日本の緊急事態宣言と経済、株式市場

2020/04/15

日本の緊急事態宣言と経済、株式市場

1.安倍首相が「緊急事態宣言」を発令、緊急経済対策は過去最大
2.2020年度の実質GDPは▲4.3%を予想
3.日本株式市場は上値の重い展開、焦点は国内の感染者数

1.安倍首相が「緊急事態宣言」を発令、緊急経済対策は過去最大

■安倍首相は4月7日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部で特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を発令しました。対象区域に指定されたのは、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県で、実施期間は5月6日までとなります。宣言が出たことで都府県の知事は外出自粛や営業休止を要請しました。これにより7都府県を中心に日本の経済活動が大幅に抑制されることになります。

■緊急事態宣言の発表と同日に、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定されました。事業規模は108.2兆円、財政支出は39.5兆円と、リーマン・ショック後に取りまとめられた2009年の対策(事業規模56.8兆円、財政支出15.4兆円)を大きく上回り、過去最大となりました。ただし、今回の緊急経済対策が従来のものと異なるのは、大規模な公共投資が計上されていないことです。この対策は感染症への対応が中心であり、経済成長率の押し上げが主目的ではないため、財政規模の割には、最終需要を直接刺激する効果は大きくないと考えられます。

■日本の緊急事態宣言では、外出自粛や営業停止などは要請にとどまるため、強制力はありません。日本は、欧米のロックダウン(都市封鎖)のような強硬手段はとらず、緩やかな規制で経済活動を極力維持する方針です。このため新型コロナの感染収束には、住民や事業者の強い危機感を持った行動が求められます。しかしながら、宣言後の人の動きをみると政府の目標水準に達しておらず、安倍首相は11日、7都府県の全事業者にオフィス出勤者を最低7割、極力8割削減するよう要請しました。政府の狙い通りに感染拡大を封じ込めることができるかどうかは不透明です。

2.2020年度の実質GDPは▲4.3%を予想

■弊社では、政府の緊急事態宣言と緊急経済対策の発表、海外経済のロックダウンによる下振れを踏まえて、日本の実質GDP成長率の見通しを下方修正しました。具体的には、実質GDP見通し(前年度比)を2020年度▲4.3%、2021年度+2.4%とし、2020年度の経済成長率を大きく引き下げました。同年度は、リーマン・ショックが起きた2008年度の▲3.4%より大幅なマイナス成長になる見込みです。四半期ベースでは、2020年4‐6月期に前期比年率▲17.4%と、二桁マイナスを予想しています。

■2020年度実質GDP見通しの大幅引き下げの要因は、新型コロナの感染拡大の影響による、個人消費の落ち込み、輸出の減少、設備投資の減少です。

■まず、消費に与える影響を考えます。弊社では、新規感染者数が4月にピークアウトし、6月に一巡するとの想定を置いています。これまでのところ、国内の新規感染者数は増加傾向が続き、7都府県に緊急事態宣言が発出されました。これら地域におけるイベント・外出自粛の影響などにより、今後は、徐々に新規感染者数の増加ペースが鈍化に向かい、感染者数も緩やかに減少に向かうと考えられますが、全国的な自粛は6月まで続くと想定します。その後、消費行動は正常化の方向に向かうものの、感染の短期収束が見込み難い中では、そのペースは緩やかなものになると思われます。こうした中、2020年度の個人消費は▲4.2%と大きく下振れすると予想しました。

■純輸出については、新型コロナの感染拡大によるロックダウンの影響で海外経済見通しを下方修正したことに伴い、日本の輸出環境が極めて厳しくなることを踏まえ、2020年度の輸出を▲17.1%へ引き下げました。この結果、純輸出は▲0.5%と想定しました。

■上述の通り、内外需が減少する中で、企業は設備過剰感を強める公算が大きく、2020年度の設備投資は▲10.8%と厳しい落ち込みになると見込みました。

■なお、緊急経済対策による実質GDP押し上げ効果は0.7%と見込んでいます(各施策の平均的な財政乗数は0.2程度を想定)。今回の対策は、感染症に対処するものであり、大型の公共投資は含まれていないため、財政規模に比べ、最終需要を直接押し上げる効果は小さいと思われます。今年度の成長率予想の▲4.3%は、この経済押し上げ効果を反映したものです。

3.日本株式市場は上値の重い展開、焦点は国内の感染者数

■3月下旬以降、日本株式市場は戻り歩調にあります。日経平均株価は4月14日、1万9,638円81銭と、約1カ月ぶりの高値で引けました。米連邦準備制度理事会(FRB)などの中央銀行の金融緩和政策で、金融危機は封じ込められるとの見方から世界の株式市場の戻り歩調が続いている中、日本株式市場も売られすぎの修正が進みました。安倍首相の緊急事態宣言や政府の過去最大の大型経済対策はひとまず好感された値動きとなっています。

■ただ、世界的な株式市場上昇の背景には、欧米の新規感染者数の増加に鈍化傾向が出できていることがある一方、日本の感染拡大ペースは急速ではないものの加速しています。日本の緊急事態宣言は、欧米に比べると休業要請や外出制限が緩いため、感染抑制の効果には不透明感があります。政府が極力求めている人との接触の8割削減が出来れば、新規感染者数の抑制効果が出始めると考えられるため、まずは人々の外出の自粛度合いが注目されます。

■感染者数の増加ペースに歯止めがかからなければ、今後、米国などの株買いの動きに日本株が追随できるとは限りません。ちなみに、東京証券取引所が9日に発表した4月第1週(3月30日~4月3日)の投資部門別売買動向によると、海外投資家の日本株の売り越しは8週連続となりました。2月以降海外投資家による日本株の現物売りは続いており、日本株離れが進んでいます。

■こうした中、日本株式市場では、新型コロナの感染拡大による経済停滞が業績に及ばす影響を見極めるため、国内投資家は様子見姿勢を取ると思われます。このように内外の投資家が慎重なスタンスを続ければ、積極的な買いは入りにくく、株式市場は上値が重い展開が見込まれます。

■緊急事態宣言に伴う景気の下振れについては、3月中旬までの急落過程で、ある程度市場に織り込まれていると思われます。ただし、感染者数に歯止めがかからなければ、外出制限が延長される可能性もあり、その場合は景気見通しが一段と下方修正されるとみられます。日本株が二番底をつけるか、回避できるかは、やはり感染者数の動向が、すなわち人々の行動自粛度合いがカギを握っていると考えられます。

(2020年4月15日)

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