原油急落と関連市場の反応

市川レポート(No.364)原油急落と関連市場の反応

  • 足元の原油急落は、在庫増による需給悪化懸念と、ドル高進行による割高感の強まりが主要因。
  • 原油続落で、関連資産や新興国資産が大幅安となれば、円高と日本株下落を誘発する恐れも。
  • この先の原油価格は需給とドル相場がポイントに、現時点で円高と日本株下落リスクはまだ小さい。

足元の原油急落は、在庫増による需給悪化懸念と、ドル高進行による割高感の強まりが主要因

米エネルギー情報局(EIA)が3月8日に発表した週間原油統計によると、米原油在庫は9週連続で増加し、3月3日時点で5億2,839万バレルと、過去最高水準に達しました。統計発表後、需給悪化懸念からWTI原油先物価格は大幅に下落し、3月9日の取引時間中に、一時1バレル=48ドル59セントの安値をつけ、昨年12月15日以来の50ドル割れとなりました。

またドル高も原油安要因と考えられます。この1、2週間で、米金融当局者から早期利上げを示唆する発言が相次ぎ、市場で3月の米利上げが急速に織り込まれました。その結果、ドルが対主要通貨で上昇し、ドル建てで取引されている原油価格の割高感が強まりました。これが高水準に積み上がった投機筋の買いポジションの解消を促し、原油価格の下落につながったものと推測されます(図表1)。

原油続落で、関連資産や新興国資産が大幅安となれば、円高と日本株下落を誘発する恐れも

一般に原油安は、カナダドル、ノルウェークローネ、ロシアルーブルなど産油国通貨の対ドル為替レートの下落につながりやすく、またエネルギー関連企業の起債が多い米ハイイールド債券や、資源関連事業の多いMLP(Master Limited Partnership、米国で行われる共同事業形態のひとつ)の価格下落要因と考えられています。これらの資産について、実際にこの2週間程度の価格変化をみると、やはり原油安に連れて下落しています(図表2)。

またドル高の進行により、相対的に新興国通貨が下落し、新興国株式の下落も足元で見られています。これらの動きを勘案すると、この先、原油安とドル高が一段と進行した場合、原油関連資産や新興国資産の更なる下落につながる恐れがあります。それが結果的にリスクオフ(回避)の円高を誘発すれば、やはり日本株にも相応に下押し圧力が生じることになると思われます。

この先の原油価格は需給とドル相場がポイントに、現時点で円高と日本株下落リスクはまだ小さい

今後の原油相場を見通す上では、原油の需給動向とドル相場が重要なポイントと考えます。需給動向については、米国の原油増産傾向が続くかどうか、石油輸出国機構(OPEC)加盟国を中心とする減産が進展するかどうかが焦点です。前者は米国の週間原油統計、後者は3月14日公表予定の2月のOPEC月報で、それぞれ確認することになります。そしてドル相場については、3月14日、15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に注目が集まります。

今回のFOMCで、緩やかな利上げペースの維持が改めて示された場合、過度なドルの上昇は抑制され、新興国の通貨や株式の大幅な下落は回避されると思われます。また原油需給に関する新たな悪材料が浮上しない限り、足元の原油安は緩やかなものにとどまると考えます。そのため、円高と日本株下落のリスクが一気に顕在化する公算は、今のところは小さいとみています。

 

170310図表1170310図表2

 

 (2017年3月10日)

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