為替ヘッジコスト~ここまでの動きとこれからの動き
市川レポート(No.356)為替ヘッジコスト~ここまでの動きとこれからの動き
- 為替ヘッジコストは、日米金融政策の方向性や日米投資家の運用・調達ニーズの影響を受ける。
- 昨年は米MMF改革に起因して為替ヘッジコストが上昇したが、その影響は足元ですでに一巡した。
- 為替ヘッジコストは、日米金利差の上昇要因は残るが、昨年より緩やかな上昇にとどまる可能性も。
為替ヘッジコストは、日米金融政策の方向性や日米投資家の運用・調達ニーズの影響を受ける
為替ヘッジとは、例えば円からドル建て資産に投資する場合、ドル円レートの変動によって円建てリターンが変動するリスクを回避する手法です。具体的には為替スワップという取引を行いますが、これは直物のドル買い・円売りと、先物のドル売り・円買いを同時に行い、実質的にドルを借りて円を貸すという資金取引です。そのためドルの借入金利が上昇するなどした場合は円建てリターンが低下し、為替ヘッジコストが発生します。
ドル円の為替ヘッジコストが変動する要因としては、主に①ドル金利の変動、②円金利の変動、③ドル資金を調達したい投資家の動向、④円資金を運用したい投資家の動向、が挙げられます。またそれぞれに影響を与える主体を単純に考えれば、①については米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策、②については日銀の金融政策、そして③は日本の機関投資家、④は米国の機関投資家となります。
昨年は米MMF改革に起因して為替ヘッジコストが上昇したが、その影響は足元ですでに一巡した
ドル円の為替ヘッジコストは2016年の年初から上昇傾向にありました(図表1)。これは2016年8月3日付レポートで解説した通り、2016年10月14日から施行された米MMF改革の影響と思われます。この改革により、日本など米国外の金融機関はCP発行でのドル調達が困難になりました。そして資金市場でドル調達を増やした結果、米金利が上昇し、ヘッジコスト上昇につながったと推測されます。
ただ為替ヘッジコストは米MMF改革の施行後、12月の年末要因および米利上げ要因を除き、低下傾向を辿っています。これも2016年10月17日付レポートで指摘した通り、米MMF改革に起因するドル需要の一服で、為替ヘッジコストが落ち着いたためです。実際にプライムMMF(主にCPやCDなどに投資)の残高は底を打って微増に転じ、CPの総発行残高も回復しており(図表2)、米MMF改革の影響は一巡しています。
為替ヘッジコストは、日米金利差の上昇要因は残るが、昨年より緩やかな上昇にとどまる可能性も
前述の①~④に基づき、為替ヘッジコストの今後を展望します。①と②の日米金融政策について、弊社は米国で年内2回の利上げ、日本は年内据え置きと予想しており、日米金利差は為替ヘッジコストの上昇要因と考えます。一方、③のドル資金を調達したい日本の機関投資家は、トランプ米大統領誕生後の米長期金利上昇で、中長期債(ヘッジ付米国債など)を売り越す傾向にあり、これが足元の為替ヘッジコストの低下につながっています。
現在、長期および超長期の日本国債利回りはプラス圏で推移しており、日本の投資家が日本国債への投資を見直せば、為替ヘッジコストの上昇抑制に作用します。④については、米国の機関投資家がヘッジ付日本国債への投資を増やせば、為替ヘッジコストの押し下げ要因となりますが、③の動きに比べると一般に影響は小さいとみられます。以上より為替ヘッジコストは、引き続き日米金利差が上昇要因となるものの、昨年より緩やかな上昇にとどまる可能性があると予想します。
(2017年2月16日)
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