようとする国内投資家が外債投資を選択していることが背景と考えられます。しかし、4月は新型コロナ感染拡大の影響などから売り越しに転じました。

■足元の新型コロナ感染拡大は米欧ではピークを越えたとみられ、経済再開に向け、ロックダウン(都市封鎖)などの措置が解除されはじめています。これに伴い金融市場も落ち着きを取り戻しつつあり、5月は再び買い越しに転じています。

■新型コロナの経済への悪影響は当初予想されたよりも甚大なものとなったことに加え、今後も完全に収束するまで時間がかかる可能性があります。インフレ圧力は高まらない状況が続くとみられ、低金利環境は当面続く模様です。こうした状況下、利回りを得ようとすれば、高利回りの社債など、クレジットリスクをとることが有力な選択肢になります。

■一方で、ハイイールド債券市場では3月以降、コロナショックによる業績悪化見通しや、経済停滞による原油需要の減少と協調減産交渉の決裂などによる原油安の影響から多くの企業の信用格付けが引き下げられました。

■FRBは社債購入プログラムを拡充し、3月22日時点で投資適格債券だったものの、その後格下げされた「BB-」格以上のハイイールド債券を購入対象に含めることを決定しました。FRBの政策対応によって、ハイイールド債券の信用スプレッド拡大に歯止めが掛かるものの、セクター、銘柄などでの選別が進むことが予想されます。

■前述のとおりドル円のヘッジコストは足元で1%を割り込み0.6%程度と、1月対比でも1%以上低下しています。国内投資家にとっては、米国クレジット物のヘッジ外債の魅力が高まっています。米長期金利(10年国債利回り)は0.7%程度となっており、ヘッジコスト控除後の利回りが殆どなくなってしまうことから、リスクの低い投資適格社債も有力な選択肢となるでしょう。弊社は2020年後半の見通しについて、ドル円をレンジ相場、米長期金利は小幅な上昇に留まるとみています。

(2020年5月20日)

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