年初のリスクオフ相場について
市川レポート(No.613)年初のリスクオフ相場について
- 中国PMIや米国ISM製造業景況感指数の悪化などを背景に、年初からリスクオフの動きが強まる。
- 市場は世界景気の急減速への強い懸念を抱えており、一部で早々に米利下げを織り込む動きに。
- 市場の安定には不安を和らげる材料が必要で時間がかかるとみるが利下げ織り込みは行き過ぎか。
中国PMIや米国ISM製造業景況感指数の悪化などを背景に、年初からリスクオフの動きが強まる
2019年は年初から市場でリスクオフ(回避)の動きが強まりました。これは、世界景気の先行きに不安を抱かせるような悪材料がいくつか重なったためと思われます。具体的には、まず中国国家統計局と、中国メディアの財新および英金融情報会社IHSマークイットが先週発表した2018年12月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が、いずれも好不況の節目である50を割り込んだことです。
次に、米アップルが1月2日に中国を含む中華圏の販売低迷を理由として、2018年10-12月期の売上高見通しを下方修正したことです。これにより、中国の景気減速やスマートフォンの需要減退の思惑が浮上しました。また、米サプライマネジメント協会(ISM)が1月3日に発表した2018年12月の米製造業景況感指数が市場予想を大きく下回ったことで、貿易を巡る米中の対立が景況感悪化につながったとの見方が広がりました。
市場は世界景気の急減速への強い懸念を抱えており、一部で早々に米利下げを織り込む動きに
今の市場は、世界景気の急速な冷え込みに対する強い懸念を根底に抱えているため、これを助長させる前述のような悪材料には、過度なリスクオフで反応してしまう状況にあります。実際、米国のフェデラルファンド(FF)金利先物市場の動きをみると、1月3日時点で2019年の利上げ確率はゼロとなり、米連邦公開市場委員会(FOMC)の会合を重ねるごとに、利下げの織り込み度合いが強まっている様子がうかがえます(図表1)。
このような状況下、先週は米10年国債利回りが一時2.54%台まで低下し、ドル円相場は1ドル=104円87銭付近までドル安・円高が進行しました。なお、日経平均株価は1月4日の大発会で、前年末比452円81銭安の19,561円96銭で取引を終えました。1949年に東京証券取引所が再開して以降、大発会での最大の下げ幅は、リーマン・ショックが起きた2008年の616円37銭でしたので、これを上回ることは避けられました(図表2)。
市場の安定には不安を和らげる材料が必要で時間がかかるとみるが利下げ織り込みは行き過ぎか
なお、日経平均株価は2016年の大発会で582円73銭と比較的大きな下げを記録しました。これについては、2016年1月25日付レポート「リスクオフ相場~リーマン・ショックとの相違点」において、中国の景気減速や原油安を背景とする先物主導によるもので、金融システムにダメージを与える類のものではなく、過度な警戒は不要と指摘しました。結局、2016年通年の日経平均株価は、前年比小幅高で取引を終えています。
今回も基本的な考え方は同じです。ただ、市場が落ち着くには、米中経済の底堅さを示す経済指標や、米中貿易摩擦問題および英国の欧州連合(EU)離脱問題の進展など、不安を和らげる材料が必要で、幾分時間が掛かるとみています。それでも米利下げの織り込みは行き過ぎであり、例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを一時停止、またはバランスシート縮小ペースを減速させるだけでも、市場には安心感が広がります。その意味で、良好な結果となった2018年12月の米雇用統計や、柔軟な政策対応を示唆したパウエルFRB議長発言を受けた1月4日の米株急騰は妥当な反応といえます。
(2019年1月7日)
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