英議会のEU離脱案採決~直前のチェックポイント
市川レポート(No.617)英議会のEU離脱案採決~直前のチェックポイント
- EUからの離脱案は1月15日に英議会下院で採決が行われるが、現行の案は否決される見通し。
- ただ否決後の代替案はまとまっておらず、状況次第では再国民投票など様々な展開が想定される。
- 紆余曲折があっても最終的には「合意あり」の離脱で着地を予想、市場の懸念は徐々に弱まろう。
EUからの離脱案は1月15日に英議会下院で採決が行われるが、現行の案は否決される見通し
英議会下院は1月15日、欧州連合(EU)からの離脱案について採決を行います。現行の離脱案は図表1の通りですが、アイルランドとの国境問題について、与党保守党内の強硬離脱派と、保守党に閣外協力する英領北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)から強い反発を受けています。現時点で、保守党の100名以上、DUPの10名、野党の大半が現行の離脱案に反対しているとみられ、可決は困難な状況です。
否決の場合、政府は議会の3営業日以内に代替案を出し、再び採決が行われることになります。保守党の党首であるメイ首相にとって最善のシナリオは、アイルランドとの国境問題について、「安全策(バックストップ)」が一時的であることの法的な保証をEUから得ることです。これにより、強硬離脱派とDUPの支持を取り付けることが可能になりますが、EU側に法的保証を供与する動きはみられません。
ただ否決後の代替案はまとまっておらず、状況次第では再国民投票など様々な展開が想定される
現時点でEUから法的な保証が得られるか否かは不確実性が高いため、メイ首相は別の選択肢も準備しているとみられます。具体的には、現行の離脱案の一部を修正し、野党労働党からの支持を獲得するというものです。労働党は、EUとの摩擦のない貿易関係や、労働者の権利保護を主張しているため、メイ首相がこれらをどこまで修正案に反映させることができるかが焦点になります。
修正案に対しては、労働党議員のうち40名~80名が最終的に賛成するとの一部報道もみられますが、これも不確実性が高い状況です。そのため、今後の展開として、①EUとの再交渉による「ノルウェー・プラス型」(図表2)など新案の策定、②再国民投票の実施、③総選挙の実施、④離脱の取り止め、⑤「合意なし」の離脱が考えられますが、これらはいずれも起こり得ることになります。また、①~③の場合は、3月末の離脱期限が延長される公算が大きくなります。
紆余曲折があっても最終的には「合意あり」の離脱で着地を予想、市場の懸念は徐々に弱まろう
なお、現行の離脱案の否決はある程度想定されているため、実際に否決された場合でも、市場は極端に動揺することなく、冷静に次の展開を見守ることになると思われます。そのため、英ポンドやユーロの対米ドル為替レートについては、否決後の一時的な変動幅の拡大は想定しておく必要があるものの、米国株や日本株の下落など世界の株式市場に混乱が広がる恐れは小さいとみています。
基本的に、英議会の与野党およびEUとも、「合意なし」の離脱を回避したい点では一致しています。その限りにおいては、多少の紆余曲折があっても、最終的には「合意あり」の離脱で着地が予想されます。また、EUの欧州委員会はすでに合意なしの離脱に備え、デリバティブ(金融派生商品)取引などの混乱回避のために緊急対応策をまとめています。EU離脱問題の先行きは依然不透明ですが、市場の懸念は徐々に弱まると考えています。
(2019年1月15日)
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