ブラジルの政治リスクが市場に与える影響
市川レポート(No.394)ブラジルの政治リスクが市場に与える影響
- テメル大統領の不祥事隠ぺい疑惑で、財政再建の遅延を嫌気したブラジル市場はトリプル安に。
- 市場では大統領辞任・弾劾の見方も、混乱の幕引きには年金改革を推進する人物が求められる。
- ブラジル市場の混乱が他の市場に広がる可能性は低く、ドル円相場や日本株への影響は限定的。
テメル大統領の不祥事隠ぺい疑惑で、財政再建の遅延を嫌気したブラジル市場はトリプル安に
ブラジルでは先週、テメル大統領の不祥事隠ぺい疑惑が浮上しました。きっかけは5月17日付現地紙「オ・グローボ」の報道で、テメル大統領が食肉大手JBSバチスタ会長に、クーニャ前下院議長(昨年10月に収賄容疑で逮捕)への口止め料支払いを指示した隠し撮りテープが最高裁判所に提出されたという内容でした。これを受けブラジルの金融市場に動揺が広がっています。
市場では、テメル大統領が推進する年金改革法案について、国会での年内承認が難しくなったとの見方が強まり、財政再建が遅れるとの思惑からレアルが対ドルで急落、国債価格も大幅に下落(利回りは上昇)しました(図表1)。また急速なレアル安進行は、追加緩和の継続を困難にする恐れもあることから、景気先行き懸念でボベスパ指数も大きく値を下げています。
市場では大統領辞任・弾劾の見方も、混乱の幕引きには年金改革を推進する人物が求められる
米格付け会社大手のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5月23日、ブラジル政府の外貨建て長期債務格付けについて、引き下げ方向の「クレジットウォッチ」に指定したと発表しました(図表2)。テメル大統領が疑惑を払拭し、政権を維持できたとしても、年金改革法案の推進が困難となれば、格下げの実現性は高まるため、ブラジル金融市場の混乱は長期化する恐れがあります。
市場では、テメル大統領の辞任や弾劾を見込む向きも増えていますが、テメル大統領自身は5月18日のテレビ演説で辞任を否定しています。一方、弾劾については、通常のプロセスで上下両院の3分の2以上の賛成が必要となりますが、選挙高等裁判所が、2014年の大統領選挙の不正疑惑を審議し、当選無効と判断すれば、テメル大統領は辞職となります。次の暫定大統領に関する市場の見方は固まっていませんが、混乱の幕引きには、不正疑惑がなく、かつ年金改革推進を期待できる人物が求められます。
ブラジル市場の混乱が他の市場に広がる可能性は低く、ドル円相場や日本株への影響は限定的
レアルは5月18日、対ドルで一時1ドル=3.4109レアル水準まで下落しましたが、週明け22日には3.2633レアル水準まで戻すなど、いったん落ち着いた動きとなっています。市場では更なるレアル安を見込む向きもみられますが、ここまでのレアル相場をみる限り、政局混迷やテメル辞任など、目先想定される材料は、いったん織り込まれた可能性があります。
それでもレアル相場のみならず、ブラジル金融市場全般に、テメル大統領の進退を巡るニュースに、神経質な反応を示すことが予想されるため、当面は警戒が必要です。ただ今回の政治リスクはブラジル国内にとどまる話であり、他の新興国市場に波及する類のものではありません。そのためブラジル発で世界の金融市場にリスクオフ(回避)の動きが広がる可能性は低く、ドル円相場や日本株への影響は限定的と考えます。
(2017年5月23日)
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